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第四章 「チェストー!ズ」始動
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手にしたパドルはカーボン製で、漆黒にシルバーで『Dragon Boat』と書かれていてスタイリッシュなデザインで格好いい。パドルの材質は主にカーボン製と木製があるんだけど、カーボン製の方が木製に比べて軽くて、漕ぎやすい。
海くんはパドルを縦にし、自分の横に立てた。
「パドルの長さは種類があって、直立時に脇の下に指2本~3本程度のスキマがある程度が適切と言われてるんだ。だから、できれば自分に合った長さで、素材も自分の手に合うものが一番いいけど、買おうとすると1万はする。ちなみに、俺のは3万だ」
それを聞き、どよめきが起こる。なんだかもう、海くんだけ異次元レベルって感じだ。
そこへ、郁美が明るく声を上げた。
「だ、大丈夫! うちのボート部にもドラゴンボート用のパドルが置いてあるけ、それ使えるがよ!」
「あぁ。ボート部でパドルが足らなければ、申請すれば主催者が用意してくれるし、レースに必要な艇、太鼓、舵も借りられるから心配いらない。みんなにパドルまで買えとは勧めない。ただ、できれば自分の丈に合ったパドルを使った方がいいと言いたかっただけだ」
勇気くんが海くんに声を上げる。
「買えー言われても、貧乏学生にはそんなもん買えんが!」
適格な突っ込みに、『ですよー!』と相槌があちこちから飛んできた。
「ちなみに、俺は今回舵手だから、このパドルは使わない。舵手が使う舵はこれよりももっと全体が長くて、柄であるシャフトの部分よりも水を掻くブレードが長いのが特徴なんだ」
「んなら、海のパドル貸せ! 俺が使っちゃる!」
勇気くんが身を乗り出すと、海くんがパドルを隠すように、後ろに回した。
「嫌だ」
「ケチケチすんな、貸せっちゅーが! せっかくこんなええパドル持っとるのに、使わんと勿体ないが! 俺はペーサーやど、パドルは重要だが!」
勇気くんが回りこみ、パドルのシャフトを握って強引に掻っ攫おうとして、綱引きのようになる。
「ただ良いパドルを使えば速く漕げるってもんじゃない。パドルのブレードを水中に入れるスピードや、角度、深さ、体重の乗せ方……パドルを使いこなすパドラーの技術が結局は重要なんだ」
「んな細かいことはどうでもええが。海ぃ、おま貸したくないだけじゃろが!」
「……ッッお前に貸すと、折られそうで嫌だ!」
互いに一歩も引かない状態で、郁美が割って入った。
「はいはい、そこ喧嘩せんね! ほら、海くんまだ話は終わっとらんで、続けて」
子供の喧嘩の制裁に入ってるお母さんみたいに思え、女子たちでクスクスと笑い合った。
喧嘩しててもほのぼの感じるのは、なんでだろう。見てると、微笑ましく思えちゃうなぁ。
「じゃあ続いて、座る位置について説明しようか。船頭には太鼓と椅子がセットされているので、鼓手はそこに座り、船尾には船を操舵する舵棒がついていて舵手の位置も決まっている。
問題は漕手だ。8名いる中で、前後左右のバランスを考慮して舟が水平になるようにしないといけない。どっちかが体重が重いと艇が傾くからだ。体力があって、長くリズムよく漕げる人から前に乗り込む」
海くんはノートを取り出すとボートの絵を描いた。船頭に鼓手、船尾に舵手を描いてから、間に漕ぎ手の座る座席を6箇所丸で囲むと、1番目と6番目にバツをつけた。
「俺たちの乗るドラゴンボートには漕ぎ手の座れる座席が6ケ所あるが、前から1番目と6番目には乗らず、2列になって4箇所に座ってパドルを漕ぐ。かなり狭いから、リズムを合わせないとパドルが当たる事になる。じゃ、漕手は1列に並んで」
海くんの指示に従い、漕手メンバーは掘りごたつから抜けると、襖の前に空いたスペースに1列に並んだ。私たちが参加するドラゴンカップのコミュニティミックスの部では、8名いる漕手のうち2名以上女性が含まれないといけない。うちのチームでは、郁美と涼子が女性だ。涼子は今までに3回ドラゴンカップに出場したことがあるという。涼子とはグループが違うし、今まであまり喋ったことはなかったけど、意思がしっかりしてて、はきはきしている印象があった。
海くんはザッと眺めてから、今度はみんなを2列に並ばせていった。漕手の先頭には勇気くんと郁美が立ち、一番後ろはドラゴンボート未経験の本田くんと中村くんが立った。海くんがみんなの立ち位置を調整した後、声を掛ける。
「じゃあ、ここで軽く膝を立てた状態で座ってみて」
みんなが座ると、つま先が前の人のお尻に当たるぐらいの距離になる。この状態で長いパドルを漕ぐとなると、息を合わせないとすぐに当たってしまう。勇気くんはいつの間にか海くんのパドルを手に持ち、ドラゴンボートを漕ぐ真似をした。
「うぉっ、やっぱかっこええのぉ!」
けど、それは一掻きで海くんに取り上げられた。
その後は海くんから漕ぎ方の種類についての説明と見本を見せてもらい、海くんの熱が入りすぎてみんながついていけなくなり、郁美の提案により今日のミーティングは終わりになった。
海くんはパドルを縦にし、自分の横に立てた。
「パドルの長さは種類があって、直立時に脇の下に指2本~3本程度のスキマがある程度が適切と言われてるんだ。だから、できれば自分に合った長さで、素材も自分の手に合うものが一番いいけど、買おうとすると1万はする。ちなみに、俺のは3万だ」
それを聞き、どよめきが起こる。なんだかもう、海くんだけ異次元レベルって感じだ。
そこへ、郁美が明るく声を上げた。
「だ、大丈夫! うちのボート部にもドラゴンボート用のパドルが置いてあるけ、それ使えるがよ!」
「あぁ。ボート部でパドルが足らなければ、申請すれば主催者が用意してくれるし、レースに必要な艇、太鼓、舵も借りられるから心配いらない。みんなにパドルまで買えとは勧めない。ただ、できれば自分の丈に合ったパドルを使った方がいいと言いたかっただけだ」
勇気くんが海くんに声を上げる。
「買えー言われても、貧乏学生にはそんなもん買えんが!」
適格な突っ込みに、『ですよー!』と相槌があちこちから飛んできた。
「ちなみに、俺は今回舵手だから、このパドルは使わない。舵手が使う舵はこれよりももっと全体が長くて、柄であるシャフトの部分よりも水を掻くブレードが長いのが特徴なんだ」
「んなら、海のパドル貸せ! 俺が使っちゃる!」
勇気くんが身を乗り出すと、海くんがパドルを隠すように、後ろに回した。
「嫌だ」
「ケチケチすんな、貸せっちゅーが! せっかくこんなええパドル持っとるのに、使わんと勿体ないが! 俺はペーサーやど、パドルは重要だが!」
勇気くんが回りこみ、パドルのシャフトを握って強引に掻っ攫おうとして、綱引きのようになる。
「ただ良いパドルを使えば速く漕げるってもんじゃない。パドルのブレードを水中に入れるスピードや、角度、深さ、体重の乗せ方……パドルを使いこなすパドラーの技術が結局は重要なんだ」
「んな細かいことはどうでもええが。海ぃ、おま貸したくないだけじゃろが!」
「……ッッお前に貸すと、折られそうで嫌だ!」
互いに一歩も引かない状態で、郁美が割って入った。
「はいはい、そこ喧嘩せんね! ほら、海くんまだ話は終わっとらんで、続けて」
子供の喧嘩の制裁に入ってるお母さんみたいに思え、女子たちでクスクスと笑い合った。
喧嘩しててもほのぼの感じるのは、なんでだろう。見てると、微笑ましく思えちゃうなぁ。
「じゃあ続いて、座る位置について説明しようか。船頭には太鼓と椅子がセットされているので、鼓手はそこに座り、船尾には船を操舵する舵棒がついていて舵手の位置も決まっている。
問題は漕手だ。8名いる中で、前後左右のバランスを考慮して舟が水平になるようにしないといけない。どっちかが体重が重いと艇が傾くからだ。体力があって、長くリズムよく漕げる人から前に乗り込む」
海くんはノートを取り出すとボートの絵を描いた。船頭に鼓手、船尾に舵手を描いてから、間に漕ぎ手の座る座席を6箇所丸で囲むと、1番目と6番目にバツをつけた。
「俺たちの乗るドラゴンボートには漕ぎ手の座れる座席が6ケ所あるが、前から1番目と6番目には乗らず、2列になって4箇所に座ってパドルを漕ぐ。かなり狭いから、リズムを合わせないとパドルが当たる事になる。じゃ、漕手は1列に並んで」
海くんの指示に従い、漕手メンバーは掘りごたつから抜けると、襖の前に空いたスペースに1列に並んだ。私たちが参加するドラゴンカップのコミュニティミックスの部では、8名いる漕手のうち2名以上女性が含まれないといけない。うちのチームでは、郁美と涼子が女性だ。涼子は今までに3回ドラゴンカップに出場したことがあるという。涼子とはグループが違うし、今まであまり喋ったことはなかったけど、意思がしっかりしてて、はきはきしている印象があった。
海くんはザッと眺めてから、今度はみんなを2列に並ばせていった。漕手の先頭には勇気くんと郁美が立ち、一番後ろはドラゴンボート未経験の本田くんと中村くんが立った。海くんがみんなの立ち位置を調整した後、声を掛ける。
「じゃあ、ここで軽く膝を立てた状態で座ってみて」
みんなが座ると、つま先が前の人のお尻に当たるぐらいの距離になる。この状態で長いパドルを漕ぐとなると、息を合わせないとすぐに当たってしまう。勇気くんはいつの間にか海くんのパドルを手に持ち、ドラゴンボートを漕ぐ真似をした。
「うぉっ、やっぱかっこええのぉ!」
けど、それは一掻きで海くんに取り上げられた。
その後は海くんから漕ぎ方の種類についての説明と見本を見せてもらい、海くんの熱が入りすぎてみんながついていけなくなり、郁美の提案により今日のミーティングは終わりになった。
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