チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第六章 幼馴染の関係

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 翌日は1人を除いたメンバーにて、二回目の実践練習が行われた。抜けたメンバーの穴埋めとして由美子が練習に加わる。初めての練習の時よりは、いくらかマシになったものの、圧倒的に練習量が足りないことを痛感する。実践練習以外でも課外授業が終わった後で来られるメンバーで集まり、理論を勉強したり、ビデオを見て参考にしたり、ボート部の器具を借りてトレーニングしたりした。

 そして三回目の実践練習となる今日。この日は全員揃って練習できる最後の日でもある。昨日で前半の課外授業が終了し、今日は中学生の一日体験入学だったため、それに関わっていない私は家でのんびりした。その後、郁美のお母さんに車で迎えに来てもらい、郁美と一緒に菱刈カヌー競技場へと向かう。

「勇気くんは?」

 近所に住んでるのに、勇気くんが乗っていないので不思議に思って郁美に尋ねた。

「あぁ、勇気はぁ中学生の体験入学の手伝い行っとるがよ」

 早めに着いたせいか、まだ誰も来ていなかった。今日は家から来て着替えをする必要もなかったので、ぶらぶらと更衣室の前を歩きながら郁美ととりとめのない会話をして時間を潰していた。

 突然、郁美が悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「ねっ、ねっ、美和子。男子更衣室に隠れて、男衆《おとこんし》ビックリさせよっか」
「え。えぇっ!! 男子更衣室って……」
「大丈夫、大丈夫。入ったらすぐに『わっ!!』って出てこればええがよ」

 郁美に強引に腕を組まれ、男子更衣室に引きずり込まれた。

 「ここ、ここ!!」

 郁美はシャワーカーテンを開けると、私を中に引き入れる。

「ちょっ、絶対バレるって!!」

 そう言った途端、外から話し声が聞こえてきて、私たちは慌ててカーテンを閉めた。

 ど、どうしよう……

 郁美はカーテンの僅かな隙間から更衣室の様子を窺っている。シャワールームはみんなが着替えるであろう場所からは死角になっているため、飛び出さない限りは中に人がいるなんて分からないけど、もしお手洗いを使う人がいたらこっちに来ることになるので、下から覗く2人分の足と水音がしないことに不審に思われるかもしれない。

「ドアが開いたら、あたしが『せーの』って言うから、二人で『わっ!』って飛び出すね」

 郁美の計画を聞き、不安でドキドキしながらも悪戯を楽しむ気持ちも湧いてきた。ガチャッとドアノブの音がして、飛び出す準備をする。

「せー……」
「勇気はぁ、郁美のことどう思っとるがよ?」

 郁美の「の」は、前田くんの言葉によって遮られた。

「幼馴染ぃ言うて、ほんとは付きおうとるんじゃろ? 白状するが!」

 吉元くんの声も聞こえて来る。すると、海くんはガハハ……と豪快に笑った。

「郁美ぃなんか、女と思っとらんが! 鼻水垂らしたり、おねしょしたのも知っとるで、好きとか付きおういう気持ちになんてならんが!」

 勇気くんの言葉を聞き、郁美は「あたしだってそんな気持ちにならんね!」とか「あんたたち、何あたしのこと勝手に話しとるが!」とか、そんな反応が返ってくるかと予想してた。

 けど、郁美の横顔を見てハッとする。



 ーー彼女の目尻からは、涙が流れていたから。 


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