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第8話 激昂
しおりを挟む「遥輝…俺と学校……」
声をかけようとした瞬間、遥輝がニコッと笑って、
俺の心臓を鋭利なナイフで抉るような言葉を放った。
「悪い!今日は大和と行くよ!」
「——……っ!」
遥輝はさっさと鞄をかけ直し、
すぐそばにいた十紋字と肩を並べ、何の迷いもなく去っていく。
視線すらくれずに。
まるで、最初から俺なんて存在しなかったかのように——。
「……いつの間にか、名前呼び…だし。」
ぽつりと呟く。
喉が張り付くほど、苦い。
(最近は、俺のことなんか視界にも入れなくなった……)
こんなの、冗談じゃねえ。
「……俺も、学校行くか。」
そう言いながら靴を履こうとした、その時——
バシャァッ!!!!
突然、冷たい水が頭から降りかかった。
「……っ!?」
びしょ濡れになった俺は、呆然と振り返る。
——そこには、銀色のバケツを持った組長、いや、遥輝の父親がいた。
鋭い目で俺を見下ろしながら、唇の端を歪める。
「——まだ、しぶとく居座るつもりか?」
重く低い声が、まるで地獄から響くように響く。
背筋が凍るほどの圧倒的な悪意。
「さっさとこの家を出て行け。貴様の居場所など、ここにはない。」
俺は濡れた髪を乱暴にかき上げながら、ニヤッと笑ってみせた。
「……嫌っすね。」
「なんだと?」
「遥輝のこと、心配なんで。」
組長の表情が、激しく歪む。
「気色の悪い男だ。」
低く吐き捨てるように言いながら、
俺の襟元を掴んで、力いっぱい引き寄せた。
「許嫁がいるΩに執着し、いつまでも纏わりつくなど、卑劣にもほどがある……!虫酸が走るんだよ、お前の存在が!!」
組長の目には、純然たる軽蔑と嫌悪。
だが、俺は笑みを崩さなかった。
「へぇ……」
「確かに、俺はあんたに育ててもらった恩はある……けどな」
組長を睨みつけ、俺ははっきりと言い放つ。
「遥輝を、あんなどこの馬の骨かもわからねぇ奴に任せる気なんか、さらさらねえんだよ!!」
静寂が落ちる。
組長の握る拳が、わずかに震えた。
そして——
「……貴様、本気で死にたいようだな?」
「——だったらやってみろよ。」
俺は微塵も怯まず、真っ直ぐに睨み返した。
このまま、引く気はない。
絶対に。
どんな手を使っても、遥輝を取り戻してやる。
俺の隣には、もう誰もいない。
いつもの通学路。
何度も歩いた道。
ふと、隣を見る。
——そこには、太陽みたいに笑う遥輝の残像。
「遊馬!!!お前がいてくれて、よかった!」
……だけど、それは一瞬で消えた。
「……遥輝……」
声にならない声が、冷たい朝の空に吸い込まれていく。
その時——
ズシッ!!!
突然、背中に重みがのしかかる。
「……ッ!」
ギロリと振り向くと、そこにはニヤニヤと笑うクラスメイト。
「よっ!遊馬!お前、嫁どうしたんだよ?」
「……は?」
不機嫌な声が漏れる。
「許婚に取られたんだっけ? プププ面白い!!」
カチン。
次の瞬間——
バキッ!!!!!!
鈍い音とともに、そいつの顔面に拳を叩き込んだ。
「……ッ!? ぐぁっ……!!」
叫ぶ暇もない。
そいつの身体が数メートル吹っ飛び、アスファルトに転がる。
「遊馬!? お、お前……ッ!!」
目が合う。
——そいつの顔は血まみれになっていた。
鼻から鮮血がドクドクと流れ、前歯が一本折れている。
周りの生徒たちが悲鳴を上げる。
誰かが教師を呼びに走る。
だが——
俺の目には、もう何も映らない。
「……あ?なんか言ったか?」
俺はゆっくりと近づき、そいつの襟首をガシッと掴み上げた。
「た、助け……」
「……ッハ。」
俺は嗤った。
「遥輝を奪われた俺が、黙って大人しくしてると思ったか?」
「……っ!!」
そいつの顔が、青ざめる。
「い、いや、俺は……そ、そんなつもりじゃ……」
俺はそいつの耳元に顔を寄せ、囁く。
「許婚? ……そんなもん、クソくらえだろうが。」
言い終えると同時に、そいつの体を地面に思いっきり叩きつけた。
——ドサッ!!
そいつの呻き声が響く。
「——遊馬!!!!!」
遠くで教師の怒鳴り声が聞こえた。
だけど、そんなものはどうでもいい。
俺の世界には、もう何も残っていない。
遥輝のいない世界なんて、こんなにも——
歪んで、壊れて、どうしようもなく醜い。
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