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After Story1 ー甘く蕩かされるハロウィンー
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家に戻ると早速ジャックオーランタンをつくるため、テーブルに新聞紙を敷いた上にずっしりと重量感のあるかぼちゃを載せた。
「まずは、デザインを考えなくてはいけませんね」
「顔になるように、ナイフでくり抜くんですよね?」
美姫のイメージのジャックオーランタンと言えば、三角の目にギザギザの歯を見せて笑うおぼけかぼちゃだった。
秀一は頷いた後、少し意地悪そうに目を細めた。
「確かにそれが一般的なジャックオーランタンですが、『KURUSU』のデザイナーとして名を馳せた貴女が、まさかそんな単純なもので満足するわけがないですよね?
どんなものが出来上がるのか、楽しみにしていますよ」
いきなりハードルを上げられて怯みそうになるものの、秀一に言われっぱなしでも悔しい。
「も、もちろんです。素敵なジャックオーランタンを期待していてください」
言い切ってしまった。
ネットで調べてみると、細かい装飾の施された美しいかぼちゃのランタンが幾つか上がってきた。
かぼちゃでイメージされるものと言えば……私にとっては、シンデレラの馬車。
魔法によってかぼちゃが馬車へと変わり、シンデレラを王子様の待つ舞踏会へと運んでくれるーーそんな場面に、幼心にときめいた。
美姫はトレーシングペーパーを取り出し、デザインを始めた。頭に浮かんだ画像を夢中で描いていく。
こんな感じ、かな。
デザインしたのは、正面がシンデレラと王子様が舞踏会で踊っているシルエットを描いたもので、その裏側は4頭の馬に引かれたかぼちゃの馬車が舞踏会への道を駆け抜けるものとなっている。その馬車の窓にはシンデレラのシルエットがあった。
ちょっと、凝り過ぎちゃったかも……
トレーシングペーパーを切り取り、カボチャに貼り付け、デザインを写し取っていく。
「おや。素敵なデザインが出来ましたね」
秀一が紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。でも、彫刻は高等部の美術の時以来なので緊張します」
美姫は目の前に置かれたティーカップに手を伸ばした。秋らしい、リンゴと梨のフルーツ柄の可愛いティーカップには、不恰好なリンゴのスライスが浮かんでいる。思わず微笑んでから鼻を近づけると、爽やかなリンゴの香りと共にカモミールの匂いが漂ってきた。
「アップルカモミールティーですよ。
美姫は夢中になると休むことを忘れてしまいますからね。どうか、根をつめすぎないようにして下さいね」
美姫はそっとカップに口をつけた。とてもまろやかで、芯から温まり、ゆったりとした気分にさせてくれる。
「美味しい……ありがとうございます」
「では、デザインが出来上がったところで、私もお手伝いしましょうか」
秀一が彫刻刀を手に取った。美しい指先にキラリと光る刃先が視界に入ると、美姫は咄嗟に彼の手から彫刻刀を取り上げていた。
「だ、駄目です!!
もし秀一さんの美しい指に怪我でもされたら……」
「大丈夫ですよ、先ほどリンゴもちゃんとスライス出来ましたし。美姫は心配性ですね」
少しからかうようにして秀一は彫刻刀を取り返そうとしたが、頑として美姫は譲らなかった。からかいなど通じないほどに真剣で、愁眉の表情を見せている。
「私が、嫌なんです!
秀一さんが傷つくのを見るのは、辛いんです……」
秀一はハッとした後、包み込むような柔らかな笑みを見せた。昔、美姫の為にクッキーを焼いた際に火傷した指を見て、彼女が大泣きした過去を思い出したからだ。
「分かりましたよ、プリンセス」
美姫の手を取り、指先に唇を落とす。
「美姫の優しさは、幼い頃からずっと変わりませんね……
その心遣いは嬉しいですが、貴女の怪我が心配なのは私も同じなのですよ。十分、気をつけて下さいね」
愛おしそうに唇で指先を撫でられ、美姫の背筋にゾクゾクと甘美な震えが走る。
「は、い……分かり、ました……」
紅潮した頬に潤んだ瞳で見上げる美姫に、秀一は美しく口角を上げて微笑むと、艶やかな黒髪を愛おしそうに撫でた。
「……出来たっ!」
美姫は出来上がったジャックオーランタンを前に、満足そうに見つめた。凝ったデザインにした上に、それでも足らない気がして星や装飾まで手をつけていたら、休みなく彫り続けていた。
壁に掛かっている時計を目にし、美姫は慌てて椅子から立ち上がった。
「いけない!夕飯の準備が……」
気づけばもうすっかり日が落ちていた。
いつもならこの時間には食卓に完璧な状態で食事が並べられ、秀一と共に席に着いているはずなのに。
美姫は手早くテーブルに散らばったかぼちゃの残骸を片付けると、リビングへと急いだ。
「まずは、デザインを考えなくてはいけませんね」
「顔になるように、ナイフでくり抜くんですよね?」
美姫のイメージのジャックオーランタンと言えば、三角の目にギザギザの歯を見せて笑うおぼけかぼちゃだった。
秀一は頷いた後、少し意地悪そうに目を細めた。
「確かにそれが一般的なジャックオーランタンですが、『KURUSU』のデザイナーとして名を馳せた貴女が、まさかそんな単純なもので満足するわけがないですよね?
どんなものが出来上がるのか、楽しみにしていますよ」
いきなりハードルを上げられて怯みそうになるものの、秀一に言われっぱなしでも悔しい。
「も、もちろんです。素敵なジャックオーランタンを期待していてください」
言い切ってしまった。
ネットで調べてみると、細かい装飾の施された美しいかぼちゃのランタンが幾つか上がってきた。
かぼちゃでイメージされるものと言えば……私にとっては、シンデレラの馬車。
魔法によってかぼちゃが馬車へと変わり、シンデレラを王子様の待つ舞踏会へと運んでくれるーーそんな場面に、幼心にときめいた。
美姫はトレーシングペーパーを取り出し、デザインを始めた。頭に浮かんだ画像を夢中で描いていく。
こんな感じ、かな。
デザインしたのは、正面がシンデレラと王子様が舞踏会で踊っているシルエットを描いたもので、その裏側は4頭の馬に引かれたかぼちゃの馬車が舞踏会への道を駆け抜けるものとなっている。その馬車の窓にはシンデレラのシルエットがあった。
ちょっと、凝り過ぎちゃったかも……
トレーシングペーパーを切り取り、カボチャに貼り付け、デザインを写し取っていく。
「おや。素敵なデザインが出来ましたね」
秀一が紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。でも、彫刻は高等部の美術の時以来なので緊張します」
美姫は目の前に置かれたティーカップに手を伸ばした。秋らしい、リンゴと梨のフルーツ柄の可愛いティーカップには、不恰好なリンゴのスライスが浮かんでいる。思わず微笑んでから鼻を近づけると、爽やかなリンゴの香りと共にカモミールの匂いが漂ってきた。
「アップルカモミールティーですよ。
美姫は夢中になると休むことを忘れてしまいますからね。どうか、根をつめすぎないようにして下さいね」
美姫はそっとカップに口をつけた。とてもまろやかで、芯から温まり、ゆったりとした気分にさせてくれる。
「美味しい……ありがとうございます」
「では、デザインが出来上がったところで、私もお手伝いしましょうか」
秀一が彫刻刀を手に取った。美しい指先にキラリと光る刃先が視界に入ると、美姫は咄嗟に彼の手から彫刻刀を取り上げていた。
「だ、駄目です!!
もし秀一さんの美しい指に怪我でもされたら……」
「大丈夫ですよ、先ほどリンゴもちゃんとスライス出来ましたし。美姫は心配性ですね」
少しからかうようにして秀一は彫刻刀を取り返そうとしたが、頑として美姫は譲らなかった。からかいなど通じないほどに真剣で、愁眉の表情を見せている。
「私が、嫌なんです!
秀一さんが傷つくのを見るのは、辛いんです……」
秀一はハッとした後、包み込むような柔らかな笑みを見せた。昔、美姫の為にクッキーを焼いた際に火傷した指を見て、彼女が大泣きした過去を思い出したからだ。
「分かりましたよ、プリンセス」
美姫の手を取り、指先に唇を落とす。
「美姫の優しさは、幼い頃からずっと変わりませんね……
その心遣いは嬉しいですが、貴女の怪我が心配なのは私も同じなのですよ。十分、気をつけて下さいね」
愛おしそうに唇で指先を撫でられ、美姫の背筋にゾクゾクと甘美な震えが走る。
「は、い……分かり、ました……」
紅潮した頬に潤んだ瞳で見上げる美姫に、秀一は美しく口角を上げて微笑むと、艶やかな黒髪を愛おしそうに撫でた。
「……出来たっ!」
美姫は出来上がったジャックオーランタンを前に、満足そうに見つめた。凝ったデザインにした上に、それでも足らない気がして星や装飾まで手をつけていたら、休みなく彫り続けていた。
壁に掛かっている時計を目にし、美姫は慌てて椅子から立ち上がった。
「いけない!夕飯の準備が……」
気づけばもうすっかり日が落ちていた。
いつもならこの時間には食卓に完璧な状態で食事が並べられ、秀一と共に席に着いているはずなのに。
美姫は手早くテーブルに散らばったかぼちゃの残骸を片付けると、リビングへと急いだ。
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