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第7話:海から来るもの
Bパート(3)
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革命軍の首都進行から始まり、ガオガオの撃退といった出来事にまつわるゴタゴタから解放され、研究所は以前の姿を取り戻そうとしていた。
いや、アルテローゼが目覚めたおかげで、その研究が本格的に始まろうとしていた、そんな矢先のことだった。
「アルテローゼで火星タコを撃退しろと言うのですか?」
オッタビオ少将からの通信で、ヴィクターはとんでもないことを依頼されるのだった。
『そうだ。君も知っていると思うが、現状、革命軍の妨害で陸路は遮断され、首都への輸送は船に頼り切りなのだ。ところが、ヘリオスに向かう海上輸送航路のど真ん中に火星タコが陣取っているらしく、輸送船が被害を受けていると政府から連絡があったのだ。火星タコは繁殖期になると海面近くにまでやってきて、船を襲うようになる。その繁殖期がどうやらやってきたようなのだ。火星タコのおかげで、首都への海上輸送は大きく迂回せざるをえなくなっている。そのため輸送コストの増大し、首都の物価は食料品を中心に高騰している状況なのだ。政府は軍に火星タコを排除を依頼してきたのだよ』
モニターに映るオッタビオ少将は深刻そうな顔でヴィクターに説明する。彼が話したことはヴィクターも知っており、火星タコの排除の必要性も理解できた。
「はぁ…それで、どうしてアルテローゼがその火星タコの撃退するという話になるのでしょうか? それは連邦軍の仕事ですよね?」
『それができないから困っておるのだよ、ヴィクター君。知っての通り大シルチス高原での戦いで連邦軍は負けた。その際に航空戦力はほとんど失われてしまったのだよ。そして、未だに航空戦力の再配備の目処が立たない状況だ。空軍戦力が無ければ、海にいる火星タコを追い払う手段がないのだよ』
以前の司令だったら、軍の恥として絶対に言わない連邦軍の窮状を、オッタビオ少将は見栄も外聞もなく話してしまう。ある意味正直な人であるが、基地の司令としてはいかがな物かと、ヴィクターは思っていた。
ちなみに、なぜ連邦軍は海軍を出さないかというと、火星には海軍が存在しないからである。火星の海に軍事的脅威が無いのに、戦艦を持つ意味は無い。それに輸送船ならロボットタンカーで十分だが、戦艦となれば人を搭乗させる必要がある。敵もいない状態で有人の戦艦を運用するのは無駄の極みだと、海軍は創設されてなかったのだ。
「オッタビオ少将、アルテローゼは地上専用の機動兵器ですよ。空も飛べなきゃ、水の中にも入れませんが?」
『えっ、空も飛べないし、水の中にも入れないのかね。最新鋭の機動兵器じゃなかったのかね?』
オッタビオ少将は、驚いた顔をする。
「いや、最新鋭の機動兵器といわれましても、また試作機ですし。昔のフィクション・メディアの主役機動兵器のように陸海空と万能な機動兵器などありえないのですよ」
ヴィクターは何を馬鹿なことを言っているんだと頭にてをやった。
『確か首都で巨人と戦ったとき、空を飛んだと聞いた覚えがあるのだが…』
「それはジャンプしただけで、空は飛んでいないのですよ。常識で考えてください」
どうやらオッタビオ少将は、レイフが魔法でアルテローゼをジャンプさせたことを飛んだと誤解してるようだった。
『空を飛べないのか、うーん。しかし、連邦軍の出せる戦力…戦車や多脚装甲ロボットだけで、火星タコを撃退するのは難しい。ヴィクター君の所なら、その機動兵器をちょちょいっと改造して、海の上で戦えるようにできないのかね? どうか連邦軍の窮状を救うと思ってやってくれないか』
モニターの向こうではオッタビオ少将が、ヴィクターに頭を下げていた。
「(命令ではなく、お願いとは困ったのだよ)」
ヴィクターは、オッタビオ少将のお願いに困っていた。これが正式な命令であれば、軍所属であるため従わざるを得ないが、お願いである。断っても問題はない。
「申し訳ありませんが、やはりアルテローゼを出撃させるわけには…」
アルテローゼを出撃させるとなると、レイチェルも付き合わなければならない。ヴィクターが断ろうと、言いかけたその時だった
「お父様、火星タコが船を襲っていると聞きましたわ。それで、連邦軍の方が対潜装備を持って格納庫にいらっしゃってますけど…」
そこにやってきたのは、レイチェルであった。慌てて走ってきたのか、顔が赤く息を切らせていた。
ノックもせずに所長室に入ってきたレイチェルは、ヴィクターが誰かと話をしている最中であると気づいて、しまったという顔で言葉がしぼむ。
「レイチェル、ノックをしてから入る用にいつも言ってるのだがね」
「申し訳ありません。ヘリオスの危機という話でしたので…慌てました」
シュンとなるレイチェルに対し、ヴィクターはため息をつく。どうやらオッタビオ少将は、先に手を打っていたようだった。恐らく格納庫に軍の整備兵が来るタイミングを見計らって、ヴィクターに通信を入れたのだろう。
そして、火星タコによって、ヘリオスの市民が困ると聞けば、優しいレイチェルはアルテローゼを出撃させると言い出すと見込んでいたのだ。
ヴィクターは苦虫を噛みつぶしたような顔で、オッタビオ少将が映るモニターに向き直った。
『うむ、丁度よく、娘さんもいらしたようだね。これで正式に命令を出すことができそうだ。地球連邦軍の火星基地司令として、アルテローゼとそのパイロットに火星タコの排除を命じる。これで良いかねヴィクター君?』
「お父様、どうされるのですか?」
みんなを助けたいというレイチェルの顔と薄和笑いを浮かべるオッタビオ少将の顔を交互に見て、ヴィクターは諦めた。
「了解しました。ですが、オッタビオ少将、この手の企みは止めてください」
『留意しよう』
オッタビオ少将はヴィクターに頷く。これで、正式にアルテローゼが火星タコの排除に出撃することに決まったのだった。
いや、アルテローゼが目覚めたおかげで、その研究が本格的に始まろうとしていた、そんな矢先のことだった。
「アルテローゼで火星タコを撃退しろと言うのですか?」
オッタビオ少将からの通信で、ヴィクターはとんでもないことを依頼されるのだった。
『そうだ。君も知っていると思うが、現状、革命軍の妨害で陸路は遮断され、首都への輸送は船に頼り切りなのだ。ところが、ヘリオスに向かう海上輸送航路のど真ん中に火星タコが陣取っているらしく、輸送船が被害を受けていると政府から連絡があったのだ。火星タコは繁殖期になると海面近くにまでやってきて、船を襲うようになる。その繁殖期がどうやらやってきたようなのだ。火星タコのおかげで、首都への海上輸送は大きく迂回せざるをえなくなっている。そのため輸送コストの増大し、首都の物価は食料品を中心に高騰している状況なのだ。政府は軍に火星タコを排除を依頼してきたのだよ』
モニターに映るオッタビオ少将は深刻そうな顔でヴィクターに説明する。彼が話したことはヴィクターも知っており、火星タコの排除の必要性も理解できた。
「はぁ…それで、どうしてアルテローゼがその火星タコの撃退するという話になるのでしょうか? それは連邦軍の仕事ですよね?」
『それができないから困っておるのだよ、ヴィクター君。知っての通り大シルチス高原での戦いで連邦軍は負けた。その際に航空戦力はほとんど失われてしまったのだよ。そして、未だに航空戦力の再配備の目処が立たない状況だ。空軍戦力が無ければ、海にいる火星タコを追い払う手段がないのだよ』
以前の司令だったら、軍の恥として絶対に言わない連邦軍の窮状を、オッタビオ少将は見栄も外聞もなく話してしまう。ある意味正直な人であるが、基地の司令としてはいかがな物かと、ヴィクターは思っていた。
ちなみに、なぜ連邦軍は海軍を出さないかというと、火星には海軍が存在しないからである。火星の海に軍事的脅威が無いのに、戦艦を持つ意味は無い。それに輸送船ならロボットタンカーで十分だが、戦艦となれば人を搭乗させる必要がある。敵もいない状態で有人の戦艦を運用するのは無駄の極みだと、海軍は創設されてなかったのだ。
「オッタビオ少将、アルテローゼは地上専用の機動兵器ですよ。空も飛べなきゃ、水の中にも入れませんが?」
『えっ、空も飛べないし、水の中にも入れないのかね。最新鋭の機動兵器じゃなかったのかね?』
オッタビオ少将は、驚いた顔をする。
「いや、最新鋭の機動兵器といわれましても、また試作機ですし。昔のフィクション・メディアの主役機動兵器のように陸海空と万能な機動兵器などありえないのですよ」
ヴィクターは何を馬鹿なことを言っているんだと頭にてをやった。
『確か首都で巨人と戦ったとき、空を飛んだと聞いた覚えがあるのだが…』
「それはジャンプしただけで、空は飛んでいないのですよ。常識で考えてください」
どうやらオッタビオ少将は、レイフが魔法でアルテローゼをジャンプさせたことを飛んだと誤解してるようだった。
『空を飛べないのか、うーん。しかし、連邦軍の出せる戦力…戦車や多脚装甲ロボットだけで、火星タコを撃退するのは難しい。ヴィクター君の所なら、その機動兵器をちょちょいっと改造して、海の上で戦えるようにできないのかね? どうか連邦軍の窮状を救うと思ってやってくれないか』
モニターの向こうではオッタビオ少将が、ヴィクターに頭を下げていた。
「(命令ではなく、お願いとは困ったのだよ)」
ヴィクターは、オッタビオ少将のお願いに困っていた。これが正式な命令であれば、軍所属であるため従わざるを得ないが、お願いである。断っても問題はない。
「申し訳ありませんが、やはりアルテローゼを出撃させるわけには…」
アルテローゼを出撃させるとなると、レイチェルも付き合わなければならない。ヴィクターが断ろうと、言いかけたその時だった
「お父様、火星タコが船を襲っていると聞きましたわ。それで、連邦軍の方が対潜装備を持って格納庫にいらっしゃってますけど…」
そこにやってきたのは、レイチェルであった。慌てて走ってきたのか、顔が赤く息を切らせていた。
ノックもせずに所長室に入ってきたレイチェルは、ヴィクターが誰かと話をしている最中であると気づいて、しまったという顔で言葉がしぼむ。
「レイチェル、ノックをしてから入る用にいつも言ってるのだがね」
「申し訳ありません。ヘリオスの危機という話でしたので…慌てました」
シュンとなるレイチェルに対し、ヴィクターはため息をつく。どうやらオッタビオ少将は、先に手を打っていたようだった。恐らく格納庫に軍の整備兵が来るタイミングを見計らって、ヴィクターに通信を入れたのだろう。
そして、火星タコによって、ヘリオスの市民が困ると聞けば、優しいレイチェルはアルテローゼを出撃させると言い出すと見込んでいたのだ。
ヴィクターは苦虫を噛みつぶしたような顔で、オッタビオ少将が映るモニターに向き直った。
『うむ、丁度よく、娘さんもいらしたようだね。これで正式に命令を出すことができそうだ。地球連邦軍の火星基地司令として、アルテローゼとそのパイロットに火星タコの排除を命じる。これで良いかねヴィクター君?』
「お父様、どうされるのですか?」
みんなを助けたいというレイチェルの顔と薄和笑いを浮かべるオッタビオ少将の顔を交互に見て、ヴィクターは諦めた。
「了解しました。ですが、オッタビオ少将、この手の企みは止めてください」
『留意しよう』
オッタビオ少将はヴィクターに頷く。これで、正式にアルテローゼが火星タコの排除に出撃することに決まったのだった。
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