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第四章 「チェストー!ズ」始動
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ようやく週末になり、海の日を含めた3連休だったため、久しぶりに全員で集まることになった。そう毎回外食もしていられないので、今日は勇気くんの家に午後に集まる。郁美が自転車で私の家まで迎えに来てくれて、勇気くんの家の近所に住んでるのにまた戻ることになってしまって申し訳なかった。
勇気くんの家は低い石垣に囲まれていて、屋敷のように広かった。三段の石造りの階段を上った先にある木製の門には立派な屋根まであり、大きな木の表札に『西郷』と太く筆で書かれている。石垣の向こうには茅葺屋根の家が見えていて、まるで時代劇に出てくるような歴史を感じさせる造りだった。
「勇気ぃん家は江戸時代、郷士階級に属しとったけぇ、今でもたくさん土地や畑も持っとるがよ」
「郷士って?」
「武士の身分のまま農業に従事した人や、武士の待遇を受けていた農民のことね。大口は薩摩藩領に属し、藩独特の領国支配制度である麓集落が形成されていたんよ。郷士が集住し、形成していた集落が『麓』ね」
難しい言葉がたくさん出てきて分かりにくかったけど、とにかくいい家柄であるということは分かった。
郁美は幼馴染ということでか、自分の家のようにインターフォンを鳴らすことなく門を引くと中に入ってしまった。おばあちゃん家も鍵がかかってないけど、こんな立派な家でも鍵をかけてないことにビックリする。
「なにしとんの、はよ入ってー!」
郁美に急かされ、少し緊張しながら門をくぐると、砂利の上に大きな石が置かれた小径が玄関まで続いている。両脇には綺麗に剪定された樹々が植えられていて、中庭も立派だ。郁美は引き戸をガラガラ開けると、大きな声を上げた。
「勇気ぃ! おばちゃーん! 来たよー!!」
郁美が三和土で靴を脱ぎ、私も遠慮しながらも脱ごうかとしていたら、廊下から足音がパタパタと響いてきた。
「郁ちゃーん、ひっさしぶりね!」
「おばちゃん、何言ってんの。3日前に回覧板渡しに来たがよ」
「アハハー、ほぉか!」
勇気くんのお母さんはショートというか、ベリーショートで、眉の太さが目立つ彫りの深い顔立ちで、がたいがよくて、豪快な感じがした。郁美が私に掌を向ける。
「あ、こっちが美和子よ」
「初めまして。今日は大勢でお邪魔してしまって、すみません……」
「あー、あんたがカナダぁからの転入生ね。わっぜ可愛いが! うちの勇気が変なことしちょらんかったね?」
おばさんに迫られて、思わずタジタジしてしまう。
「い、いえ……勇気くんにはよくしてもらってます」
「なーんか気に入らんことされたら、バシーン! って頭叩いてやってええがよ!」
「い、いえ……そんな……」
ハハッと愛想笑いを浮かべた。以前、海くんの家に集まった時に交わされた会話の意味がなんとなく分かった。
「今日は『おもて』使ってもらうけ、こっち来て!!」
おばさんが三和土に置かれたつっかけを履き、引き戸を開ける。脱ぎかけた靴をもう一度履き直し、ついていった。説明では、住居は客間である「おもて」と日常の間である「なかえ」「うすにわ」に分かれていて、今日は大勢いるので客間である「おもて」に通すということだった。
「素敵……すごく趣がありますね」
まるで『日本昔話』の世界を再現したかのような茅葺屋根を間近に感動していると、おばさんが一緒に見上げた。
「夏は涼しいし、冬は暖かいしいいんだけどね、今はぁ、維持するんが大変だがよ。昔は村全体が茅葺屋根やったでみんなで協力して屋根の葺き替えしとったらしいけど、今は職人さんに頼むしかないからねー。そうは言っても茅葺き職人は激る一方だし、お金もかかるがよ」
近年、古民家の人気が高まって、趣がありお洒落だと持て囃されてるけど、歴史あるお家を維持していくには、そういった苦労もあるんだ。
おばさんが、おもての引き戸を開けた。中を覗くと、三和土には既にたくさんの靴が並べられている。
「ほいじゃ、後でジュース持ってってやるから、きばってね」
おばさんが郁美の背中を軽く叩いて声をかけ、去って行った。
「うわー、おもて入るの久しぶりー!」
そう言いながら郁美が靴を脱いで上がり、格子状の襖を開けると年季を感じさせる落ち着いた焦茶の長机が二つ並べられ、みんなが畳の上に座っていた。いや……一人だけ、勇気くんが畳に横になり、完全にくつろいでいた。
「おぉ、全員揃ったが!」
「お邪魔します」
遠慮がちに入ると、畳は緑ではなく黄金色になっているもののイグサの匂いが鼻腔を突いた。畳縁も凝ったデザインで高級感がある。床の間には季節の花が飾られ、壁には書画が掛けられている。反対側には囲炉裏があって、中心には鉄製のやかんが置かれており、周りに座布団が置かれていた。天井が高いので、より広く感じられる。
「勇気くん、凄いお家に住んでるんだね」
「ほぉが? まぁ、他の家よりかは少し広いかもな」
勇気くんは自分の家にはあまり興味なさそうに答えると、「んじゃ、ミーティングすっが!」と声をかけた。
勇気くんの家は低い石垣に囲まれていて、屋敷のように広かった。三段の石造りの階段を上った先にある木製の門には立派な屋根まであり、大きな木の表札に『西郷』と太く筆で書かれている。石垣の向こうには茅葺屋根の家が見えていて、まるで時代劇に出てくるような歴史を感じさせる造りだった。
「勇気ぃん家は江戸時代、郷士階級に属しとったけぇ、今でもたくさん土地や畑も持っとるがよ」
「郷士って?」
「武士の身分のまま農業に従事した人や、武士の待遇を受けていた農民のことね。大口は薩摩藩領に属し、藩独特の領国支配制度である麓集落が形成されていたんよ。郷士が集住し、形成していた集落が『麓』ね」
難しい言葉がたくさん出てきて分かりにくかったけど、とにかくいい家柄であるということは分かった。
郁美は幼馴染ということでか、自分の家のようにインターフォンを鳴らすことなく門を引くと中に入ってしまった。おばあちゃん家も鍵がかかってないけど、こんな立派な家でも鍵をかけてないことにビックリする。
「なにしとんの、はよ入ってー!」
郁美に急かされ、少し緊張しながら門をくぐると、砂利の上に大きな石が置かれた小径が玄関まで続いている。両脇には綺麗に剪定された樹々が植えられていて、中庭も立派だ。郁美は引き戸をガラガラ開けると、大きな声を上げた。
「勇気ぃ! おばちゃーん! 来たよー!!」
郁美が三和土で靴を脱ぎ、私も遠慮しながらも脱ごうかとしていたら、廊下から足音がパタパタと響いてきた。
「郁ちゃーん、ひっさしぶりね!」
「おばちゃん、何言ってんの。3日前に回覧板渡しに来たがよ」
「アハハー、ほぉか!」
勇気くんのお母さんはショートというか、ベリーショートで、眉の太さが目立つ彫りの深い顔立ちで、がたいがよくて、豪快な感じがした。郁美が私に掌を向ける。
「あ、こっちが美和子よ」
「初めまして。今日は大勢でお邪魔してしまって、すみません……」
「あー、あんたがカナダぁからの転入生ね。わっぜ可愛いが! うちの勇気が変なことしちょらんかったね?」
おばさんに迫られて、思わずタジタジしてしまう。
「い、いえ……勇気くんにはよくしてもらってます」
「なーんか気に入らんことされたら、バシーン! って頭叩いてやってええがよ!」
「い、いえ……そんな……」
ハハッと愛想笑いを浮かべた。以前、海くんの家に集まった時に交わされた会話の意味がなんとなく分かった。
「今日は『おもて』使ってもらうけ、こっち来て!!」
おばさんが三和土に置かれたつっかけを履き、引き戸を開ける。脱ぎかけた靴をもう一度履き直し、ついていった。説明では、住居は客間である「おもて」と日常の間である「なかえ」「うすにわ」に分かれていて、今日は大勢いるので客間である「おもて」に通すということだった。
「素敵……すごく趣がありますね」
まるで『日本昔話』の世界を再現したかのような茅葺屋根を間近に感動していると、おばさんが一緒に見上げた。
「夏は涼しいし、冬は暖かいしいいんだけどね、今はぁ、維持するんが大変だがよ。昔は村全体が茅葺屋根やったでみんなで協力して屋根の葺き替えしとったらしいけど、今は職人さんに頼むしかないからねー。そうは言っても茅葺き職人は激る一方だし、お金もかかるがよ」
近年、古民家の人気が高まって、趣がありお洒落だと持て囃されてるけど、歴史あるお家を維持していくには、そういった苦労もあるんだ。
おばさんが、おもての引き戸を開けた。中を覗くと、三和土には既にたくさんの靴が並べられている。
「ほいじゃ、後でジュース持ってってやるから、きばってね」
おばさんが郁美の背中を軽く叩いて声をかけ、去って行った。
「うわー、おもて入るの久しぶりー!」
そう言いながら郁美が靴を脱いで上がり、格子状の襖を開けると年季を感じさせる落ち着いた焦茶の長机が二つ並べられ、みんなが畳の上に座っていた。いや……一人だけ、勇気くんが畳に横になり、完全にくつろいでいた。
「おぉ、全員揃ったが!」
「お邪魔します」
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「勇気くん、凄いお家に住んでるんだね」
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