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第三章 文化祭
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目の前には、1年1組がやってるお化け屋敷の看板があった。海くんはさっきまでの大人っぽい表情を崩し、悪戯っぽく笑った。
「2組のスタンプラリーはさすがに時間かかりそうだから無理だけど、お化け屋敷ぐらいなら入れるだろ?」
「え、でも……」
お化け屋敷とか、めっちゃ苦手なんですけど……
躊躇してる間もなく、海くんは強引に私を連れて入ってしまった。
まぁ、お化け屋敷って言ってもクラスの出し物だし、そこまで凝ったことは出来ないから大丈夫だよね……
そう思いながら進んだ途端、
「ウギャーッッ!!」
いきなり井戸から出てきたお化けの人形にビックリして、奇声をあげていた。
「ププッ……鈴木さん、顔に似合わず豪快な驚き方だね」
「だ、だって……いきなりでほんとにビックリしたんだもん」
まだ海くんの肩が揺れている。ふれあいセンターの時にも思ったけど、案外、笑い上戸なのかもしれない。そんな海くんだって、顔に似合わず、だよ。
ビビりまくる私と笑いを抑えきれない海くんは、なんとかお化け屋敷を抜け出た。
「ハァ……疲れた」
「プッ……俺も、疲れた……ククッ……」
「もう、海くん笑いすぎだから!!」
海くんの背中を軽くパンと叩き、睨みつけると、後ろから女の子達の視線を感じてハッとした。
「ほ、ほら……宣伝、回らないと」
チラシを配り終えて教室に戻ると、カフェは大賑わいだった。
「あーっ、海くん、美和子、はよ来て!! みんな待っとるよ!!」
郁美が廊下に顔を出し、大きく手を振った。
「お客さん大勢来てくれたね」
「みんな、あんたらが目的だから、ずっと席から離れんのよ。はよ接客して!!」
慌てて手を洗うと、早速シルバートレイにかき氷を載せられた。隣の海くんのトレイにはうどんとチャーハンが載せられている。
「はいっ、美和子は1番テーブル、海くんは3番テーブルお願いねぇ!!」
「う、うんっ」
歩き出そうとすると、海くんがこそっと私に耳打ちした。
「ほら、宣伝の方が全然楽だっただろ?」
「確かに、そうだね……」
そこへ、郁美の叱咤が飛ぶ。
「ほら、はよ運んで!!」
「は、はいぃっっ!!」
郁美って大人しそうに見えるのに、しっかりしてるし、結構スパルタ。いいお母さんになりそう……
みんなは交代制で展示発表やPTAの物販バザーや『ISAnoBA』を見に行ったのに、宣伝中にお化け屋敷に行ったことがバレたのと、私たちが抜けるとお客さんが来なくなるからという理由で、私と海くんは働きづめだった。
「美和子ちゃん、かーわいぃ!」
馴染みのある声に振り返ると、おばあちゃんが顔をしわくちゃにして嬉しそうにテーブルに座っていて、私の手をギュッと握った。
「あ、おばあちゃん! 来てくれたんだ」
「源六さんが、運転してくれたがよ」
テーブルにはおばあちゃんだけでなく、源六さんと呼ばれたおじいちゃんの他に、同じ年頃のおばあちゃんが2人座っていた。
「こい、おいの孫ぜよ。わっぜ、もじょかどが?」
「わっぜ、もじょか子じゃのぉ。おはん若か頃そっくいね!」
「うんにゃー! こげなもぜぇねが」
「そげんこっちゃねーが。おいの若か頃と瓜二つやっど」
『アハハー!!』
みんなびっくりするぐらいエネルギッシュで若々しい。それにしても、おばあちゃんが私に話しかける鹿児島弁が理解出来ないと思ってたけど、お年寄り同士で喋る鹿児島弁は異国語のようだ。初めてカナダに行った時に聞いた英語の方が、まだ理解出来てたと思う。
おばあちゃんたちは、うどんやチャーハンをみんなで取り分け、かき氷までしっかり食べて、大いに盛り上がって帰ってった。
お客さんには地元の小中学生や近隣の住民の人なんかが来ていて、地元との強い繋がりを感じた。それから、伊佐のもう一つの公立高校である農林高校の学生たちも日曜ということでたくさん訪れていた。
「西郷どん、ひっさしぶりだが!」
「おぉ、お前ら来たか!」
「郁美ー、来たよー」
「キャーッ、花っち、友りん!! わっぜ、嬉しい!! 農校はどうよ?」
あっちこっちでそんな会話が交わされ、カフェは一層賑やかになった。蚊帳の外である私は、この輪の中に入ることが出来ないのは分かっているものの、なんとなく疎外感を感じて少し寂しかった。
「鈴木さん、これ6番テーブルに頼める? 俺はこっち運ぶから」
海くんに声を掛けられて、振り返る。
「あ、うん。分かった」
海くんも4月からの転校生だから、農林高校の生徒に知り合いはいないんだよね。そう思うと、仲間がいてくれてホッとする気持ちに包まれた。
「はぁーっ、疲れたぁー……」
疾風怒濤のお昼が過ぎてようやく仕事を終え、大きく息を吐く。メイド&執事カフェがお昼の短い時間だけで助かったと、心から思った。
うどんやチャーハンは完売し、かなりの売上をあげ、 私たちの学年の出し物は大成功だった。
「2組のスタンプラリーはさすがに時間かかりそうだから無理だけど、お化け屋敷ぐらいなら入れるだろ?」
「え、でも……」
お化け屋敷とか、めっちゃ苦手なんですけど……
躊躇してる間もなく、海くんは強引に私を連れて入ってしまった。
まぁ、お化け屋敷って言ってもクラスの出し物だし、そこまで凝ったことは出来ないから大丈夫だよね……
そう思いながら進んだ途端、
「ウギャーッッ!!」
いきなり井戸から出てきたお化けの人形にビックリして、奇声をあげていた。
「ププッ……鈴木さん、顔に似合わず豪快な驚き方だね」
「だ、だって……いきなりでほんとにビックリしたんだもん」
まだ海くんの肩が揺れている。ふれあいセンターの時にも思ったけど、案外、笑い上戸なのかもしれない。そんな海くんだって、顔に似合わず、だよ。
ビビりまくる私と笑いを抑えきれない海くんは、なんとかお化け屋敷を抜け出た。
「ハァ……疲れた」
「プッ……俺も、疲れた……ククッ……」
「もう、海くん笑いすぎだから!!」
海くんの背中を軽くパンと叩き、睨みつけると、後ろから女の子達の視線を感じてハッとした。
「ほ、ほら……宣伝、回らないと」
チラシを配り終えて教室に戻ると、カフェは大賑わいだった。
「あーっ、海くん、美和子、はよ来て!! みんな待っとるよ!!」
郁美が廊下に顔を出し、大きく手を振った。
「お客さん大勢来てくれたね」
「みんな、あんたらが目的だから、ずっと席から離れんのよ。はよ接客して!!」
慌てて手を洗うと、早速シルバートレイにかき氷を載せられた。隣の海くんのトレイにはうどんとチャーハンが載せられている。
「はいっ、美和子は1番テーブル、海くんは3番テーブルお願いねぇ!!」
「う、うんっ」
歩き出そうとすると、海くんがこそっと私に耳打ちした。
「ほら、宣伝の方が全然楽だっただろ?」
「確かに、そうだね……」
そこへ、郁美の叱咤が飛ぶ。
「ほら、はよ運んで!!」
「は、はいぃっっ!!」
郁美って大人しそうに見えるのに、しっかりしてるし、結構スパルタ。いいお母さんになりそう……
みんなは交代制で展示発表やPTAの物販バザーや『ISAnoBA』を見に行ったのに、宣伝中にお化け屋敷に行ったことがバレたのと、私たちが抜けるとお客さんが来なくなるからという理由で、私と海くんは働きづめだった。
「美和子ちゃん、かーわいぃ!」
馴染みのある声に振り返ると、おばあちゃんが顔をしわくちゃにして嬉しそうにテーブルに座っていて、私の手をギュッと握った。
「あ、おばあちゃん! 来てくれたんだ」
「源六さんが、運転してくれたがよ」
テーブルにはおばあちゃんだけでなく、源六さんと呼ばれたおじいちゃんの他に、同じ年頃のおばあちゃんが2人座っていた。
「こい、おいの孫ぜよ。わっぜ、もじょかどが?」
「わっぜ、もじょか子じゃのぉ。おはん若か頃そっくいね!」
「うんにゃー! こげなもぜぇねが」
「そげんこっちゃねーが。おいの若か頃と瓜二つやっど」
『アハハー!!』
みんなびっくりするぐらいエネルギッシュで若々しい。それにしても、おばあちゃんが私に話しかける鹿児島弁が理解出来ないと思ってたけど、お年寄り同士で喋る鹿児島弁は異国語のようだ。初めてカナダに行った時に聞いた英語の方が、まだ理解出来てたと思う。
おばあちゃんたちは、うどんやチャーハンをみんなで取り分け、かき氷までしっかり食べて、大いに盛り上がって帰ってった。
お客さんには地元の小中学生や近隣の住民の人なんかが来ていて、地元との強い繋がりを感じた。それから、伊佐のもう一つの公立高校である農林高校の学生たちも日曜ということでたくさん訪れていた。
「西郷どん、ひっさしぶりだが!」
「おぉ、お前ら来たか!」
「郁美ー、来たよー」
「キャーッ、花っち、友りん!! わっぜ、嬉しい!! 農校はどうよ?」
あっちこっちでそんな会話が交わされ、カフェは一層賑やかになった。蚊帳の外である私は、この輪の中に入ることが出来ないのは分かっているものの、なんとなく疎外感を感じて少し寂しかった。
「鈴木さん、これ6番テーブルに頼める? 俺はこっち運ぶから」
海くんに声を掛けられて、振り返る。
「あ、うん。分かった」
海くんも4月からの転校生だから、農林高校の生徒に知り合いはいないんだよね。そう思うと、仲間がいてくれてホッとする気持ちに包まれた。
「はぁーっ、疲れたぁー……」
疾風怒濤のお昼が過ぎてようやく仕事を終え、大きく息を吐く。メイド&執事カフェがお昼の短い時間だけで助かったと、心から思った。
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