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喪失
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家に帰ってきてからも、とても眠る気にはなれなかった。
大樹の言葉が耳に残っていたせいもある。
美姫は大地が住んでいる間にここを訪れたことはなかったが、大和にとっては兄との思い出が溢れる場所だ。それを思うと、美姫は居た堪れない気持ちになった。
それでも少しでも躰を休ませるため、ふたりはベッドに横たわった。
美姫はベッドの中で、大和を抱き締めていた。ずっと震えが止まらない。
大和がボソッと呟いた。
「美姫......俺、おまえがいなかったら発狂してたかもしれない。
おまえがいてくれて、本当によかった......ありがとな」
大和の言葉が、重い岩のように美姫にのしかかる。この先何があろうとも、この人の傍を離れることは出来ないと思った。
たとえ、秀一さんのことが心配で堪らなくても……
美姫は黙ったまま、大和を抱く腕に力を込めた。秀一への断ち切れない想いを掻き消すように……
美姫は、秀一に会いに行こうとしていたことは一生言うまいと心に決めた。もうこれ以上、大和を傷つけるようなことはしたくなかった。
大和を抱き締め、頭を撫でているうちに、美姫は長い緊張状態が続いた疲労が限界に達し、眠気が襲ってきた。うつらうつらしながら現実と浅い眠りを行きつ戻りつしていると、それまでずっと黙っていた大和が小さく呟いた。
「......やっぱり、だい兄が自殺なんて、ありえねぇ」
その声には、疑問は含まれておらず、確信をもって発されていた。
大和の言葉で、美姫の夢現つだった頭が痺れたように冷えた。
美姫も心の中では大地の自殺に疑問をもっていたが、
自殺でなければ、誰が大地を殺したのか......
考えるのが恐ろしく、その先へと進めなかった。
大瀧詠十郎は現参議院議員であるだけでなく、過去に衆議院議員から内閣官房副長官や国務大臣、外務大臣を務め、内閣総理大臣にまで上り詰めた、政界のドンとも呼ばれる存在だ。しかも、大和と美姫は披露宴にて媒酌人にもなってもらっている。
美姫だけでなく、大和もそれは十分承知していた。
そんな人物を疑っていいのかという思いと、大地の不審な自殺の真相を知りたいという思いが大和の中でひしめき合っていた。
「なぁ、美姫。やっぱり俺......だい兄が死んだ理由を知りたい。
このままじゃ、納得できねぇ......」
大地は兄ではあったが、年が離れているせいもあり、大和にとって父親的存在でもあった。
幼い頃から父母に放って置かれていた大和は、大地の深い愛情によって育てられたといっても過言ではない。学校行事に参加してくれたのも、殆ど大地だった。
大地、大樹と3人、兄弟でいる時間が、大和にとっては家族の時間だった。
いつも優しく、穏やかで、面倒見が良く、自分のことよりも他人の幸せを考えてくれていた大地。美姫との婚約の時も大樹と一緒になって親を説得できるようにプランを練ってくれ、二人の住む家を与え、婚姻届の証人にもなってくれた。美姫の心理カウンセラーを紹介してくれたのも、大地だった。
大地がいたからこそ、今の自分があるのだ。
そんな大地がもし誰かの陰謀で殺されたのだとしたら......絶対に、許せない。
自分がこの手で犯人を暴いてやりたい。
そんな思いが、大和の胸奥からふつふつと沸いていた。
美姫は、大和がそう言うだろうことは分かっていた。昔から正義感が強く、曲がった事が嫌いな大和が、大切な兄である大地の不審な死に目を瞑ることなどないだろうと。
美姫は大和の後押しをしてあげたいという気持ちもありつつ、大地の死の背後に隠れている大きな陰謀の渦に立ち向かえるのかという不安も抱いていた。
大地お兄さんのことはショックだったし、自殺だってことも納得できないけど、真相を追求して大和が危険な目にあったらと思うと恐くて仕方ない。
それに......大樹お兄さんのあの時の言葉も気になるし。
大樹は、大和と美姫に大地が大瀧詠十郎を地検に告訴するつもりだったことを打ち明けた後、それを暴露してしまったことに動揺し、『だい兄は、自殺だった』と、自分が言ったことを否定するかのように言葉を重ねた。それが、事の大きさを物語っていた。
美姫は、大和が動く前に、どうか事の真相を警察が暴いてくれるよう祈った。
大樹の言葉が耳に残っていたせいもある。
美姫は大地が住んでいる間にここを訪れたことはなかったが、大和にとっては兄との思い出が溢れる場所だ。それを思うと、美姫は居た堪れない気持ちになった。
それでも少しでも躰を休ませるため、ふたりはベッドに横たわった。
美姫はベッドの中で、大和を抱き締めていた。ずっと震えが止まらない。
大和がボソッと呟いた。
「美姫......俺、おまえがいなかったら発狂してたかもしれない。
おまえがいてくれて、本当によかった......ありがとな」
大和の言葉が、重い岩のように美姫にのしかかる。この先何があろうとも、この人の傍を離れることは出来ないと思った。
たとえ、秀一さんのことが心配で堪らなくても……
美姫は黙ったまま、大和を抱く腕に力を込めた。秀一への断ち切れない想いを掻き消すように……
美姫は、秀一に会いに行こうとしていたことは一生言うまいと心に決めた。もうこれ以上、大和を傷つけるようなことはしたくなかった。
大和を抱き締め、頭を撫でているうちに、美姫は長い緊張状態が続いた疲労が限界に達し、眠気が襲ってきた。うつらうつらしながら現実と浅い眠りを行きつ戻りつしていると、それまでずっと黙っていた大和が小さく呟いた。
「......やっぱり、だい兄が自殺なんて、ありえねぇ」
その声には、疑問は含まれておらず、確信をもって発されていた。
大和の言葉で、美姫の夢現つだった頭が痺れたように冷えた。
美姫も心の中では大地の自殺に疑問をもっていたが、
自殺でなければ、誰が大地を殺したのか......
考えるのが恐ろしく、その先へと進めなかった。
大瀧詠十郎は現参議院議員であるだけでなく、過去に衆議院議員から内閣官房副長官や国務大臣、外務大臣を務め、内閣総理大臣にまで上り詰めた、政界のドンとも呼ばれる存在だ。しかも、大和と美姫は披露宴にて媒酌人にもなってもらっている。
美姫だけでなく、大和もそれは十分承知していた。
そんな人物を疑っていいのかという思いと、大地の不審な自殺の真相を知りたいという思いが大和の中でひしめき合っていた。
「なぁ、美姫。やっぱり俺......だい兄が死んだ理由を知りたい。
このままじゃ、納得できねぇ......」
大地は兄ではあったが、年が離れているせいもあり、大和にとって父親的存在でもあった。
幼い頃から父母に放って置かれていた大和は、大地の深い愛情によって育てられたといっても過言ではない。学校行事に参加してくれたのも、殆ど大地だった。
大地、大樹と3人、兄弟でいる時間が、大和にとっては家族の時間だった。
いつも優しく、穏やかで、面倒見が良く、自分のことよりも他人の幸せを考えてくれていた大地。美姫との婚約の時も大樹と一緒になって親を説得できるようにプランを練ってくれ、二人の住む家を与え、婚姻届の証人にもなってくれた。美姫の心理カウンセラーを紹介してくれたのも、大地だった。
大地がいたからこそ、今の自分があるのだ。
そんな大地がもし誰かの陰謀で殺されたのだとしたら......絶対に、許せない。
自分がこの手で犯人を暴いてやりたい。
そんな思いが、大和の胸奥からふつふつと沸いていた。
美姫は、大和がそう言うだろうことは分かっていた。昔から正義感が強く、曲がった事が嫌いな大和が、大切な兄である大地の不審な死に目を瞑ることなどないだろうと。
美姫は大和の後押しをしてあげたいという気持ちもありつつ、大地の死の背後に隠れている大きな陰謀の渦に立ち向かえるのかという不安も抱いていた。
大地お兄さんのことはショックだったし、自殺だってことも納得できないけど、真相を追求して大和が危険な目にあったらと思うと恐くて仕方ない。
それに......大樹お兄さんのあの時の言葉も気になるし。
大樹は、大和と美姫に大地が大瀧詠十郎を地検に告訴するつもりだったことを打ち明けた後、それを暴露してしまったことに動揺し、『だい兄は、自殺だった』と、自分が言ったことを否定するかのように言葉を重ねた。それが、事の大きさを物語っていた。
美姫は、大和が動く前に、どうか事の真相を警察が暴いてくれるよう祈った。
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