チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第十章 同じ空の下

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 草そり場へ戻ると、郁美はダンボールに乗って斜面を爽快に滑っていた。

「美和子ぉ!! これ、わっぜ楽しーっっ!!」

 笑顔で叫ぶ郁美に、チクチクと胸を針で刺されるような痛みが走る。

 どうして、勇気くんは私に『好き』なんて言うんだろう。見てて分かる。勇気くんが好きなのは、郁美なのに……どうして、気づかないんだろう。

 勇気くんは郁美に駆け出すとグイッとダンボールを奪い、斜面を駆け上がっていった。

「うわっ、勇気ぃ、待てこらー!」
「俺にもそり、やらせるがよ!」

 逃げる勇気くんと追いかける郁美に、周囲から笑い声が上がる。

 きっと、気づいてないのは本人たちだけなんだろうな……

 視界の端には、海くんの背中があった。

 もし、告白したのが海くんだったら……私は勇気くんに言ったみたいに、『付き合えない』ってはっきり言えたのかな。 
 
 まるで私の心の声が聞こえたかのように、海くんが突然振り返った。

「何か、言った?」
「ううん……なんにも、言ってない」

 海くんは睫毛を揺らすと、また背を向けて歩き出した。

「あー、腹減ったがよ!」
「西郷どんは、そればっかやが!!」
「ですよー!」
「アハハ……そいじゃ、そろそろ夕飯の準備するね」

 今夜は大鍋でカレーを調理する。勇気くんが昨日こっそりカレー用の肉までバーベキューで焼いてしまったので、先生たちが新しいのを買ってきてくれた。薪班はもちろん田中くんで、女子たちの策略で涼子も同じ班になった。ご飯班は由美子と真紀と本田くんと中村くん、カレー班は私と郁美と海くんと勇気くんと前田くんと吉元くんが担当することになった。
 
「海くぅん、包丁使うの上手いがよ!」

 じゃがいもを剥く海くんの手先に、女子の視線が集中する。ピザの時にも思ったけど、海くんって包丁の使い方が慣れてる。

「あぁ……うち母子家庭だから、時々料理もしてるんだ」
「料理のできる男子ってポイント高いがよー」
「わっぜ、素敵ー」
「スパダリ言うんじゃろ?」
「そうそう!!」

 その横で、危なっかしい手つきで勇気くんが包丁を持ち、じゃがいもの皮を剥いていた。

「あぁ、勇気ぃ! あんたぁまたケガするがよ!! もう、貸してっっ!!」

 郁美は勇気くんからじゃがいもを奪うと剥いた人参をまな板に置き、端っこを斜めにトンと切った。

「これとおんなじ大きさに切って!」
「お。おぉ……」

 勇気くんは見本の人参を見ながら、不器用な手つきで切っていった。

 みんなで作ったカレーは美味しくて、ご飯も少しお焦げが出来てるのが好評で、あっという間になくなった。今日は男子たちも五右衛門風呂に入り、さっぱりしたところで、男子たちはテントの隅に置かれたビニール袋に向かって駆け出した。

「花火するがよー!」
「おぉ、西郷どんやるが!!」
「バケツ用意してー」
「あ、ここにも花火あるがよ」
「おぉー、わっぜ興奮してきた!!」

 このキャンプ場は手持ち花火だけ認められているので、打ち上げ花火やねずみ花火を除き、テーブルの上に並べていく。松元先生と赤井先生は火を囲んでピクニックチェアに座って安定の飲み会姿勢で、赤井先生は松元先生に強引に巻き込まれているんだと思ってたけど、松元先生のことを慕っていることが、このキャンプを通じて伝わってきた。

「お願いしまーす」

 花火の先の薄い紙に火をつけてもらうと、シューと音がして、勢い良く火花が前方に噴き出した。強い光を放ち、赤、黄色、オレンジと次々に色を変えたかと思うと勢いが急に弱まり、花火が消えた。周りを見ると、あちこちで花火がついていて、色とりどりの光に照らされたみんなの顔が明滅する。白い煙が一斉に上がって、私の方に流れてきて、目が痛くなって涙ぐんだ。

 そう、これは煙のせいだ……

「西郷! 花火を振り回すんじゃないがよ!!」

 松元先生の声に勇気くんに視線を向けると、花火を両手に持ち、ぐるんぐるん振り回していた。

『西郷どん、走れ走れー!!』
「こらー、みんなに迷惑じゃけぇ、走らんがよ!!」

 そんな姿を見られるのももう最後なんだと思うと、笑いながら泣けてきた。
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