チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第六章 幼馴染の関係

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 まだ、3人の会話は続いていた。

「じゃー、美和子はどうが?」
「あー、美和子はいい女じゃけ彼女に出来たらええがよ。おっぱいでかいしな」
「ワハハ……勇気ぃ、学祭ん時美和子のメイド服に視線釘付けになっとったがよ! まぁ、俺らもやけど」
「あれは見るやろー」

 そ、そんな風に見られてたんだ……

 真っ赤になって俯いた。そっと見上げると、郁美の肩が僅かに揺れてる。私たちは無言のまま、息を潜めた。着替えをする衣擦れの音と、3人のたわいもない会話が聞こえてくる。

 郁美は、勇気くんのことが好きなのかな。こんなこと、しなければ良かった……

 後悔が胸の中に渦巻きながら、早くみんなが更衣室を出て行くよう祈った。

 ガチャッとドアが開く音がした。

「お前ら、ここにいたのか。早く準備しろ」

 海くんの声がして、それに続いてガタガタと音が鳴った。

「海は真面目がー」
「あー、熱心がよ」

 ワイワイ言いながらドアが再び閉まり、それから足音が少しずつ遠ざかっていく。

 完全に音が聞こえなくなったところでシャワーカーテンを開け、郁美の腕を掴んで男子更衣室から素早く出ると、今度は隣の女子更衣室へと入った。 

「郁美……だい、じょうぶ?」

 何を言っていいのか言葉が見つからず、そんなことしか言えない自分が情けない。郁美の頬には既に涙はなく、私に向かって笑顔を見せた。

「美和子、ごめーん。タイミング誤ったがよ。みんなを驚かせられんかったね」
「郁美……」

 郁美はスマホを取り出し、画面を見て叫んだ。

「うわっ、もうこんな時間よ! はよ行かんと海くんに怒られちゃう!」
「えっ!?」

 郁美が見せてくれた画面には18時とあった。練習開始時間だ。

「あたし、なんかトイレ行きたくなったから美和子先に行っといてくれる? すぐ追いつくから」

 有無を言わせぬ雰囲気に、「うん……」と頷くしかなかった。郁美は「ほんならねぇ!」と言うと、トイレに向かって歩き出し、私も更衣室を出て練習場所に向かった。

 ドラゴンボートの練習場所に近づくと、もう全員揃っているのが見えて、慌てて駆け出した。

「ごめんね、遅れちゃって……」

 息を切らしながら言うと、海くんが私に視線を投げた。

「山下さんは?」
「あ……ちょっと、お手洗いに……」
「でっかい方じゃないがー」
 
 勇気くんが大きな声で笑い、デリカシーのなさに思わず睨みつけるとピタッと笑いが止んだ。

「美和子、なんか怖かったな、今……」

「ごめーん、遅くなったね!」

 その後すぐ、郁美が手を振りながら走ってきた。さっきまで泣いてた様子なんて微塵も見られない。

「急にお腹ぁ痛くなって」
「やーっぱ郁美、うんちが!」
「勇気ぃ、レディーに向かってそんなこと言わんがよ!」
「え? レディーって誰が? どこにおる?」
「こっこにおるが! あんたん目の前!!」

 いつもの郁美と勇気くんのやり取りに、みんなが笑う。けど、私はさっきの郁美の泣き顔が頭から離れず、笑う気になんてとてもじゃないけどなれない。郁美の気持ちを思うと、胸が痛かった。

「じゃ、練習始めるぞー」

 海くんの言葉に、現実に戻った。

 もう大会も近いんだから、集中しなきゃ……郁美だって、辛い中気持ちを切り替えて頑張ってるんだから。

 けれど、いつものように気持ちが入りきらない。郁美は一生懸命パドルを漕いでて、みんなも同じように漕いで、技術も向上しているはずなのに、今日のパドリングはどこかちぐはぐだった。

 練習が終わった後、海くんに「鈴木さん、ちょっと来てくれる?」と呼び出された。

「鼓手はチームのムードメーカーでもあるんだ。鈴木さんが気合いが入ってないと、それがメンバーにも伝わって、チーム全体の士気が下がる。たとえどんなことがあっても、ボート漕いでる時は集中して」
「はい。すみません……」

 ほんと、私何やってるんだろ……いいチームを作ろうって決めたのに、自分でチームの士気を下げるとか。

 実践練習はあと1日しかない。こんなんで、大会でいい成績なんて残せるのか不安が募った。
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