上 下
400 / 1,014
暴かれる過去

しおりを挟む
※秀一の語りと現実の描写が混ざり合いますのでご注意ください。


 ふたりが亡くなる前日の深夜、私は部屋を抜け出して庭園を歩いていました。それが、門の外へは出ることが出来ない、私の唯一の逃げ場でしたから。

 すると、庭園を抜けた先にあるガレージの明かり取りの窓から光が漏れているのが見えました。

 あの人たちは明日の早朝から出張を兼ねた旅行なので、こんな真夜中に出かける筈がない。
 運転手が、明日の準備でもしているのだろうか。

 そう思いながらガレージを横切ろうとした私は、扉の奥から僅かに話し声が聞こえてきて、立ち止まりました。

 周囲を見回し、誰もいないのを確認し、音をたてないように耳を扉に当てて聞き耳を立てると……

 中からはふたりの男の声。ひとりは父の専属の運転手である、荒木さん。

 そして、もう一人の声は……

「そう、兄様。
 あなたでした」

 え。なぜ、兄様がここに?
 今は大学寮に住んでいて、ここに寄りつくことなどなくなったというのに。しかも、誰にも声をかけることなく、こんな真夜中に現れるなんて。

 驚き、動揺しながらも、何かに突き動かされるように私は全神経をガレージの扉の中の出来事に集中しました。

 扉の奥からは、荒木さんと兄様の切迫した声が聞こえてきました。

『荒木さん、やめるんだ。そんなこと、私にはさせられない』
『いえ、誠一郎坊っちゃま。
 私は、この時をずっと待っていたのです。来栖嘉一に、復讐する機会を』

 私は、息を呑みました。

 荒木さんは、父の元で20年以上も勤めているベテラン運転手。気性が荒く、すぐに使用人を解雇するあの人すら信用していた荒木さんに、そんな思いがあったと知り、私は心の奥底から驚きました。

 兄様は、荒木さんを宥め、気持ちを落ち着かせようとしていました。

『妹さんのことは……同情します。けれど、そんな復讐をしたところで、亡くなった妹さんは生き返らない。
 きっと妹さんも、そんなことを荒木さんには望んでいないはずだ』
『坊っちゃん……私には、妻も子供もいません。それというのも、何もかもこの日の為に自分の人生を全て諦めたからなんです。
 あの男と女を道連れに出来るなら、自分の命なんて惜しくないんですよ』
『いや、だめだ。考え直すんだ』

 秀一が、いったん間を置いた。

「これは、私が大人になってから調べたことですが……荒木さんには、両親の再婚によって出来た連れ子の妹さんがいました。結局この再婚は上手くいかず、5年後には離婚し、またそれぞれの親元に引き離されることになってしまいましたが。荒木さんと妹さんがその後連絡を取り続けていたかどうかについては、私は知る由もありませんが、その後の妹さんについての消息は掴んだようです。

 妹さんは母子家庭の中、奨学金をもらいながらバイトして大学まで卒業し、来栖財閥の関連会社に就職しました。不幸にもその間に育ててくれた母親が亡くなり、妹さんは身寄りをなくします。それから運悪くあの人に目をつけられ、無理やり愛人にさせられた挙句、子供まで妊娠させられ、そして捨てられたようです。彼女は失意のあまり、自宅のアパートで首を吊って自殺したようですね。

 荒木さんが妹さんの自殺した原因を彼女からの遺書によって知ったのか、それとも自らの足で調べたのかは分かりませんが、彼は来栖嘉一へ復讐することを心に決めました。
 その後、荒木さんは父の専属運転手となり、信頼を得るまで機会を密かに窺い、殺害を狙っていたのでしょう」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

義妹のミルク

笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。 母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。 普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。 本番はありません。両片想い設定です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...