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欲望の島 ーレナードsideー
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それでも、僕たちは諦めることなく、仕事の合間を縫ってはシューイチの手がかりを見つけようと探し回った。
シューイチが失踪してから半年が経とうとしていたある日。チューリッヒでの演奏会を終え、ホテルに向かう途中でイギリスのキートン校の時の同級生と偶然会った。
『レオ、久しぶり! ピアニストとして随分活躍してるみたいだな』
『ルカ!なんでこんなところに?』
茶色がかった顎までのブロンドヘア、エーゲ海のように光の当たり方によってコバルトブルーからエメラルドグリーンへと変化する瞳に、記憶の引き出しから彼の名前がポンと飛び出した。
驚いて見上げた僕に、ルカは少しムッとした顔をした。
『え、もう留学終えてとっくにこっちに戻ってきてるよ。レオは冷たいな、全然連絡してこないなんて。俺、待ってたのに』
それを聞き、ルカがスイスからの留学生だったことを思い出した。スイスの王侯貴族が通う名門ル・ルゼ校から、短期留学として来ていたのだった。
ルカは父親が上流階級出身で、しかも銀行の頭取りというかなり富裕層の息子だけど、キートン校ではイギリスの階級が重んじられる。ルカはイギリス人でないというだけで、不当な扱いを受けていた。それもあって、イギリス人であっても差別されていた僕を同等と見なしていたのか、やたら話しかけられた。
まぁ、嫌ってわけではなかったけど。ルカの留学期間が終わる前に僕はウィーンへと渡っていたので、彼がスイスに戻っていることなど今の今まで考えもしなかった。
そういえば......ウィーンへ発つ前に、落ち着いたら連絡するとルカに言った気がする。ウィーンに着いて憧れていたシューイチに会えた途端、そんなことすっかり忘れてた。
ルカは俺に一杯付き合えといい、強引に俺の手を引いた。
スイス人というと『ヨーロッパの日本人』と言われるほど、シャイで真面目で堅物な性格の人間が多いらしいが、ルカは母親がフランスとイタリアのハーフであるせいか、フレンドリーというかふざけた奴だ。
様々な国に囲まれたスイスは移民が多いし、ハーフやクォーター、ミックスなんてざらにいる。生粋のスイス人の方が少ないくらいだから、国民性といっても一括りには出来ないだろう。
連れて来られたのは、「ちょっと一杯」といった雰囲気のしない高級レストランだった。
ルカが、ワイングラスを片手に悪戯っぽい目を向けてきた。何かを企んでいる時の顔だ。
『なぁレオ、今夜から明日の昼までって予定入ってるか?』
唐突な質問に戸惑いつつも、明日のスケジュールを頭の中で考えた。
『もう今日の仕事は終わったからホテルに戻るだけだし、明日は一応オフで夜にはウィーンに戻ることになってるけど......』
それを聞き、ルカが目を輝かせる。学生時代、ルカはいつも僕のクリスタルブルーの瞳を宝石のようだと羨ましがっていたけど、今のルカの瞳は、それこそエメラルドのように煌めいていた。
ルカが今度は手を口に寄せ、内緒話のように声を潜めた。
『だったら、いいとこ連れてってやるよ』
『いいとこってどこだよ?』
『いいから、いいから黙ってついて来いって! 絶対楽しいから!』
嫌な予感しかしない。
『ちゃんと説明しないなら、行かない』
僕の態度にルカは慌て、周囲を見回してから更に声を潜めた。
『Desire Islandって、知ってるか?』
『知らないし、聞いたこともない』
『詳しい場所は言えないけど、ここから車で5時間ぐらい行ったところにある...』
『ちょっと待てよ。スイスは山に囲まれてて島なんて存在しないだろ。いい加減なこと言うなよ!』
ルカは困ったように眉を下げた。
『実際に島ってわけじゃないんだ。
そこにいけば、まさに名前の通り欲望のままに遊ぶことが出来る。酒、ドラッグ、ギャンブル、それにとびきり上等の女......やりたい放題だぞ!』
なんだそれ......
『興味ない』
『あ、お前ゲイだったな。男娼もいるらしいぞ! 』
ルカはキートン校で唯一、僕がゲイであることを知っている存在だった。どうしてそんなことをカミングアウトする気になったのか、覚えてないけど。
ルカは突然、
『あ!』
と大声を上げた。
『なんだよ、っるさいな...』
ルカは反応がいちいちウザイ。
『おまえ、シューイチ・クルスのファンだったよな? そこに行けば、シューイチに会えるぞ!』
一瞬、あまりにもビックリして息をするのさえも忘れた。
シューイチ、が......!?
シューイチが、その島にいるというのか!?
『ルカ、お前......僕を行かせる為にデタラメなこと言ってんじゃないだろうな?』
ルカは人をからかうのは好きだけど、タチの悪い冗談はしないことは知っている。けど、僕はその話を信じられずにいた。
『嘘じゃないって!
先週も俺、そこに行ってたんだけど、プールサイドのベンチに寝転がってる男にすごい数の女が群がっててさ。誰だ? って思ったら、それがシューイチ・クルスだったんだよ! レオに何度もシューイチの載っている雑誌とか、コンサートの動画見せられたから気付いたけど、そうじゃなかったら絶対素通りしてたと思う。
なんか、昔と印象変わったっていうか……やさぐれてる感じがした。あ、この話オフレコな。あそこで見たこと聞いたことは絶対に漏らしちゃいけないってルールになってんだよ』
『僕も、行く』
短く告げた僕に、ルカは笑顔で頷いた。
シューイチが失踪してから半年が経とうとしていたある日。チューリッヒでの演奏会を終え、ホテルに向かう途中でイギリスのキートン校の時の同級生と偶然会った。
『レオ、久しぶり! ピアニストとして随分活躍してるみたいだな』
『ルカ!なんでこんなところに?』
茶色がかった顎までのブロンドヘア、エーゲ海のように光の当たり方によってコバルトブルーからエメラルドグリーンへと変化する瞳に、記憶の引き出しから彼の名前がポンと飛び出した。
驚いて見上げた僕に、ルカは少しムッとした顔をした。
『え、もう留学終えてとっくにこっちに戻ってきてるよ。レオは冷たいな、全然連絡してこないなんて。俺、待ってたのに』
それを聞き、ルカがスイスからの留学生だったことを思い出した。スイスの王侯貴族が通う名門ル・ルゼ校から、短期留学として来ていたのだった。
ルカは父親が上流階級出身で、しかも銀行の頭取りというかなり富裕層の息子だけど、キートン校ではイギリスの階級が重んじられる。ルカはイギリス人でないというだけで、不当な扱いを受けていた。それもあって、イギリス人であっても差別されていた僕を同等と見なしていたのか、やたら話しかけられた。
まぁ、嫌ってわけではなかったけど。ルカの留学期間が終わる前に僕はウィーンへと渡っていたので、彼がスイスに戻っていることなど今の今まで考えもしなかった。
そういえば......ウィーンへ発つ前に、落ち着いたら連絡するとルカに言った気がする。ウィーンに着いて憧れていたシューイチに会えた途端、そんなことすっかり忘れてた。
ルカは俺に一杯付き合えといい、強引に俺の手を引いた。
スイス人というと『ヨーロッパの日本人』と言われるほど、シャイで真面目で堅物な性格の人間が多いらしいが、ルカは母親がフランスとイタリアのハーフであるせいか、フレンドリーというかふざけた奴だ。
様々な国に囲まれたスイスは移民が多いし、ハーフやクォーター、ミックスなんてざらにいる。生粋のスイス人の方が少ないくらいだから、国民性といっても一括りには出来ないだろう。
連れて来られたのは、「ちょっと一杯」といった雰囲気のしない高級レストランだった。
ルカが、ワイングラスを片手に悪戯っぽい目を向けてきた。何かを企んでいる時の顔だ。
『なぁレオ、今夜から明日の昼までって予定入ってるか?』
唐突な質問に戸惑いつつも、明日のスケジュールを頭の中で考えた。
『もう今日の仕事は終わったからホテルに戻るだけだし、明日は一応オフで夜にはウィーンに戻ることになってるけど......』
それを聞き、ルカが目を輝かせる。学生時代、ルカはいつも僕のクリスタルブルーの瞳を宝石のようだと羨ましがっていたけど、今のルカの瞳は、それこそエメラルドのように煌めいていた。
ルカが今度は手を口に寄せ、内緒話のように声を潜めた。
『だったら、いいとこ連れてってやるよ』
『いいとこってどこだよ?』
『いいから、いいから黙ってついて来いって! 絶対楽しいから!』
嫌な予感しかしない。
『ちゃんと説明しないなら、行かない』
僕の態度にルカは慌て、周囲を見回してから更に声を潜めた。
『Desire Islandって、知ってるか?』
『知らないし、聞いたこともない』
『詳しい場所は言えないけど、ここから車で5時間ぐらい行ったところにある...』
『ちょっと待てよ。スイスは山に囲まれてて島なんて存在しないだろ。いい加減なこと言うなよ!』
ルカは困ったように眉を下げた。
『実際に島ってわけじゃないんだ。
そこにいけば、まさに名前の通り欲望のままに遊ぶことが出来る。酒、ドラッグ、ギャンブル、それにとびきり上等の女......やりたい放題だぞ!』
なんだそれ......
『興味ない』
『あ、お前ゲイだったな。男娼もいるらしいぞ! 』
ルカはキートン校で唯一、僕がゲイであることを知っている存在だった。どうしてそんなことをカミングアウトする気になったのか、覚えてないけど。
ルカは突然、
『あ!』
と大声を上げた。
『なんだよ、っるさいな...』
ルカは反応がいちいちウザイ。
『おまえ、シューイチ・クルスのファンだったよな? そこに行けば、シューイチに会えるぞ!』
一瞬、あまりにもビックリして息をするのさえも忘れた。
シューイチ、が......!?
シューイチが、その島にいるというのか!?
『ルカ、お前......僕を行かせる為にデタラメなこと言ってんじゃないだろうな?』
ルカは人をからかうのは好きだけど、タチの悪い冗談はしないことは知っている。けど、僕はその話を信じられずにいた。
『嘘じゃないって!
先週も俺、そこに行ってたんだけど、プールサイドのベンチに寝転がってる男にすごい数の女が群がっててさ。誰だ? って思ったら、それがシューイチ・クルスだったんだよ! レオに何度もシューイチの載っている雑誌とか、コンサートの動画見せられたから気付いたけど、そうじゃなかったら絶対素通りしてたと思う。
なんか、昔と印象変わったっていうか……やさぐれてる感じがした。あ、この話オフレコな。あそこで見たこと聞いたことは絶対に漏らしちゃいけないってルールになってんだよ』
『僕も、行く』
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