和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
16 / 127
第一章・はじまりの物語

技の伝授と最重要の儀式

しおりを挟む


「技、っすか? 師匠が直々に、俺に?」

「そう硬くなるな。なんてことはない、基本の技を教えるだけだ。ただ、その技をお前の並外れた気力を注ぎ込んだ『紅龍』で繰り出せば、とんでもない威力になるがな」

 宗正の言葉に体を震わせた燈は、続く彼の言葉を聞いてごくりと息を飲んだ。
 たとえそれが基本的な技であろうとも、師である宗正から直々に教えを受けるというのはやはり気分が厳かになるというものだ。彼の剣技を見ることが出来るというのも、その気分に拍車を掛けている。

 いったい、宗正の技量はどの程度なのだろうか?
 刀匠としては超一流であることは聞いているが、剣士としての腕前は如何なるものなのかと期待を疼かせる燈の前で、宗正が武神刀を構える。

「こぉぉぉぉぉ……っ」

 大きく息を吐きながら、刀を上へと持ち上げる。
 腰を落とした、どっしりとした構えを見せ、掲げた刀を左手でしっかりと握る。右手はただ添えるように、力を入れ過ぎない状態で柄に触れていた。

 右腕と右足を前に出していた蒼の構えとは真逆。前に出ているのは左足で、腕も左の方が前に出ている。
 堂々とした様子で上段に刀を構える宗正の姿は、元々の筋肉隆々とした体格と相まって、凄まじいまでの威圧感を放っていた。

「……これが、火の構えだ。本来なら初級者に教えるような代物じゃあないが、この技の威力を最大限に高めるにはこれが一番だから見せた。防御や回避、持久性を犠牲に次に繰り出す一撃の速度と威力を跳ね上げる、諸刃の剣みたいな構えだってことは覚えとけ」

「は、はいっ!!」

「んで、ここからが本番だ。見てろ」

 赤熱した武神刀の刃が空に舞う埃を焦がす臭いが漂う。チリチリという、火花が舞い散る音もだ。
 背後から見ても、今の宗正が途轍もない闘気を放っていることがわかった。もしも正面から彼と対峙していたなら、喧嘩慣れしている燈ですらもまともに動けぬほどの威圧感を感じていただろう。

 これが、宗正の本気。自分たちには窺い知れない修羅場を潜り抜けた、見るからに只者ではない彼の見せる剣士としての姿。
 上段に刀を構えるその後ろ姿からは流麗さなどは感じない。ただ目の前にある敵を滅するための力強さ、燃え盛る炎のような激しい気力の膨れ上がりが、圧倒的な闘気となって宗正の周囲に放たれている。

「……はっ!!」

 その闘気が爆発寸前にまで膨れ上がった瞬間、宗正が動いた。
 刀を構え、支えている上半身からではなく、足から前へ。重心をブレさせず、瞬時に標的である岩との距離を詰めるその動きに合わせて、両の腕が動く。

 刀を押し出すようにして、右手が前に動く。あくまで主導は左腕の動きであり、その補助を務めるだけの右腕は、しっかりとその役目を果たした。
 柄を掴み、刀を振り下ろす左腕が、真っ直ぐに岩へと伸びる。空を裂く音が響き、まるで火が着火する瞬間を見ているかのような感覚を覚えた燈の目の前で、大きく炎が弾けた。

 紅蓮の炎を纏うのではない。斬撃に合わせ、直撃の瞬間に炎を発生させる。
 視覚を気力によって強化していた燈には、宗正の繰り出した一撃が無駄なく気力を放出したことが理解出来た。
 これはただ炎を纏っただけの振り下ろしではない。基礎中の基礎を限界まで突き詰め、全てを最大効率で行った末に完成する必殺の一撃だ。

 燈ほどの気力を用いていないはずの宗正の一撃によって、標的となった岩は粉々に砕け散り、地面には焼け焦げた跡が残っている。
 ほんの数秒だけではあるが、先の燈が作り上げた火柱と同等の火力を自身の眼前に燃え上がらせた宗正は、その炎が消え去ったことを確認してから弟子たちの方へと振り返った。

「こいつが火の武神刀の基本剣技【ほむら】だ。振り下ろしの動きに合わせて極限まで高めた気力を文字通り爆発させることで、強烈無比な一撃を繰り出す。わしは上段の構えから放ったが、中段から撃っても十分過ぎる威力が出るぞ」

「こ、これが基本の技なんすか!? なんかもう、必殺奥義くらいの感じがしたんすけど!?」

「当たり前だ。どんな技も、まずは基本に基づいて作りだされる。完成された奥義ってのは、究極的に突き詰めると超凄い基本の技だってことなんだよ」

「な、なるほど……よくわからないっすけど、わかりました!」

「で、どうだ? 自分が今から習得する技を見た感想は? 出来そうか? 自信はあるか?」

 服についた土埃を払いながら、ニヤニヤと笑う宗正がそう燈に尋ねた。
 初めて目の当たりにした武神刀の力を彼がどう感じたのか? それを自分が扱うようになると理解した今、彼は何を思うのか?
 そのことを知りたがる正宗は、燈の胸中を探るための質問を投げかけたわけだが、彼の口から返ってきたのは、予想外の一言だった。

「いや、なんつーか……格好よかったっす、師匠!」

「……は?」

「初めて師匠が刀を振るう姿を見たっすけど、やっぱ只者じゃない感が半端なかったっていうか……基本を完璧にマスターしてるって感じで、滅茶苦茶カッコいいと思いました!!」

「お前、あのな……わしが聞きたいのは、そういうことじゃなくってだな……」

 無垢に師の精悍な姿を褒めちぎる燈に対して、呆れた様子で言葉を失う宗正。
 しかし、彼が弟子からの褒め言葉に照れていることは隠し切れておらず、珍しく狼狽している師匠の姿を見た蒼は、その微笑ましい光景についつい笑みを浮かべてしまう。

「あ~、もう、調子が狂う! 取り敢えず、今日は技の訓練をしておけ! それと、今晩にもっと大事な修行についての話をするから、そのつもりでいろ! わかったな!?」

「はい、師匠!!」

 完全に照れてしまっている宗正がズガズガと大股で住処へと戻っていく。
 そんな彼の心中など気にせず、師匠から預けられた武神刀を完璧に使いこなせるようになると意気込む燈は、早速気力の適正量を探る訓練を始めていた。

 そんな二人の様子を見て、楽しそうに蒼が笑う。
 燈を迎え、良い刺激を受けたのは自分だけではない。自分とはまた違う雰囲気の燈のお陰で、二人きりで過ごしていた時とは違う感覚を宗正も得ているのだ。

 良き師は強き弟子を育て、良き弟子は師を更に成長させる……また一つ、燈が来てくれたお陰で成長を感じられる要素を見つけ出した蒼は、これから戦友となる弟弟子に手を貸すべく、彼の修行に付き合うのであった。

――――――――――





――――――――――

 そして、夜。昼同様に夕食を終えた二人は、宗正の前に並んで正座していた。
 昼の修行の際、宗正は夜に大事な修行についての話をすると言った。それが何であるかはわからないが、武神刀の扱いよりも重要な修行だ、相当に激しく困難なものであることは間違いない。

 その予想に正しく、非常に厳格な雰囲気を纏った宗正は、自分に真剣な眼差しを向ける二人の弟子に向かって小さく頷くと、静かな声で語り始めた。

「お前たち、わしが昼に話したことを覚えておるな? お前たちには明日から、非常に重要な修行……いや、これは儀式と言った方が正しいな……に身を投じてもらう!」

「儀式、っすか? やっぱり、武士団として活動するにあたって、身を清めるとか……?」

「うむ、そんな感じだ。これはお前たちが世に出て、剣士として活躍する際に非常に役立つ儀式となる。気合を入れて挑めよ」

 普段行っている修行とはまた違う何かをすることを告げられる燈と蒼。
 それが何であるかはわからないが、宗正の様子から察するに相当重要な事柄らしい。であるならば、彼の言う通り、気合を入れて臨まなければなるまいと背筋を伸ばした二人に対して、宗正が更に続ける。

「その儀式の内容だが、ここから東に九つほど山を越えた所に輝夜かぐやという街がある。お前たちにはまず、そこに行ってもらう」

「輝夜……? 輝夜ってまさか、あの輝夜ですか!?」

「うむ、あの輝夜だ」

 宗正の発した街の名を耳にした蒼の表情が、驚きの色に染まった。
 とても信じられないといった、心の底から驚愕しているようなその表情を目にした燈もまた、妙な緊張感に心を鷲掴みにされる。

 自分は大和国に来てから日が浅い。宗正が言った輝夜という街がどんな場所であるのかもまるでわからない。
 だが、蒼の反応から察するに、普通の街ではないことは明らかだ。

 もしかしたら、某世紀末英雄伝説的な世界観の漫画に出て来る無法地帯と化した街なのかもしれない。
 あるいは、名のある剣豪たちが集う、剣士たちにとっての聖地のような場所なのかも……と、燈が様々に想像を膨らませる中、弟子たちに遠出を命じた宗正は、一度咳ばらいをすると、話を再開した。

「良いか? これは本当に重要な儀式だ。お前たちならば、明日の朝にここを発てば日が沈む頃には輝夜に辿り着けるだろう。そうしたならばお前たちはその日の内に――」

 そこで一度、宗正が言葉を区切る。間を開け、次に発する言葉が真に重要なことであることを強調するかのように。
 燈はそんな宗正の顔を真剣な表情で見つめ、宗正もまた大真面目な顔で燈を見返しながら、非常に重要な儀式の内容を彼へと告げた。

「――遊郭に行き、童貞を捨ててこい」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...