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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと
10.【井田・社会人三年目/秋~翌夏】愛の言霊 ②
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◇
足りないものを買いそろえていくうちに、秋が終わり、冬になって、春を感じる間もなく夏を迎えて、なぜか宇山の部屋には俺の物も増えた。まあ、そのほとんどは宇山が勝手に買ってきた物なんだけど。
行くたびに俺専用の食器やタオルなんかの小物が少しずつ増えてるのは、ちょっとした間違い探しみたいでおもしろい。引っ越した日の夜中に、組み立てたばかりのベッドから蹴り落されたと思ったら、その次に遊びに行った時にはもう、俺用の布団が用意されてたのが最初だったっけ。
確かに、一八〇センチ近いでかい男が二人、シングルベッドなんかで一緒に寝たのには無理があったし、宇山の寝相じゃ朝までこっちの身が持たないのも分かった。
だけど、そんなの買ったりする前になんで「井田を泊めなきゃいい」っていう発想にならねえんだろ。ていうか、親が金持ちでも宇山は普通の会社員なのにこんなに金使って大丈夫か。
付き合ってないって本気で思ってるなら、こんなふうに俺を受け入れたりしなきゃいいのに。
とはいえ、そこに寝る場所ができてしまえば、毎日自分ちに帰る必要もないんじゃないかって思えてくる。
一か月もしないうちに、ノー残の水曜日と週末の金曜日は、宇山の部屋に帰って泊まるのが習慣化した。週末は連泊で、月曜日と木曜日の出勤は宇山の部屋から。ローテーションでスーツを二着置いてたら、いつの間にかクローゼットの中が区分けされて俺用スペースまでできていた。
二人だけでHする時は今でも大抵ラブホだし、入り浸ってるからって七瀬と有川みたいに四六時中いちゃいちゃしてるわけじゃない。部屋で抜き合いとかするのも本当に時々で、意味なく騒いだりもせず、それぞれが割と静かに過ごしてると思う。
それでも、連休とかに有川のマンションで4Pした後ですら、俺が帰るのは宇山の部屋だ。
不思議だよな。何かに縛られたりするのは苦手だったはずなのに。
風呂は狭いし、一部屋しかないから寝る時間も合わせなきゃいけない。実家より不自由なところを挙げればキリがない。それでも、窮屈なはずのこの生活が、宇山とだったら居心地いいって思うとか。
生活費の一部として宇山に渡すことにした予定外の出費だって、実家にいれば使わずに済んだ金だ。それでも俺は、なぜかそれをちっとも無駄だとは思えないでいる。
『なあ、これってもう絶対、俺ら普通に付き合ってるよな』
「お前さあ……、そういうのは俺じゃなくて本人に聞けよ」
ちょっとのろけたいだけの一心で昼休みにメッセージを送ったら、めんどくさそうな七瀬からすぐに電話がかかってきた。こういうところは相変わらず情が深いというか律儀というか。
昼休みのオフィス街は人が多くて、どこで誰が聞いているか分からない。それは定食屋からの帰り道だって例外じゃなくて、普段は仕事用にそこそこ猫をかぶっている俺は口元を覆って声を落とした。
「それでまたフラれたりしたらどうすんだよ。慰めてくれんの?」
「え……。お前、あれって傷ついてんの?」
「や、それはないけど」
「うっわ、めんどくせ」
「ひでえ」
「えー、じゃあ有川に聞けって。お前ら仲良しだろ」
いや、仲良しって。
とげのある言い方に思わず苦笑いする。
まあ確かにいろいろと……、最近だと、七瀬が有川のちんことディルドで二本挿しの練習をしてることとか、裏で勝手に情報共有してはいるけど。
つか、あいつに言ったら逆にその倍はのろけ話聞かされるんだよなー。
「まあまあ、もうちょっと興味持とうよ。マジで最近いい感じなんだって」
実際、宇山に言葉で「付き合ってない」「付き合わない」って否定されなきゃ、俺たちのやってることはほぼ恋人同士みたいなもんだ。したいと思ったらキスもHもして、好きだと思ったら「好きだ」って伝えて、そういうのなら積極的に宇山も応えてくれるし。
「そんであいつ、この前もさあ」
「ぁあー……、うん。はい。もう勝手に頑張れ。俺、午後イチの会議の準備しなきゃいけねーんだけど」
これ以上は聞く気がないらしい。相談なんかじゃなくて実はただののろけ話だったって気付いてしまった七瀬が、本気でうんざりした声を出した。
◇
ノー残の水曜日にはいつも、乗換駅のデパ地下で二人分の晩飯を買ってから宇山の部屋に向かう。だけどいつもどおりだったのはそこまでで、なぜか今日は玄関のチャイムを鳴らしても反応がなかった。
定時で上がれたら、俺がまっすぐ帰ってきたとしても宇山の方が先に着いてるはずなのに。
連絡とか来てたっけ、とスマホを取り出したところで、部屋の奥からばたばたと足音が近づいてきて、目の前のドアが勢いよく開いた。ごまかすようにへらりと笑った宇山の顔には疲れが見える。
「あー、ごめん井田。おかえりー」
「ただいま。つか、大丈夫か? 何かあった?」
「あー……、うん。うちの母親がなかなか電話切らせてくんなくてさー。あっ、今日のおかず何? うまそうな匂い」
俺の手から晩飯の入った袋を受け取って、中をのぞきながら宇山が部屋の奥に戻っていく。
宇山の母親は大手企業に勤めていて、たしか去年役職定年したんだったか。家にいる時間が増えたら口うるさくなった、っていうのが宇山の一人暮らしの理由だったはずだけど。
……なんか苦労してんなあ。学生の頃には、親への不満なんて聞いたこともなかったのに。
足りないものを買いそろえていくうちに、秋が終わり、冬になって、春を感じる間もなく夏を迎えて、なぜか宇山の部屋には俺の物も増えた。まあ、そのほとんどは宇山が勝手に買ってきた物なんだけど。
行くたびに俺専用の食器やタオルなんかの小物が少しずつ増えてるのは、ちょっとした間違い探しみたいでおもしろい。引っ越した日の夜中に、組み立てたばかりのベッドから蹴り落されたと思ったら、その次に遊びに行った時にはもう、俺用の布団が用意されてたのが最初だったっけ。
確かに、一八〇センチ近いでかい男が二人、シングルベッドなんかで一緒に寝たのには無理があったし、宇山の寝相じゃ朝までこっちの身が持たないのも分かった。
だけど、そんなの買ったりする前になんで「井田を泊めなきゃいい」っていう発想にならねえんだろ。ていうか、親が金持ちでも宇山は普通の会社員なのにこんなに金使って大丈夫か。
付き合ってないって本気で思ってるなら、こんなふうに俺を受け入れたりしなきゃいいのに。
とはいえ、そこに寝る場所ができてしまえば、毎日自分ちに帰る必要もないんじゃないかって思えてくる。
一か月もしないうちに、ノー残の水曜日と週末の金曜日は、宇山の部屋に帰って泊まるのが習慣化した。週末は連泊で、月曜日と木曜日の出勤は宇山の部屋から。ローテーションでスーツを二着置いてたら、いつの間にかクローゼットの中が区分けされて俺用スペースまでできていた。
二人だけでHする時は今でも大抵ラブホだし、入り浸ってるからって七瀬と有川みたいに四六時中いちゃいちゃしてるわけじゃない。部屋で抜き合いとかするのも本当に時々で、意味なく騒いだりもせず、それぞれが割と静かに過ごしてると思う。
それでも、連休とかに有川のマンションで4Pした後ですら、俺が帰るのは宇山の部屋だ。
不思議だよな。何かに縛られたりするのは苦手だったはずなのに。
風呂は狭いし、一部屋しかないから寝る時間も合わせなきゃいけない。実家より不自由なところを挙げればキリがない。それでも、窮屈なはずのこの生活が、宇山とだったら居心地いいって思うとか。
生活費の一部として宇山に渡すことにした予定外の出費だって、実家にいれば使わずに済んだ金だ。それでも俺は、なぜかそれをちっとも無駄だとは思えないでいる。
『なあ、これってもう絶対、俺ら普通に付き合ってるよな』
「お前さあ……、そういうのは俺じゃなくて本人に聞けよ」
ちょっとのろけたいだけの一心で昼休みにメッセージを送ったら、めんどくさそうな七瀬からすぐに電話がかかってきた。こういうところは相変わらず情が深いというか律儀というか。
昼休みのオフィス街は人が多くて、どこで誰が聞いているか分からない。それは定食屋からの帰り道だって例外じゃなくて、普段は仕事用にそこそこ猫をかぶっている俺は口元を覆って声を落とした。
「それでまたフラれたりしたらどうすんだよ。慰めてくれんの?」
「え……。お前、あれって傷ついてんの?」
「や、それはないけど」
「うっわ、めんどくせ」
「ひでえ」
「えー、じゃあ有川に聞けって。お前ら仲良しだろ」
いや、仲良しって。
とげのある言い方に思わず苦笑いする。
まあ確かにいろいろと……、最近だと、七瀬が有川のちんことディルドで二本挿しの練習をしてることとか、裏で勝手に情報共有してはいるけど。
つか、あいつに言ったら逆にその倍はのろけ話聞かされるんだよなー。
「まあまあ、もうちょっと興味持とうよ。マジで最近いい感じなんだって」
実際、宇山に言葉で「付き合ってない」「付き合わない」って否定されなきゃ、俺たちのやってることはほぼ恋人同士みたいなもんだ。したいと思ったらキスもHもして、好きだと思ったら「好きだ」って伝えて、そういうのなら積極的に宇山も応えてくれるし。
「そんであいつ、この前もさあ」
「ぁあー……、うん。はい。もう勝手に頑張れ。俺、午後イチの会議の準備しなきゃいけねーんだけど」
これ以上は聞く気がないらしい。相談なんかじゃなくて実はただののろけ話だったって気付いてしまった七瀬が、本気でうんざりした声を出した。
◇
ノー残の水曜日にはいつも、乗換駅のデパ地下で二人分の晩飯を買ってから宇山の部屋に向かう。だけどいつもどおりだったのはそこまでで、なぜか今日は玄関のチャイムを鳴らしても反応がなかった。
定時で上がれたら、俺がまっすぐ帰ってきたとしても宇山の方が先に着いてるはずなのに。
連絡とか来てたっけ、とスマホを取り出したところで、部屋の奥からばたばたと足音が近づいてきて、目の前のドアが勢いよく開いた。ごまかすようにへらりと笑った宇山の顔には疲れが見える。
「あー、ごめん井田。おかえりー」
「ただいま。つか、大丈夫か? 何かあった?」
「あー……、うん。うちの母親がなかなか電話切らせてくんなくてさー。あっ、今日のおかず何? うまそうな匂い」
俺の手から晩飯の入った袋を受け取って、中をのぞきながら宇山が部屋の奥に戻っていく。
宇山の母親は大手企業に勤めていて、たしか去年役職定年したんだったか。家にいる時間が増えたら口うるさくなった、っていうのが宇山の一人暮らしの理由だったはずだけど。
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