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あれからの、あんなこと、こんなこと

5.七瀬と、あんなこと、こんなこと ①

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※七瀬視点※
──────────────────

 斜め上方向に大人の階段を一気に駆け昇った、あの夏の日。
 あの日以来、あんなことをしてすっかり気まずくなってしまった俺たちの間には、なんだか微妙な距離ができてしまった。……なんてことはない。まったく。

 ◇

「なー、七瀬ななせ。今日有川ありかわんち行かね?」

 はい、出た。お友達であるはずの井田いだくんからオナニーのお誘いですよ。
 満面に笑みを浮かべて明るい学食の真ん中で俺の肩をたたく姿は、はた目には健全な遊びに誘ってるように見えるだろう。だけど、やろうとしてるのは俺の尻を使ったオナニーで、俺にとってはこいつらのちんこを使ったアナニーである。間違ってもセックスではない。ここ大事。

 夏休みが終わって秋学期が始まっても、俺たち四人のただれた関係は続いていて、井田にオナホ認定された俺は時々こうしてお誘いを受ける。俺じゃない時は宇山うやまを誘ってるからそっちもお気に召したんだろう。随分お盛んな話だ。
 どうでもいいが、あの時尻穴と引き換えにしたはずの焼肉を俺はまだ食ってない。踏み倒された気がしないでもないけど、対価を要求してたら頻度が落ちるかもしれないし、「宇山がいればいいや」なんてことになるかもしれない。そう気付いた賢明な俺は、学食の焼肉定食を目の前にしても口をつぐんだままでいる。
 おもちゃでのアナニーくらいじゃ満足できなくなってしまった俺の身体は、今さら放り出されるとそれなりに困るのだ。そもそも、家族が寝静まるのを待ってバレないように神経使って自分でやるより、安全な有川の部屋でこいつらに思う存分やってもらう方がはるかにいい。
 家では音が出るから電動式は使えなくて、俺の持ってるおもちゃは全部自分で動かさないと駄目なやつばっかだった。誰にも言うつもりはないけど、寝転がってるだけで勝手に気持ちよくしてもらえるとか最高かよ。中身が生身のちんこだとしてもゴムさえかぶってりゃ問題ない。これはもう、夢にまで見た全自動アナニーである。




 日中は夏を思い出したかのような暑さだったせいか、朝からずっと閉め切っていた南向きの1Kは夕方になっても少し息苦しい。有川は帰宅してすぐにエアコンのスイッチを入れると、下ろした鞄からマクロ経済学のテキストを出してローテーブルの上に置いた。
 俺と井田、宇山の三人は実家組で、大学近くに一人暮らししている有川の部屋は自動的にヤリ部屋みたいになってしまった。有川の都合なんてお構いなしだ。
 二か月近い夏休みを使って散々やりまくった俺たちの間にはなんとなくローテーションとかルールみたいなものができて、有川んちで使う自分の備品は自分で管理しましょう的な話になったのも今となっては懐かしい。

「あれー? お前はやんなくていいの?」
「あー、今日はいいや。そっちで勝手にやっとけば?」
「おー」

 また勝手に今日の組み合わせが決まったらしい。くっそ、相変わらず俺に人権ねえな。
 この二人とやる時は、3Pか有川が後攻の輪姦になることが多い。けど、有川は時々こんなふうにこの遊び自体に参加しないことがある。全員いる時なんかは、元々参加するつもりがないみたいに最初から最後まで完全に空気だ。手を握ってるだけとか、見てるだけとかもない。
 ……まあ、別にいいけど。

「ん、ほら持ってけ」
「ありがと」

 準備のためにサイドワゴンを開けてると、俺の名前が書かれた洗濯済みのタオルを、有川がクローゼットから出してくれた。
 勝手にやれと言いながらも相変わらず世話焼きだ。部屋の主だからってのもあるだろうけど、自分には何の得もないこんな状況が、もう両手でも数えきれない回数になるのに。
 エロい備品を詰め込んだサイドワゴンなんか、ある日突然宇山が家から持ってきて置いたやつだ。自分の部屋をこんなに好き勝手されて怒らないとか神様かよ。俺だったら怒るし、井田だったら多分金を取る。いや、確実に取る。
 ……これ。見た目近寄りがたくても、ちょっと話してみたら女子にだってすげーモテるんじゃねえの?
 有川は普段から本当に気が利いてるし、怒ったとこや声を荒らげたとこなんて見たことがない。それに、ちんこれる時だって、ねちっこく時間をかけて俺をもてあそんだりはしても、いつも結果的には絶対気持ちよくしてくれるし。お盆前にアナニー事情を白状させられた時なんか、優しいんだか意地悪なんだかよく分からない絶妙な配分で中イキさせられまくって、アナニーじゃない別の扉をうっかり開きそうになったくらいだ。
 なんか、ほんともったいないよな。もし俺が女子だったら絶対放っとかないのに。



「……お前さ、なんでそんなもん持ってんの」

 腰にタオルを巻いて風呂場から出てきた俺を、なぜかディルドを握った全裸の井田が出迎えた。
 いやいや、なんでだよ。それ俺の引き出しにしまってたやつじゃん。あー、間違いなく俺のディルドだ。リアル成型の。井田のちんこよりはちっさいけど、割とでかめのやつ。
 アナニーしてた事実を有川に白状させられた結果、家に置いといても使わないおもちゃの数々が、今はサイドワゴンに収納されている。親に見つかる心配もあってここに持ってきたのはいいけど、井田にあさられたのはこれでもう二度目だ。つか、俺が知らないってだけで実際は二度目かどうかも怪しい。
 一度目は、夏に有川が実家から帰ってきてすぐの頃。あの時は仕方なく宇山用にアナルプラグを一つ譲ったけど、引き出しごと所有権放棄した覚えはない。
 つか、有川も見てねーで止めろよ。
 我関せずテキストを読んでる有川に視線を投げると、その気配を感じたのか苦笑いしながら肩をすくめられた。

「あー、まあそこは井田だしな」

 それはそうだけども! いや、だとしたって勝手すぎんだろ。
 とはいえ、さすがに俺も二度目は怒る気も失せた。つか井田相手に怒る体力がもったいない。

「はー。まあいいや、それ戻しとけよ」
「え、なんで? 前戯に使うだろ」
「ぜんぎ」
「あー、前戯っていうのはー、エッロいことする前にお互いに興奮するためにするエッロい行為のことでー」
「いや知ってるし。つかそんなんいいから早くお前の挿れろって」

 風呂場で充分準備してきて穴の方はいつでもどんと来い状態だし、さっさとやることやって気持ちよくなりたい。ディルドもいいっちゃいいけど、人間の熱を持ったちんこのよさを覚えてしまった俺としては、ディルド代わりではあるが早く本物が欲しい。つか、そもそも俺らがやってるのはセックスじゃないから前戯なんていらない。

「マジか。お前そんなに俺のちんこ好きだったわけ?」
「うっせ。あんまり時間かけてたらそっちが暴発するからだろ」

 俺をどうしてもあえがせたい井田は、有川のまねなのか、やたら身体中を触ったり前戯に時間をかけたりしたがる。けど、時間をかけすぎて挿れた瞬間にイってしまった前科があるのだ。
 俺は、それでも前戯にこだわる無駄にハートの強い井田を足蹴あしげにすると、腰のタオルを外してベッドの上に四つんばいになって尻を向けた。こうやってタマとちんこを押さえとけば、井田からは尻の穴しか見えなくて他に手出しできねえだろ。

「……や、まあ。これはこれでいい眺めだけどさ。つか俺だけ気持ちよくなってもつまんないんですけどー」

 井田はディルドを枕元に放り投げ、ぶつぶつと文句を言いながらもローションを垂らすと、俺の尻たぶをわしづかみにして、両手の親指で穴の具合を確認し始めた。

「今日は声我慢しなくていいからな」
「うっせ。したことねーわ」

 声を出せと言われて出せるもんでもない。ついでに言うなら、出たら出たで近所迷惑である。苦情が来て、ここでいろいろできなくなったらどうしてくれんだ。

「っ!」

 前戯したがってた割にあっさりと指を抜いた井田は、ゴムをかぶせたちんこを一気に突き挿れてきた。俺はシーツに顔をうずめて、さらに奥へ奥へ挿れようとする動きに息を詰めながら、濃いピンク色の穴が井田の黒いカリ太ちんこで拡げられてるとこを想像する。背後の様子は分からないけど、井田が尻たぶを割り開いてそこを見てると思うと、それだけでもう息が熱くなった。
 はあ、やばい。俺の穴エロい。
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