10 / 28
第1章
第10話
しおりを挟む
翌朝、目を覚ますと既に昼を過ぎていた。慌てて飛び起きると、すぐに身支度を整えてから部屋を出た。目指す場所はただ一つ、殿下の元だ。昨晩のことを報告しなければならないと思ったのである。
しかし、王宮の近くを探してみたもののどこにも見当たらなかった。まさか婚約破棄された身で中に入るわけにもいかない。
仕方なく諦めて自室に戻るとベッドに腰掛けながら考えを巡らせる。
(どうしたらいいんだろう……)
そう思い悩んでいると扉がノックされる音が聞こえてきた。誰だろうと思いながら返事をすると、聞き覚えのある声が聞こえたので驚いた。
「失礼する」
そう言って入ってきた人物を見て思わず目を見開いた。そこにいたのは紛れもなく殿下だったからだ。彼はこちらに歩み寄るなり声をかけてきた。
「体調の方は大丈夫か?」
その問いに頷くと安心したように微笑んだ後、私の隣に座った。突然のことに戸惑っていると、彼が言った。
「昨日はすまなかった……」
その言葉にハッとして顔を上げるも、すぐに俯いてしまう。そんな私に彼は続けて言った。
「言い訳になってしまうかもしれないが、あの時はどうかしていたんだ」
そう言う彼の表情はとても悲しげだった。それを見て胸が苦しくなるのを感じたが、同時に違和感を覚えたのも事実だった。なぜならあの場にいた時の彼とはまるで別人のようだったからである。だが、だからと言って責める気にはならなかった。むしろ私の方こそ謝らなければならないと思ったからだ。
「いえ、悪いのは私ですから……ごめんなさい」
そう言うと、彼は首を横に振りながら言った。
「いや、君のせいじゃない。私が未熟だったからこうなったんだ」
「そんなことありません! 元はと言えば私のせいで……」
そこまで言いかけて口籠もってしまう。何故なら本当の事を言えるはずがないからだ。殿下と婚約しておきながらウィルに恋心を抱いていたなんて。
もし言ってしまったら間違いなく嫌われてしまうだろう。それだけは絶対に避けたかったので黙っていることにした。すると、不意に彼が言った。
「君に伝えたいことがあるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。もしかしたら別れ話かもしれないと思うと怖くて仕方がなかった。だが、いつまでも黙ったままではいられないと思い覚悟を決めて彼の言葉を待つことにした。そして、ついにその時が訪れた。
「君とはもう一緒に居られない」
その言葉を言われた瞬間、頭の中が真っ白になった気がした。あまりのショックに何も考えられなくなったのだ。すると、彼は更に続けた。
「これからはウィルが君を幸せにしてくれるだろう」
その言葉を聞いた時、胸の奥がズキッと痛んだような気がした。だが、それが何なのか考える余裕などなかった。今はただ目の前の事実に驚いていた。
「ウィル様が……生きておられたのですか……?」
「ああ。あの戦場から生きて帰ってくるなんて私も驚いたよ。何でも夢に女神が現れたらしい。君達は祝福されているようだな。羨ましい限りだよ」
それを聞いた瞬間、複雑な気持ちになった。その様子を不審に思ったのか殿下が言った。
「どうしたんだい? 君はウィルの事が好きなんだろう? もっと喜ぶかと思ったんだが……」
その言葉に何も言えなかった。確かに嬉しいはずなのに何故か喜べない自分がいたのだ。その原因がわからず困惑していると、殿下はさらに追い打ちをかけるように言った。
「それとも他に好きな男でも出来たのか?」
その言葉を聞いてドキッとした。どうしてそんなことを聞かれたのかわからないまま黙り込んでいると、彼は寂し気に笑いながら言った。
「図星か……やはり君と婚約破棄したのは正解だったというわけか」
そう言うと立ち上がり、背を向けて去っていった。取り残された私は呆然としたまま動けずにいたが、やがて我に帰ると慌てて追いかけようとしたのだが、すでにその姿は見えなくなっていた。
それからしばらくの間立ち尽くしていたが、やがてその場に座り込むと涙を流した。自分でも何故泣いているのかわからなかった。失恋したことへの悲しみなのか、それとも別の何かが原因なのかはわからないままだ。
それでも一つだけ確かな事があるとすれば、それはもう二度と彼に会えないということだった。その事実を突きつけられて再び涙が溢れてきた。嗚咽を漏らしながら泣き続けているうちにいつの間にか眠ってしまったようで気がつくと朝になっていた。
しかし、王宮の近くを探してみたもののどこにも見当たらなかった。まさか婚約破棄された身で中に入るわけにもいかない。
仕方なく諦めて自室に戻るとベッドに腰掛けながら考えを巡らせる。
(どうしたらいいんだろう……)
そう思い悩んでいると扉がノックされる音が聞こえてきた。誰だろうと思いながら返事をすると、聞き覚えのある声が聞こえたので驚いた。
「失礼する」
そう言って入ってきた人物を見て思わず目を見開いた。そこにいたのは紛れもなく殿下だったからだ。彼はこちらに歩み寄るなり声をかけてきた。
「体調の方は大丈夫か?」
その問いに頷くと安心したように微笑んだ後、私の隣に座った。突然のことに戸惑っていると、彼が言った。
「昨日はすまなかった……」
その言葉にハッとして顔を上げるも、すぐに俯いてしまう。そんな私に彼は続けて言った。
「言い訳になってしまうかもしれないが、あの時はどうかしていたんだ」
そう言う彼の表情はとても悲しげだった。それを見て胸が苦しくなるのを感じたが、同時に違和感を覚えたのも事実だった。なぜならあの場にいた時の彼とはまるで別人のようだったからである。だが、だからと言って責める気にはならなかった。むしろ私の方こそ謝らなければならないと思ったからだ。
「いえ、悪いのは私ですから……ごめんなさい」
そう言うと、彼は首を横に振りながら言った。
「いや、君のせいじゃない。私が未熟だったからこうなったんだ」
「そんなことありません! 元はと言えば私のせいで……」
そこまで言いかけて口籠もってしまう。何故なら本当の事を言えるはずがないからだ。殿下と婚約しておきながらウィルに恋心を抱いていたなんて。
もし言ってしまったら間違いなく嫌われてしまうだろう。それだけは絶対に避けたかったので黙っていることにした。すると、不意に彼が言った。
「君に伝えたいことがあるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。もしかしたら別れ話かもしれないと思うと怖くて仕方がなかった。だが、いつまでも黙ったままではいられないと思い覚悟を決めて彼の言葉を待つことにした。そして、ついにその時が訪れた。
「君とはもう一緒に居られない」
その言葉を言われた瞬間、頭の中が真っ白になった気がした。あまりのショックに何も考えられなくなったのだ。すると、彼は更に続けた。
「これからはウィルが君を幸せにしてくれるだろう」
その言葉を聞いた時、胸の奥がズキッと痛んだような気がした。だが、それが何なのか考える余裕などなかった。今はただ目の前の事実に驚いていた。
「ウィル様が……生きておられたのですか……?」
「ああ。あの戦場から生きて帰ってくるなんて私も驚いたよ。何でも夢に女神が現れたらしい。君達は祝福されているようだな。羨ましい限りだよ」
それを聞いた瞬間、複雑な気持ちになった。その様子を不審に思ったのか殿下が言った。
「どうしたんだい? 君はウィルの事が好きなんだろう? もっと喜ぶかと思ったんだが……」
その言葉に何も言えなかった。確かに嬉しいはずなのに何故か喜べない自分がいたのだ。その原因がわからず困惑していると、殿下はさらに追い打ちをかけるように言った。
「それとも他に好きな男でも出来たのか?」
その言葉を聞いてドキッとした。どうしてそんなことを聞かれたのかわからないまま黙り込んでいると、彼は寂し気に笑いながら言った。
「図星か……やはり君と婚約破棄したのは正解だったというわけか」
そう言うと立ち上がり、背を向けて去っていった。取り残された私は呆然としたまま動けずにいたが、やがて我に帰ると慌てて追いかけようとしたのだが、すでにその姿は見えなくなっていた。
それからしばらくの間立ち尽くしていたが、やがてその場に座り込むと涙を流した。自分でも何故泣いているのかわからなかった。失恋したことへの悲しみなのか、それとも別の何かが原因なのかはわからないままだ。
それでも一つだけ確かな事があるとすれば、それはもう二度と彼に会えないということだった。その事実を突きつけられて再び涙が溢れてきた。嗚咽を漏らしながら泣き続けているうちにいつの間にか眠ってしまったようで気がつくと朝になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる