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第1章
第10話
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翌朝、目を覚ますと既に昼を過ぎていた。慌てて飛び起きると、すぐに身支度を整えてから部屋を出た。目指す場所はただ一つ、殿下の元だ。昨晩のことを報告しなければならないと思ったのである。
しかし、王宮の近くを探してみたもののどこにも見当たらなかった。まさか婚約破棄された身で中に入るわけにもいかない。
仕方なく諦めて自室に戻るとベッドに腰掛けながら考えを巡らせる。
(どうしたらいいんだろう……)
そう思い悩んでいると扉がノックされる音が聞こえてきた。誰だろうと思いながら返事をすると、聞き覚えのある声が聞こえたので驚いた。
「失礼する」
そう言って入ってきた人物を見て思わず目を見開いた。そこにいたのは紛れもなく殿下だったからだ。彼はこちらに歩み寄るなり声をかけてきた。
「体調の方は大丈夫か?」
その問いに頷くと安心したように微笑んだ後、私の隣に座った。突然のことに戸惑っていると、彼が言った。
「昨日はすまなかった……」
その言葉にハッとして顔を上げるも、すぐに俯いてしまう。そんな私に彼は続けて言った。
「言い訳になってしまうかもしれないが、あの時はどうかしていたんだ」
そう言う彼の表情はとても悲しげだった。それを見て胸が苦しくなるのを感じたが、同時に違和感を覚えたのも事実だった。なぜならあの場にいた時の彼とはまるで別人のようだったからである。だが、だからと言って責める気にはならなかった。むしろ私の方こそ謝らなければならないと思ったからだ。
「いえ、悪いのは私ですから……ごめんなさい」
そう言うと、彼は首を横に振りながら言った。
「いや、君のせいじゃない。私が未熟だったからこうなったんだ」
「そんなことありません! 元はと言えば私のせいで……」
そこまで言いかけて口籠もってしまう。何故なら本当の事を言えるはずがないからだ。殿下と婚約しておきながらウィルに恋心を抱いていたなんて。
もし言ってしまったら間違いなく嫌われてしまうだろう。それだけは絶対に避けたかったので黙っていることにした。すると、不意に彼が言った。
「君に伝えたいことがあるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。もしかしたら別れ話かもしれないと思うと怖くて仕方がなかった。だが、いつまでも黙ったままではいられないと思い覚悟を決めて彼の言葉を待つことにした。そして、ついにその時が訪れた。
「君とはもう一緒に居られない」
その言葉を言われた瞬間、頭の中が真っ白になった気がした。あまりのショックに何も考えられなくなったのだ。すると、彼は更に続けた。
「これからはウィルが君を幸せにしてくれるだろう」
その言葉を聞いた時、胸の奥がズキッと痛んだような気がした。だが、それが何なのか考える余裕などなかった。今はただ目の前の事実に驚いていた。
「ウィル様が……生きておられたのですか……?」
「ああ。あの戦場から生きて帰ってくるなんて私も驚いたよ。何でも夢に女神が現れたらしい。君達は祝福されているようだな。羨ましい限りだよ」
それを聞いた瞬間、複雑な気持ちになった。その様子を不審に思ったのか殿下が言った。
「どうしたんだい? 君はウィルの事が好きなんだろう? もっと喜ぶかと思ったんだが……」
その言葉に何も言えなかった。確かに嬉しいはずなのに何故か喜べない自分がいたのだ。その原因がわからず困惑していると、殿下はさらに追い打ちをかけるように言った。
「それとも他に好きな男でも出来たのか?」
その言葉を聞いてドキッとした。どうしてそんなことを聞かれたのかわからないまま黙り込んでいると、彼は寂し気に笑いながら言った。
「図星か……やはり君と婚約破棄したのは正解だったというわけか」
そう言うと立ち上がり、背を向けて去っていった。取り残された私は呆然としたまま動けずにいたが、やがて我に帰ると慌てて追いかけようとしたのだが、すでにその姿は見えなくなっていた。
それからしばらくの間立ち尽くしていたが、やがてその場に座り込むと涙を流した。自分でも何故泣いているのかわからなかった。失恋したことへの悲しみなのか、それとも別の何かが原因なのかはわからないままだ。
それでも一つだけ確かな事があるとすれば、それはもう二度と彼に会えないということだった。その事実を突きつけられて再び涙が溢れてきた。嗚咽を漏らしながら泣き続けているうちにいつの間にか眠ってしまったようで気がつくと朝になっていた。
しかし、王宮の近くを探してみたもののどこにも見当たらなかった。まさか婚約破棄された身で中に入るわけにもいかない。
仕方なく諦めて自室に戻るとベッドに腰掛けながら考えを巡らせる。
(どうしたらいいんだろう……)
そう思い悩んでいると扉がノックされる音が聞こえてきた。誰だろうと思いながら返事をすると、聞き覚えのある声が聞こえたので驚いた。
「失礼する」
そう言って入ってきた人物を見て思わず目を見開いた。そこにいたのは紛れもなく殿下だったからだ。彼はこちらに歩み寄るなり声をかけてきた。
「体調の方は大丈夫か?」
その問いに頷くと安心したように微笑んだ後、私の隣に座った。突然のことに戸惑っていると、彼が言った。
「昨日はすまなかった……」
その言葉にハッとして顔を上げるも、すぐに俯いてしまう。そんな私に彼は続けて言った。
「言い訳になってしまうかもしれないが、あの時はどうかしていたんだ」
そう言う彼の表情はとても悲しげだった。それを見て胸が苦しくなるのを感じたが、同時に違和感を覚えたのも事実だった。なぜならあの場にいた時の彼とはまるで別人のようだったからである。だが、だからと言って責める気にはならなかった。むしろ私の方こそ謝らなければならないと思ったからだ。
「いえ、悪いのは私ですから……ごめんなさい」
そう言うと、彼は首を横に振りながら言った。
「いや、君のせいじゃない。私が未熟だったからこうなったんだ」
「そんなことありません! 元はと言えば私のせいで……」
そこまで言いかけて口籠もってしまう。何故なら本当の事を言えるはずがないからだ。殿下と婚約しておきながらウィルに恋心を抱いていたなんて。
もし言ってしまったら間違いなく嫌われてしまうだろう。それだけは絶対に避けたかったので黙っていることにした。すると、不意に彼が言った。
「君に伝えたいことがあるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。もしかしたら別れ話かもしれないと思うと怖くて仕方がなかった。だが、いつまでも黙ったままではいられないと思い覚悟を決めて彼の言葉を待つことにした。そして、ついにその時が訪れた。
「君とはもう一緒に居られない」
その言葉を言われた瞬間、頭の中が真っ白になった気がした。あまりのショックに何も考えられなくなったのだ。すると、彼は更に続けた。
「これからはウィルが君を幸せにしてくれるだろう」
その言葉を聞いた時、胸の奥がズキッと痛んだような気がした。だが、それが何なのか考える余裕などなかった。今はただ目の前の事実に驚いていた。
「ウィル様が……生きておられたのですか……?」
「ああ。あの戦場から生きて帰ってくるなんて私も驚いたよ。何でも夢に女神が現れたらしい。君達は祝福されているようだな。羨ましい限りだよ」
それを聞いた瞬間、複雑な気持ちになった。その様子を不審に思ったのか殿下が言った。
「どうしたんだい? 君はウィルの事が好きなんだろう? もっと喜ぶかと思ったんだが……」
その言葉に何も言えなかった。確かに嬉しいはずなのに何故か喜べない自分がいたのだ。その原因がわからず困惑していると、殿下はさらに追い打ちをかけるように言った。
「それとも他に好きな男でも出来たのか?」
その言葉を聞いてドキッとした。どうしてそんなことを聞かれたのかわからないまま黙り込んでいると、彼は寂し気に笑いながら言った。
「図星か……やはり君と婚約破棄したのは正解だったというわけか」
そう言うと立ち上がり、背を向けて去っていった。取り残された私は呆然としたまま動けずにいたが、やがて我に帰ると慌てて追いかけようとしたのだが、すでにその姿は見えなくなっていた。
それからしばらくの間立ち尽くしていたが、やがてその場に座り込むと涙を流した。自分でも何故泣いているのかわからなかった。失恋したことへの悲しみなのか、それとも別の何かが原因なのかはわからないままだ。
それでも一つだけ確かな事があるとすれば、それはもう二度と彼に会えないということだった。その事実を突きつけられて再び涙が溢れてきた。嗚咽を漏らしながら泣き続けているうちにいつの間にか眠ってしまったようで気がつくと朝になっていた。
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