チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第六章 幼馴染の関係

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 郁美は玄関で迎えた私に、少し照れ臭そうな顔を見せた。

「美和子、昨日はごめんね」
「う、ううん……上がって」

 郁美はTシャツにショートパンツというラフな格好で、サンダルを三和土で脱ぐと上がった。

「美和子のおばあちゃん家来るの、初めてよね。おばあちゃんは?」
「今、畑に出てる」
「そっかぁ」

 長い廊下を歩き、私の部屋へと案内する。郁美は好奇心を隠そうともせず、落ち着きなくキョロキョロしていた。きっと、勇気くんの家にお邪魔してた時の私もあんなんだったんだろうと思うと、ちょっと恥ずかしくなった。襖を開けた途端、郁美が大きな声を上げる。

「わっ、でっかいスーツケース!」
「うん。まぁ長期滞在だからね」

 邪魔になるならどこかに置いておくと言われたけど、普段あまり使わないものを入れておいたり、友達や自分へのお土産をちょこちょこ入れてるので、手元にあった方が便利なのだ。寝るのは布団で毎回押入れに出し入れしてるし、部屋に置かれてるのは小さなちゃぶ台と書棚とタンスくらいだから、それほどスペースが必要なわけでもないし。

「麦茶でいい?」
「うん」

 言われて、パタパタと台所へ向かう。私はおばあちゃんの家に滞在してて、その家に私の友達が遊びに来るって、ちょっと不思議な気分だ。

 台所の小さな窓から覗くと、顔を覆う大きな帽子に長袖に肘までの腕カバーをつけて長ズボンを履いたおばあちゃんが畑にいた。私も時間が空いた時はお手伝いするけど、本当に朝から晩までてきぱきとよく働く。

 おばあちゃんにも麦茶、持って行こう。

 冷蔵庫から冷えた麦茶を出すと、まずは水筒に注いだ。

「お待たせー」

 お盆を持って片手で襖を開けると、小さなちゃぶ台に郁美が両肘を載せ、挙動不審なほどあちこち見回していた。

「なーんか、人ん家で一人待たされるん落ち着かんね。勇気の家なら慣れとるけ、全然平気だけど」

 膝立ちになってお盆から麦茶のグラスを郁美の前に置いた手が、勇気くんの名前を聞いて思わず止まってしまう。すると、郁美が笑い出した。

「アハハ……美和子ぉ、あんた分かりすぎよ! 昨日のこと気にしとるね、あたしが泣いたもんだから」
「う、うん……ごめん」

 自分からは切り出すことが出来ないので、郁美からその話をしてくれて良かった。郁美は足を延ばすと、うーんと背を伸ばした。

「昨日のあれね……実はあたしも、驚いたんよ」
「え?」
「なんで泣いたのか、自分でもよく分からんね。もし、勇気に面と向かって言われてたら笑って返せてたと思うんだけど、あたしのおらんとこであんな話されて、気付いたら涙が出とったがよ。フフッ……わっぜ、おかしいね……勇気なんて、あたしもそう……小さい頃から知ってて、好きぃとか付きおうとかそんなん、考えたこともなかったがよ。それより、あたしの好みはもっと……海くんみたいなイケメンだって思ってたのに、なんで勇気の言葉に揺れるかなぁ、ハハッ」

 郁美は寂しげな表情になったり、微笑んだり、少し照れて見せたり、百面相をしながら話してくれた。

「私には幼馴染がいないから、よくは分からないけど……近すぎて気付かないことってあるかもしれないよね」

 私の言葉を聞き、郁美は麦茶を手にすると「近すぎて気付かない、か……」と呟いた。

 少し沈黙があいてから、郁美はハハッと笑った。

「やっぱ、よく分かんない。それよりも今はさ、あたしたちにはドラゴンカップゆう大切な大会が控えてるから、そっちに集中しないとね! それに、来年には受験生だし。あーっ、今日から夏トライ行ってる子たちもおるんだもんね、きばらんとー」
「ねぇ、涼子と田中くんも行くって言ってたけど、その夏トライってなんなの?」
「『夏トライ! グレードアップ・ゼミ』って言って、主に大学受験を目指してる県内の高校2年生対象に開かれる3日間の特訓授業よ。毎年開催校が変わるんよ」
「特訓? 特別、じゃなくて?」

 なんか、軍隊みたい……

「そう、特訓!! 3年の先輩に聞いたけど、1日中勉強詰めらしいがよー。あたしなんてもう、課外授業で精一杯よ。まぁ有名大学目指すわけじゃないし、あたしはいいけど」
「そっか……」

 合宿してまで勉強って大変そうだな。私なんて、もし伊佐に来なければ今頃まるまる夏休み、友達のコテージに泊まったり、イベントに遊びに行ったりして、勉強なんて全然してなかっただろうし……

 考えてると、郁美が私に顔を近づけた。

「ところで、美和子はどうね?」
「ぇ。私?」
「なんか最近海くんと仲良くなってる感じじゃない? ええねー美男美女同士!! 少女漫画の世界ね」
「いや、そんなんじゃないよ、私と海くんは……なんか、同士って感じかな。ほら、ふたりとも別の場所から伊佐に来てるから、共通点とかあるし」
「そっから恋愛に発展することもあるんじゃないの?」

 郁美はニヤニヤしながら私を見つめてきた。さっきまでの形勢がいきなり逆転してる。なんで郁美の恋愛話から、私のにすり替わってるの!?

「い、いやー好きになっても離れちゃうの分かってるし、それはないよ……」
「そぉ? 残念ねー」

 郁美はすっかりリラックスした表情で麦茶を飲んでいた。

 結局私には、郁美が勇気くんを好きなのかどうか分からなかった。たぶん、本人もそうなのだろう。幼馴染って、複雑だ。
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