チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第十章 同じ空の下

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 もう一本花火をつけようと思って先に火をつけたものの、いつまで経ってもつかない。

「あれ……しけっちゃってるのかな」

 おそるおそる花火を覗いていると、横から「貸してみぃ」と言われて見上げると、いつのまにか勇気くんが横に立っていた。花火を渡すと、その先端をブチっと手でちぎり、私に戻した。

「すぐ火ぃつくから、気をつけるがよ」

 勇気くんの言った通り、火を近付けた途端勢い良く火花がシューッと出てきた。

「こういうことが、たまにあるがよ」
「へぇ、そうなんだ」

 今日告白して、フラレたとは思えないほど、勇気くんは私に普通に接してくれて、だからこそ私も普通にしていないといけないと思った。花火がすぐに終わり、火が消えた。なんだか気まづい。

「ジャジャーン! 新しい花火持ってきたがよ!」

 郁美がさっきとは違う種類の花火を手に、私たちの元へと来てくれてホッとした。

「わーっ、やろう!」

 花火の先の練り火薬に火をつけるとバチバチと音をたてて、花があちこちに咲いては消える。終わった花火をバケツの水に入れるとジュッと音をたて、沈んでいった。

「あたしの方が綺麗ね!」
「俺のが、わっぜバチバチ言うとるが!!」

 いつの間にか、自然に勇気くんの横に郁美が並んで花火をしていた。そんな二人を背にし、そっとその場を離れた。

 前田くんと吉元くんは鉄砲型の花火を互いに向け合って、松元先生に怒られていた。由美子と真紀は花火をひとつひとつ眺めてて、その中から太い手筒花火を見つけてやろうとし、それを本田くんと中村くんが慌てて止めていた。みんなから少し離れたところでは、田中くんと涼子が座り込んで線香花火をしてる。赤井先生は花火を眺めながら、芋焼酎を豪快に瓶から飲み、楽しそうに笑っていた。

 ふと見ると、海くんは花火をせずに座ってみんなを眺めてた。

「海くん、花火しないの?」
「じゃあ、やる。何がいい?」

 海くんに尋ねられ、さっき田中くんと涼子を見て羨ましいと思った気持ちが蘇ってきた。

「えっと……線香花火でもする?」

 頷いた海くんに、花火を取りに行こうとすると、「いいよ、俺が……」と制されて、取りに行ってくれた。

「はい」
「ありがとう」

 線香花火を受け取り、ふたりで向き合って座ると、海くんがボソッと呟いた。

「競争しよっか」
「え、競争?」

 顔を上げると、海くんが悪戯っぽく笑顔を見せる。

「どっちが長く持つか」
「いいよ」
「負けた人が、勝った人の言うこと聞くルール」
「プッ……分かった」

 海くんって、意外と子供っぽいところあるよなぁ……なんて思いながら、そういえば、子どもの頃したことを思い出した。

 海くんが私の線香花火に火をつけてくれて、間をおかず自分のにもつけた。私の線香花火はボッと最初に勢い良く燃えて、それからもしばらく勢い良く燃えながら丸いオレンジの玉になって火花を散らす。海くんの方はボッと勢い良く燃えたまでは一緒だったんだけど、それから火がシュルシュルと上に上がっていき、綺麗なオレンジの玉を形成してプクッと盛り上がり、それから火花を散らし始めた。

 どちらも同じようにたくさんのオレンジの火花を四方八方に散らし、その美しさに吐息が漏れる。

 けれど……

「あっ……」

 突然オレンジの玉がボトリと落ち、私の線香花火は終わってしまった。海くんの線香花火はまだ続いてる。

「俺は、後からだったし」

 そう言われたけど、その時間を大幅に越しても、まだ海くんの花火はオレンジの丸い玉を中心にして小さな火花をたくさん散らしていた。やがて、その火花が放射線状になり、勢いが低下し、オレンジの玉だけとなる。それでも、落ちることなくその小さな小さな光が残っていて、私たちは瞬きもせず、一心にそれを見つめた。真っ暗な中に浮かび上がる小さなオレンジは、美しく、幻想的で、それでいて寂しさも感じた。穏やかな風に乗って煙の匂いに混じって海くんの石鹸の匂いが鼻腔を擽り、胸がキュンと切なく鳴った。

 やがて光は更に小さくなって収束し、まるで花火の先に取り込まれたように消えた。海くんの線香花火は、私のよりも優に倍は長かった。

「え……ちょっと待って」
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