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罪悪感
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「わっ、ありがとう!お汁粉…嬉しい」
「へっへー。今日から入った冬季限定!」
礼音は得意そうにピースサインを見せた。その手にはホットコーヒーを持っている。礼音は再び肩の触れ合う距離でベンチに腰掛けた。
両手で缶を持つと、冷たかった手がだんだんと熱を持ち始めてジンジンとしてくる。この温もりをキープしたくて、少しずつお汁粉を啜った。喉元から胃へと温かさが染み渡っていく。
そこで、ふと思い出す。
「あれっ?礼音って今日は講義って午後からしか入ってないんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけどさ…美姫ちゃんに会いたくて早起きしたわけですよ」
わざとかしこまった調子でおどけて礼音が言った。
「ふふっ、さすがモテる男の子は言い方慣れてるね」
「いや、他の女の子にはこんなこと言ってないって! そういう美姫ちゃんだって、かなりのモテ子ちゃんなの、気づいてる?俺含め、狙ってる男かなりいるんだよ」
「あははっ、それはありがとう。褒め言葉として受け取っておくね」
「わっ、冷たいなぁ。美姫ちゃんの誕生日当日もさぁ、お祝いしたくて電話したのに素気無く断られるし……」
美姫の鼓動が跳ね、瞬時に秀一との淫らな秘事が脳裏に蘇った。
「ねぇ、あの日は本当に叔父さんと食事して帰っただけなの?」
その一言に、そんな筈はないのに、何かを見透かされている気がして美姫はドギマギした。
「え……あ、うん……」
「誕生日が親戚の叔父さんと食事だけで終わるなんて、寂し過ぎでしょ」
礼音が同情するように言った。
「そんな、こと…ないよ」
この大学に入学してから、美姫は誰にも自分の身の上を話したことはなかった。自分が来栖財閥の令嬢であること。ピアニストである来栖秀一が叔父であること。それを話したら、自分がみんなから一歩引いて見られるようになるのじゃないかと不安で……話せずにいた。
礼音は、自分のイメージにある叔父さんと美姫を想像して、話しているのだろう。まさか、その相手と美姫が恋仲にあるとは思いもせずに。
それが…普通、なんだよね……
「あれっ、美姫ちゃん、そのネックレス……もしかして、誕生日プレゼント?」
礼音が秀一からもらった白薔薇のネックレスを指差して言った。
誰からもらったか分かる訳じゃないから、いいよね……
「あ、そう…なの」
「それ、めちゃめちゃ高そうじゃん!なんか俺、プレゼント渡しにくいなぁ……」
「え……」
礼音はトートバッグからリボンのかかった小さな箱を取り出した。お汁粉の缶を持っていた美姫の片方の手を取り、掌の上にそれをポンと載せた。
「はい、プレゼント。遅くなったけど…美姫ちゃん、誕生日おめでとう!」
「……もらって、いいの?」
「何言ってんの。美姫ちゃんの為に買ったんだから、貰ってもらわないと困るし。ほら、開けて、開けて…」
お汁粉の缶をベンチの横に置き、小さな箱を開けてみると、そこには銀色のクマに小さな紅い宝石が埋め込まれたネックレスが入っていた。
「そのネックレスと比べたらかなり見劣りするけど……」
「ううん。すごく、可愛い。嬉しい、ありがとう!なんかごめんね、同じサークルってだけで気を遣ってくれて」
「へっ?」
「やっぱり礼音って優しいね。女の子達に人気あるのよく分かるよ! あ、私3限目の講義始まる前に図書室で本だけ借りてこないと。じゃあ、またサークルでね!」
美姫は立ち上がり、礼音にお礼を言って立ち去った。
いくら両親が一般の子供と同じように育てたいと思っていても、やはり美姫は財閥の令嬢であり、幼稚舎から高等部までを裕福な子供ばかりが通う学園で過ごしていたこともあり、一般的な金銭感覚とはズレていた。普通の大学生が高価なネックレスを誰にでも買ってあげるわけではないことを考えもしなかったのだった。
立ち去る美姫を呆然と見送った後、礼音が呟いた。
「美姫ちゃんって……天然?それとも……相当な小悪魔、なわけ?でも……なんか燃えるわ」
礼音が口の端を上げて笑みを浮かべたことなど、美姫は知る由もなかった。
「へっへー。今日から入った冬季限定!」
礼音は得意そうにピースサインを見せた。その手にはホットコーヒーを持っている。礼音は再び肩の触れ合う距離でベンチに腰掛けた。
両手で缶を持つと、冷たかった手がだんだんと熱を持ち始めてジンジンとしてくる。この温もりをキープしたくて、少しずつお汁粉を啜った。喉元から胃へと温かさが染み渡っていく。
そこで、ふと思い出す。
「あれっ?礼音って今日は講義って午後からしか入ってないんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけどさ…美姫ちゃんに会いたくて早起きしたわけですよ」
わざとかしこまった調子でおどけて礼音が言った。
「ふふっ、さすがモテる男の子は言い方慣れてるね」
「いや、他の女の子にはこんなこと言ってないって! そういう美姫ちゃんだって、かなりのモテ子ちゃんなの、気づいてる?俺含め、狙ってる男かなりいるんだよ」
「あははっ、それはありがとう。褒め言葉として受け取っておくね」
「わっ、冷たいなぁ。美姫ちゃんの誕生日当日もさぁ、お祝いしたくて電話したのに素気無く断られるし……」
美姫の鼓動が跳ね、瞬時に秀一との淫らな秘事が脳裏に蘇った。
「ねぇ、あの日は本当に叔父さんと食事して帰っただけなの?」
その一言に、そんな筈はないのに、何かを見透かされている気がして美姫はドギマギした。
「え……あ、うん……」
「誕生日が親戚の叔父さんと食事だけで終わるなんて、寂し過ぎでしょ」
礼音が同情するように言った。
「そんな、こと…ないよ」
この大学に入学してから、美姫は誰にも自分の身の上を話したことはなかった。自分が来栖財閥の令嬢であること。ピアニストである来栖秀一が叔父であること。それを話したら、自分がみんなから一歩引いて見られるようになるのじゃないかと不安で……話せずにいた。
礼音は、自分のイメージにある叔父さんと美姫を想像して、話しているのだろう。まさか、その相手と美姫が恋仲にあるとは思いもせずに。
それが…普通、なんだよね……
「あれっ、美姫ちゃん、そのネックレス……もしかして、誕生日プレゼント?」
礼音が秀一からもらった白薔薇のネックレスを指差して言った。
誰からもらったか分かる訳じゃないから、いいよね……
「あ、そう…なの」
「それ、めちゃめちゃ高そうじゃん!なんか俺、プレゼント渡しにくいなぁ……」
「え……」
礼音はトートバッグからリボンのかかった小さな箱を取り出した。お汁粉の缶を持っていた美姫の片方の手を取り、掌の上にそれをポンと載せた。
「はい、プレゼント。遅くなったけど…美姫ちゃん、誕生日おめでとう!」
「……もらって、いいの?」
「何言ってんの。美姫ちゃんの為に買ったんだから、貰ってもらわないと困るし。ほら、開けて、開けて…」
お汁粉の缶をベンチの横に置き、小さな箱を開けてみると、そこには銀色のクマに小さな紅い宝石が埋め込まれたネックレスが入っていた。
「そのネックレスと比べたらかなり見劣りするけど……」
「ううん。すごく、可愛い。嬉しい、ありがとう!なんかごめんね、同じサークルってだけで気を遣ってくれて」
「へっ?」
「やっぱり礼音って優しいね。女の子達に人気あるのよく分かるよ! あ、私3限目の講義始まる前に図書室で本だけ借りてこないと。じゃあ、またサークルでね!」
美姫は立ち上がり、礼音にお礼を言って立ち去った。
いくら両親が一般の子供と同じように育てたいと思っていても、やはり美姫は財閥の令嬢であり、幼稚舎から高等部までを裕福な子供ばかりが通う学園で過ごしていたこともあり、一般的な金銭感覚とはズレていた。普通の大学生が高価なネックレスを誰にでも買ってあげるわけではないことを考えもしなかったのだった。
立ち去る美姫を呆然と見送った後、礼音が呟いた。
「美姫ちゃんって……天然?それとも……相当な小悪魔、なわけ?でも……なんか燃えるわ」
礼音が口の端を上げて笑みを浮かべたことなど、美姫は知る由もなかった。
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