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成人式
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「美姫、とても似合いますよ」
「おぉ、いいな」
両親に褒められ、美姫は少しはにかみながらもよく見えるように袂を広げ、晴れ姿を彼らに見せた。
紅色を基調にし、金と銀で描かれた鶴が舞い、百花の王とも称される様々な艶やかな色の牡丹が咲き乱れ、袖の袂は目にも鮮やかな漆黒で染められた、豪華絢爛な中にも大人の上品な落ち着きを感じさせる着物は、凜子が美姫の成人式のために選んだものだった。
やっぱり秀一さんの言った通り、成人式の着物はお母様が用意してくださっていたから、ニューイヤーコンサートで秀一さんの選んだ着物が着られて良かった。
今日、秀一は仕事のため、会うことはできない。寂しさを感じつつも、両親に成人の祝いをしてもらえる喜びを噛み締めた。
「車に乗るときには、着物の裾が汚れないように気をつけてくださいね」
「はい」
凜子の運転で、成人式会場となっている櫻井ロイヤルホテルへと向かう。
きっとそこでは、薫子だけではなく、薫子の両親とも顔を合わせることになるだろう。
今日、薫子は……この成人式が終わったら、悠と駆け落ちしてイギリスで暮らすことになるんだ。
美羽の胸がきつく絞られた。
薫子に最後に会った日から、直接会うことはないものの、電話やLINEを通じて着々と計画は練られていた。
当初は美姫と大和だけがこの計画に協力することになっていたが、その後にもうひとり薫子の友人が加わることになったと聞いている。彼女とは、会場で会えるはずだ。
大和にも、顔を合わすことになるんだ……
できればもう、顔を合わしたくなかった。何もなかったことにして、全て葬り去りたかった。
けれど、だからと言って大切な友人の計画を私情で壊すことはできない。
今日さえ乗り切れば、大丈夫。
きっと、うまくいく。
不安を打ち消すように、心の中で呟いた。
「『鳳凰の間』、ここね」
凛子が案内を手に、会場へと視線を向けた。既に着物やスーツを着た新成人たちが受付に並んでいるのが見えた。凜子と誠一郎も共に列に並び、順番を待つ。
多くの成人式では保護者は参加しないことが多いが、毎年青海学園の成人式は保護者も参加し、その後のは理事会主催の慰労会にて人脈作りも兼ねたパーティーをするのが常だった。
受付の前に立つと、受付嬢が笑顔を向けた。美姫は、受付が男性ではなくて安堵した。
「この度は、ご成人おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お名前頂戴してよろしいですか」
「来栖美姫です」
写真入りの名簿で本人と名前を確認し、成人式の案内と共にセキュリティパスが渡される。
「こちらは、2部のパーティー会場に入場される際に必要となります。写真とお名前が裏に記載されていますので、お間違いないかご確認下さい。他人への譲渡は禁止されており、失くしても再発行致しませんので、お気を付け下さい」
「はい」
成人式は2部制となっており、通常の成人式が終わった後に同会場の別の間にてパーティーが行われる。
だが、成人式が終わったら薫子の駆け落ちを補助するため、会場を去ることになっていたので、2部のパーティーには参加しない。
どちらにしても、パーティーに参加する気はなかったが。この成人式でさえ、美姫にとってはいつトラウマが発症するのではと怯え、早く帰りたかった。
成人式は、両親への親孝行のためというのが大きかった。
「おぉ、いいな」
両親に褒められ、美姫は少しはにかみながらもよく見えるように袂を広げ、晴れ姿を彼らに見せた。
紅色を基調にし、金と銀で描かれた鶴が舞い、百花の王とも称される様々な艶やかな色の牡丹が咲き乱れ、袖の袂は目にも鮮やかな漆黒で染められた、豪華絢爛な中にも大人の上品な落ち着きを感じさせる着物は、凜子が美姫の成人式のために選んだものだった。
やっぱり秀一さんの言った通り、成人式の着物はお母様が用意してくださっていたから、ニューイヤーコンサートで秀一さんの選んだ着物が着られて良かった。
今日、秀一は仕事のため、会うことはできない。寂しさを感じつつも、両親に成人の祝いをしてもらえる喜びを噛み締めた。
「車に乗るときには、着物の裾が汚れないように気をつけてくださいね」
「はい」
凜子の運転で、成人式会場となっている櫻井ロイヤルホテルへと向かう。
きっとそこでは、薫子だけではなく、薫子の両親とも顔を合わせることになるだろう。
今日、薫子は……この成人式が終わったら、悠と駆け落ちしてイギリスで暮らすことになるんだ。
美羽の胸がきつく絞られた。
薫子に最後に会った日から、直接会うことはないものの、電話やLINEを通じて着々と計画は練られていた。
当初は美姫と大和だけがこの計画に協力することになっていたが、その後にもうひとり薫子の友人が加わることになったと聞いている。彼女とは、会場で会えるはずだ。
大和にも、顔を合わすことになるんだ……
できればもう、顔を合わしたくなかった。何もなかったことにして、全て葬り去りたかった。
けれど、だからと言って大切な友人の計画を私情で壊すことはできない。
今日さえ乗り切れば、大丈夫。
きっと、うまくいく。
不安を打ち消すように、心の中で呟いた。
「『鳳凰の間』、ここね」
凛子が案内を手に、会場へと視線を向けた。既に着物やスーツを着た新成人たちが受付に並んでいるのが見えた。凜子と誠一郎も共に列に並び、順番を待つ。
多くの成人式では保護者は参加しないことが多いが、毎年青海学園の成人式は保護者も参加し、その後のは理事会主催の慰労会にて人脈作りも兼ねたパーティーをするのが常だった。
受付の前に立つと、受付嬢が笑顔を向けた。美姫は、受付が男性ではなくて安堵した。
「この度は、ご成人おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お名前頂戴してよろしいですか」
「来栖美姫です」
写真入りの名簿で本人と名前を確認し、成人式の案内と共にセキュリティパスが渡される。
「こちらは、2部のパーティー会場に入場される際に必要となります。写真とお名前が裏に記載されていますので、お間違いないかご確認下さい。他人への譲渡は禁止されており、失くしても再発行致しませんので、お気を付け下さい」
「はい」
成人式は2部制となっており、通常の成人式が終わった後に同会場の別の間にてパーティーが行われる。
だが、成人式が終わったら薫子の駆け落ちを補助するため、会場を去ることになっていたので、2部のパーティーには参加しない。
どちらにしても、パーティーに参加する気はなかったが。この成人式でさえ、美姫にとってはいつトラウマが発症するのではと怯え、早く帰りたかった。
成人式は、両親への親孝行のためというのが大きかった。
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