地味に転生していた少女は冒険者になり旅に出た

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エタンはあの後、冒険者ギルドに残りダンジョン内に詳しい上位の冒険者やギルドマスター達とあの階層付近にいる魔物や魔獣の特定をすると言う事で私は一足先に宿へと帰った。

どうやらあの階層には数種の、群れで生活する魔獣がいるそうで、その巣に運び屋は肉を投げ入れていたそうだ。

宿、流れ星に帰って来て真っ先に私はお風呂に入った。夜ご飯を後回しにしたい程砂まみれだったのだ。

「うぇー、砂が耳にも入ってる!!」

私は今日、エタンに自分が諜報員として大佐に買われたと話すつもりだ。
あの場所で見た事も。
大した情報じゃないと思っていた。でも、話していたら何か違っていたのかもと思うと、やっぱり私が見聞きした事は、話しておく方が良い気がする。

腐ってたのは大佐だけじゃない。あの軍の上層部半数近くが関わっていた。

けれど、大佐と敵対していた人達は大佐の取り巻き達を粛清し、かなり強引に処刑までしていた。

もしそれがこの事態を察したからだとするなら、一部の人は戦争をする気は無かったのかもしれない。

でも、既に賽は投げられた。

自分があの時傍観者だった事は、仕方ないと思っている。単なる言い訳でしかないけれど、自分一人では見つけ出せなかったし、助け出せなかった。

女だとバレる前に大佐に従う振りをして逃げ出す算段をする方が私には大事だったから。

でも、やっぱりあの場所で得た情報は話しておくべきだったと思っている。

エタンに話をする。ギルドマスター達にも。

でも、本当は、なぜそんな情報を私が知っているのか。そんな疑問を持たれるのが。
エタンに自分が暗殺術を身につけた諜報員だったと知られる事が嫌だったのだ。

あそこで見聞きした事からは目を逸らして。No.78だった自分とはサヨナラして。
私はクリスとして生きると、厳しいあの頃の、心を持たないNo.78だった自分が無いはずのその心すらぐちゃぐちゃに踏み潰されたあの生活を無かった事にしたかったのかもしれない。

私は人を殺した事がある。その罪悪感で初めて任務を遂行した日は吐くものもないのに吐いていた。

「はぁ…私、今日で十三歳になるんだよね……」

いくらため息を吐いてもキリがない。でも、出てきてしまう。
本当の誕生日なんか知らない。だけど一応、孤児院に入った日を誕生日にして私達は歳を数える様にしていた。

だから、なんの感慨もないごく普通の日ではあるけど。
でも、今日で十三歳と数える事にするなら、このまま歳を重ねるごとに隣国の事や自分の事をエタンに話さないまま別れてしまう事に罪悪感が膨らむ様な気がした。
気合いを入れてため息を飲み込み、エタンに話すと心に決めた。
潮時なんだ。

「はぁ………」

けれど、やっぱり、ついついため息が出てしまう。

あの国の一番の膿は王だ。湯水の如く金を使い、税を上げ、まだ足りないと他国の土地を、金の成る木を求めている。そんな王に同調する貴族達は自国を食い尽くしてしまう前にと他国へ手を伸ばして来たのだ。
獣如きが土地を持つのはおかしい。そう話しているのを聞いて胸糞悪い男だと思った。

あいつらは、あの国は、その為の手段は選ばない。人族至上主義のその考えで他種族を全て奴隷にと目論んでいる。


お風呂から上がり食堂に行くと珍しくエタンがお酒を飲んでいた。

目の端がうっすらと赤い。

「クリスちゃん!はぁ、無事で良かったよ!とんでもないことになったねぇ。まぁ、今日はたくさん食べて早く寝ちまいな」

「うん、ありがとう~女将さん」

はい、これ!と酒のつまみにと鳥の軟骨揚げをくれた。

さっそくエタンの所に持って行き私もちょっぴりつまんだ。

「美味し~!」
「クリスにかかればなんでも美味しい様に見える。ある意味お前は凄いよ。」

「それだと私が食いしん坊みたいじゃん?!」

「おや、違ったのかい?!」
私がエタンの言葉にキャンキャンと吠えていると女将さんが心底驚いた顔をした。
「女将さんまで酷い!」

「まぁ、好き嫌い無く、いっぱい食べるのは偉いぞ」

また子供扱いしてる!!

そんなこんなで私はご立腹だったけど食べ終わって二人で部屋に戻って、いざエタンと二人になると途端に落ち着かなくなってきた。

夕食の後、私は部屋でエタンのベッドにちょこんと座り彼を見上げた。

話をする前からなぜか挙動不審な私と、同じく挙動不審になったエタン。けれどこの場にはそれに突っ込みを入れる人は居ない。

「エタン、あのね。私」
私は眉を寄せてエタンを見上げた。どうにか勇気をだして言わなくちゃ。
そう思っていると、エタンが私を見下ろし、何やら目を細めて手を頬にあててくる。
「クリス」

緊張した面持ちの私を見てエタンはゴクリと唾を飲み込む。

目を潤ませて不安げに見上げた顔をエタンが発情しながら見ていたなんて全く気付かず。

「クリス、そんなに無理をする必要はない。俺は何もせずに部屋を出るから」
と、そう言って何やらジリジリと距離をとりだした。

「まって、エタン。行っちゃヤダ」
まさか話をする前から拒絶されるなんて思ってもいなかった私は慌ててエタンに縋り着いた。

「っ、クリス」
「え?…ふぎゃっ!?」

手を顔の横に抑えられたと理解はしたけど。なぜに?

ふかふかの布団に押し倒され、上からエタンに抑えられていた。意味はわからないけど、もしや、私の話たい内容がエタンにはわかったのかもしれない。もしかしたら、エタンは初めから知ってた?


「エタン…もしかして、気付いてたの?私が今日、勇気をだしてエタンに伝えたい事があるって…」

「クリス、俺はお前がまだ子供だからちゃんと我慢するつもりだ。だけど…」

許せないって事だろうか?やっぱり暗殺術を習得した女の子なんておかしいし、物騒だし、何より暗殺術の訓練であれ、それが例え犯罪者であれ、暗殺した過去は変えられないよね……


暗殺術は習得する為に様々な方法で実際に暗殺をする事が条件となっている。

暗殺術は暗殺する事を前提として習得する技だ。でなければ暗殺者も暗殺術など教えない。

私は泣きそうな顔をしたままエタンに縋る様にしがみついた。嫌われたくなかった。でも、やっぱり無理なんだ…

硬直したエタンがピクリと動きだし、素早く私の唇を塞いだ。

大人の唇がちんまい私の唇を覆って、息苦しさに悶える様に口を開けると太い舌が差し込まれて私ははっきり言ってパニックだった。

なん、なんで?なんで、私、唇を塞がれてるこれはなんだろう。キスに見える。でも、そんな訳ない。いくらなんでも。

第一に、私はまだ十三歳になったばかりの女の子だ。

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