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桃源郷
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美姫は秀一の言われるがまま、スーツケースを取り出して支度を始めた。
そこには、華やかなドレスや小物などは一切入っていなかった。今着ている服も地味な物にし、帽子とサングラスを着用するように言われた。
まるで、犯罪者みたい......
思わず心の中で呟いた美姫は、自身の言葉にショックを受けていた。
私たちは、禁忌の罪を犯した犯罪者、なんだ。世間に受け入れてもらえない私たちは、ひっそりと隠れ、怯えて生活するしかないんだ......
「用意が出来ましたか?」
秀一の問いかけに美姫はハッとし、振り返ると頷いた。
「美姫、薬はあとどれだけありますか」
「え...あ、確かめてみます」
薬は3日分しか残っていなかった。
それを受け、秀一が担当医に電話を入れる。
「長期旅行と言うことで1ヶ月分の処方箋を出してもらいましたので、途中で受け取りに行きましょう」
「はい」
こんな時にも冷静に対応する秀一を頼もしく思う一方、何も出来ない自分に苛立ちを感じた。
秀一は白いニットにジーンズという、いつもよりも相当ラフな格好であるにもかかわらず、逆にそのシンプルさが彼の美しさを際立たせていた。サングラスをして帽子を被っていても、一般人とは異なる。そこに立っているだけで華があり、思わず魅了されてしまう力強いオーラを漂わせていた。
秀一は美姫の小さいスーツケースの上に自らのボストンバッグを乗せると、玄関へと歩き出す。
「急ぎましょう。これから、時間がかかりますので」
一体どこへ向かうのだろうと思いつつも、秀一にそれを聞いてはいけない気がした。不安に思いつつも、黙ってついていくだけだった。
地下駐車場に着くと、秀一は愛用しているいつもの車ではなく、黒のセダンの方へと歩み寄り、助手席の扉を開いた。
「この車は滅多に使わないので、気づかれる可能性は低いでしょう」
美姫は緊張で喉を鳴らした。心の中で大きくなった不安に呑み込まれそうになり、思わず躰を抱き締める。
これから、私たちはどうなってしまうのだろう......
「大丈夫ですか、美姫?」
心配する秀一の声が零れ、美姫は力無い笑みで応えた。
「えぇ、大丈夫、です......」
秀一にエスコートされて助手席に座ると、扉がゆっくりと閉まった。
途中、病院に立ち寄って処方箋を受け取り、隣の薬局で無事薬を受け取った。サングラスをしていることで怪しまれるのでは、と不安だったが、心療内科の患者には自分が通院していることを知られたくない患者もいるため、周囲からじろじろと見られることなく済んだ。
顔を見られないため、途中のランチはドライブスルーを利用することに。それは二人にとって、初めての経験だった。
「私、ドライブスルーに行ってみたいって思ってたんです。まさか秀一さんと来られるなんて考えもしてなかったので、嬉しいです」
そう言ったものの、本来ならこういった場面でははしゃぐ美姫だったが、その笑顔も曇りがちだった。けれど、なんとか明るく見せようとする美姫の努力を無駄にしないためにも秀一は微笑んで返した。
「えぇ、私も実に興味深い体験ができてよかったです」
商品を受け取り、お金のやり取りをする店員の瞳は秀一に釘付けだった。うっとりと秀一を見つめるその瞳が、明日になれば好奇の目に変わるのかと思うと、美姫はやりきれない気持ちになった。
そこには、華やかなドレスや小物などは一切入っていなかった。今着ている服も地味な物にし、帽子とサングラスを着用するように言われた。
まるで、犯罪者みたい......
思わず心の中で呟いた美姫は、自身の言葉にショックを受けていた。
私たちは、禁忌の罪を犯した犯罪者、なんだ。世間に受け入れてもらえない私たちは、ひっそりと隠れ、怯えて生活するしかないんだ......
「用意が出来ましたか?」
秀一の問いかけに美姫はハッとし、振り返ると頷いた。
「美姫、薬はあとどれだけありますか」
「え...あ、確かめてみます」
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「長期旅行と言うことで1ヶ月分の処方箋を出してもらいましたので、途中で受け取りに行きましょう」
「はい」
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秀一は美姫の小さいスーツケースの上に自らのボストンバッグを乗せると、玄関へと歩き出す。
「急ぎましょう。これから、時間がかかりますので」
一体どこへ向かうのだろうと思いつつも、秀一にそれを聞いてはいけない気がした。不安に思いつつも、黙ってついていくだけだった。
地下駐車場に着くと、秀一は愛用しているいつもの車ではなく、黒のセダンの方へと歩み寄り、助手席の扉を開いた。
「この車は滅多に使わないので、気づかれる可能性は低いでしょう」
美姫は緊張で喉を鳴らした。心の中で大きくなった不安に呑み込まれそうになり、思わず躰を抱き締める。
これから、私たちはどうなってしまうのだろう......
「大丈夫ですか、美姫?」
心配する秀一の声が零れ、美姫は力無い笑みで応えた。
「えぇ、大丈夫、です......」
秀一にエスコートされて助手席に座ると、扉がゆっくりと閉まった。
途中、病院に立ち寄って処方箋を受け取り、隣の薬局で無事薬を受け取った。サングラスをしていることで怪しまれるのでは、と不安だったが、心療内科の患者には自分が通院していることを知られたくない患者もいるため、周囲からじろじろと見られることなく済んだ。
顔を見られないため、途中のランチはドライブスルーを利用することに。それは二人にとって、初めての経験だった。
「私、ドライブスルーに行ってみたいって思ってたんです。まさか秀一さんと来られるなんて考えもしてなかったので、嬉しいです」
そう言ったものの、本来ならこういった場面でははしゃぐ美姫だったが、その笑顔も曇りがちだった。けれど、なんとか明るく見せようとする美姫の努力を無駄にしないためにも秀一は微笑んで返した。
「えぇ、私も実に興味深い体験ができてよかったです」
商品を受け取り、お金のやり取りをする店員の瞳は秀一に釘付けだった。うっとりと秀一を見つめるその瞳が、明日になれば好奇の目に変わるのかと思うと、美姫はやりきれない気持ちになった。
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