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桃源郷
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高井戸I.C.から中央自動車道に乗って北上し、長野自動車道へと入る。長野県へと入った途端に雪が散らつき始め、見ているだけでも寒々しくなる。
車からはクラシックではなく、FMラジオから最新のJ-POPが流れていた。
秀一さんでも、こういう曲、聴くんだ......
それとも......今は、クラシックは聴く気分じゃないのかもしれない。
横から窺ってみたものの、秀一の表情は読み取れなかった。
お母様の車なら、いつもラジオからニュースが流れているんだけど。
そう思った美姫は、明日週刊誌が発売されてからの両親のことが心配になった。
電話からでも、伝えておいた方がいいのかもしれない......
そう思いつつも、隣に秀一がいて出来るはずなどなかった。いや、仮に秀一がいなかったとしても、美姫には父や母に合わせる顔などない。昨夜、会ったのが父との最後の会話になるのかもしれないと思うと、美姫は胸が絞られるような思いだった。
車は安曇野I.Cを降り、「白馬方面」と看板のある方へと向かって走っていた。北アルプスパノラマロードから大町市街を抜け、国道148号を目指す。
ここでスーパーに寄り、食料品と生活用品を購入することにした。
平常よりカジュアルダウンしているとはいえ、田舎のスーパーでは見かけない洗練されたふたりに、通り過ぎる買い物客や在庫を並べる店員たちの物言わぬ視線が追い掛けてくるのを感じる。美姫は手早く目についたものをどんどんカートの中に放り込んでいき、ふたりは早々に店を出た。
「まだ目的地までは少しありますので、寝ていてもいいですよ」
秀一にそう言われるものの、寝られるはずない。心配させたくなくて瞼を閉じるものの、頭は冴える一方だった。
急勾配、急カーブの道が続く狭い山道に入っていく。舗装されている道路は途中で途切れ、そこからは砂利道で車が小刻みに揺れる。トランクに積んだ瓶や缶がぶつかり合う音が、美姫の耳にやけに大きく響いた。
それで、いつの間にかラジオから流れていた音楽が止んでいたことに気づいた。電波の届かない地域に入ったのだ。
「四輪駆動にすればよかったですね」
そう言いながらも、秀一は慣れた様子でハンドルを切り、今度は獣道のような鬱蒼と林の生い茂る中へと運転する。闇の中を車のフラッシュライトのみが前方を映し出す。雪が吹き付け、覆い被さってくる草木に捕らわれ、襲われそうな感覚にとらわれ、美姫は小さく震えた。
緩い傾斜がようやく終わったと思ったところで、秀一がブレーキを踏み、車がゆっくりと停止した。
「ここに案内するのは、美姫。
貴女が初めてですよ」
美姫が助手席を降りた目の前には、素朴な雰囲気の小さなログハウスがポツンと建っていた。玄関脇には電灯が備え付けられているものの、その灯りは弱くボーッと光っており、今にも消えてしまいそうだった。
雲隠れするとは聞いていたものの、秀一であればそれなりのところに連れて行くはず、と考えていた美姫は驚いた。
「ここ......秀一さんの、別荘ですか?」
信じられない思いで尋ねると、秀一はフッと微笑んだ。
「別荘というよりは練習部屋ですね。ピアノの練習に打ち込む時の為に、密かに購入しました。ですが、最近は忙しくて来れていませんでしたので、ここに来るのは2年ぶりでしょうか」
ログハウスを眺めていた美姫は、吹き付ける雪の冷たさに躰を震わせた。
そんな美姫の背中を、秀一が優しく前方へと促す。
「さ、中へ入りましょう」
車からはクラシックではなく、FMラジオから最新のJ-POPが流れていた。
秀一さんでも、こういう曲、聴くんだ......
それとも......今は、クラシックは聴く気分じゃないのかもしれない。
横から窺ってみたものの、秀一の表情は読み取れなかった。
お母様の車なら、いつもラジオからニュースが流れているんだけど。
そう思った美姫は、明日週刊誌が発売されてからの両親のことが心配になった。
電話からでも、伝えておいた方がいいのかもしれない......
そう思いつつも、隣に秀一がいて出来るはずなどなかった。いや、仮に秀一がいなかったとしても、美姫には父や母に合わせる顔などない。昨夜、会ったのが父との最後の会話になるのかもしれないと思うと、美姫は胸が絞られるような思いだった。
車は安曇野I.Cを降り、「白馬方面」と看板のある方へと向かって走っていた。北アルプスパノラマロードから大町市街を抜け、国道148号を目指す。
ここでスーパーに寄り、食料品と生活用品を購入することにした。
平常よりカジュアルダウンしているとはいえ、田舎のスーパーでは見かけない洗練されたふたりに、通り過ぎる買い物客や在庫を並べる店員たちの物言わぬ視線が追い掛けてくるのを感じる。美姫は手早く目についたものをどんどんカートの中に放り込んでいき、ふたりは早々に店を出た。
「まだ目的地までは少しありますので、寝ていてもいいですよ」
秀一にそう言われるものの、寝られるはずない。心配させたくなくて瞼を閉じるものの、頭は冴える一方だった。
急勾配、急カーブの道が続く狭い山道に入っていく。舗装されている道路は途中で途切れ、そこからは砂利道で車が小刻みに揺れる。トランクに積んだ瓶や缶がぶつかり合う音が、美姫の耳にやけに大きく響いた。
それで、いつの間にかラジオから流れていた音楽が止んでいたことに気づいた。電波の届かない地域に入ったのだ。
「四輪駆動にすればよかったですね」
そう言いながらも、秀一は慣れた様子でハンドルを切り、今度は獣道のような鬱蒼と林の生い茂る中へと運転する。闇の中を車のフラッシュライトのみが前方を映し出す。雪が吹き付け、覆い被さってくる草木に捕らわれ、襲われそうな感覚にとらわれ、美姫は小さく震えた。
緩い傾斜がようやく終わったと思ったところで、秀一がブレーキを踏み、車がゆっくりと停止した。
「ここに案内するのは、美姫。
貴女が初めてですよ」
美姫が助手席を降りた目の前には、素朴な雰囲気の小さなログハウスがポツンと建っていた。玄関脇には電灯が備え付けられているものの、その灯りは弱くボーッと光っており、今にも消えてしまいそうだった。
雲隠れするとは聞いていたものの、秀一であればそれなりのところに連れて行くはず、と考えていた美姫は驚いた。
「ここ......秀一さんの、別荘ですか?」
信じられない思いで尋ねると、秀一はフッと微笑んだ。
「別荘というよりは練習部屋ですね。ピアノの練習に打ち込む時の為に、密かに購入しました。ですが、最近は忙しくて来れていませんでしたので、ここに来るのは2年ぶりでしょうか」
ログハウスを眺めていた美姫は、吹き付ける雪の冷たさに躰を震わせた。
そんな美姫の背中を、秀一が優しく前方へと促す。
「さ、中へ入りましょう」
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