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卒業
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「無理、だ……俺には、出来ない……」
「出来る! 大和には、出来るよ。
自分勝手だって分かってる。自己満足かもしれない。でも、この扉を開けることが出来なければ、きっと大和は引き摺ってしまう。
私がこんなこと言うべきじゃないかもしれない。
でも、誰よりも大和には幸せになって欲しいの。前に進んで欲しい。
だから、お願い。お願い、大和……」
扉を隔てたまま、刻一刻と時間は過ぎていく。
既にコンサートは始まっている。きっと秀一だけでなく、島根も、コンサートスタッフも美姫のことを心配しているだろう。
美姫は、何度も窓を見遣った。
その向こうでは、秀一が待っている。
愛する人との暮らしが、待っている。
けれど美姫には、ここに大和を残したまま逃げることは出来なかった。
「ッ……」
大和、お願い。
ここから一歩、踏み出して……
大和は、膝を抱えて座っていた。
逃げようと思えば逃げられたのに、美姫はそれをしなかった。俺と正面から向き合い、救おうとしてくれてる……
いつまでも美姫への依存から抜け出せない俺に、チャンスを与えてくれている。
美姫が退行現象を起こした時、嫌という程美姫にはあいつじゃないと駄目なのだと思い知らされたはずなのに。
美姫とあいつがどれだけ深く愛し合っているか、知っているはずなのに。
美姫は、俺といても幸せになれないと分かっているのに。
離婚すると決意し、美姫から少しずつ卒業しようとしていたはずなのに。
瀬戸際になってこんな悪あがきしても、意味がないと知っているのに……
ーーなんで俺は、踏み出せないんだ。
自分への苛立ちと共に、大和はスマホに視線を落とし、時間を確認した。
もう、コンサートは終盤に差し掛かっているはずだ。
今、ここで動かなければ後悔する。
一生俺は、悔いていかなければならない。
立ち上がれ。
立ち上がって、踏み出すんだ……
大和は床に手をつき、ゆっくりと躰を起こした。
大きく息を吐き、扉に手を掛ける。
これは、美姫の為じゃない。
ーー未来の自分の為だ……
扉を開けると、膝を抱えて座る美姫がこちらを向いて見上げていた。
俺を、信じてくれていたのか……
大和の目頭が熱くなった。
美姫は、ゆっくりと立ち上がった。
「大和、ありがとう。私……ッ」
大和がこんなにも苦しんでいたのに、理解してあげられてなかった。
ごめんなさい……
項垂れる美姫に大和は精一杯の笑みを見せ、肩を軽く叩いた。
「早く、行ってやれ」
「うん……」
自分の部屋に置いてあったスマホをバッグに入れ、慌ただしく出て行こうとする美姫に、大和が声を掛けた。
「ほら、忘れ物」
離婚届を手渡された。
「時間、ないだろ? 送っていくか?」
大和の問い掛けに、美姫は首を振った。
「大丈夫だよ。タクシー拾っていくから」
腕時計に視線を落とし、美姫は大和に手を差し出した。
「今まで……本当に、ありがとう」
「幸せに、なれよ」
大和の言葉に目を瞠り、美姫は潤んだ瞳で頷くと背を向けた。
バタンと扉が閉まり、美姫の姿が見えなくなると、大和は大きく息を吐き出した。
やっと……卒業、出来るな。
「出来る! 大和には、出来るよ。
自分勝手だって分かってる。自己満足かもしれない。でも、この扉を開けることが出来なければ、きっと大和は引き摺ってしまう。
私がこんなこと言うべきじゃないかもしれない。
でも、誰よりも大和には幸せになって欲しいの。前に進んで欲しい。
だから、お願い。お願い、大和……」
扉を隔てたまま、刻一刻と時間は過ぎていく。
既にコンサートは始まっている。きっと秀一だけでなく、島根も、コンサートスタッフも美姫のことを心配しているだろう。
美姫は、何度も窓を見遣った。
その向こうでは、秀一が待っている。
愛する人との暮らしが、待っている。
けれど美姫には、ここに大和を残したまま逃げることは出来なかった。
「ッ……」
大和、お願い。
ここから一歩、踏み出して……
大和は、膝を抱えて座っていた。
逃げようと思えば逃げられたのに、美姫はそれをしなかった。俺と正面から向き合い、救おうとしてくれてる……
いつまでも美姫への依存から抜け出せない俺に、チャンスを与えてくれている。
美姫が退行現象を起こした時、嫌という程美姫にはあいつじゃないと駄目なのだと思い知らされたはずなのに。
美姫とあいつがどれだけ深く愛し合っているか、知っているはずなのに。
美姫は、俺といても幸せになれないと分かっているのに。
離婚すると決意し、美姫から少しずつ卒業しようとしていたはずなのに。
瀬戸際になってこんな悪あがきしても、意味がないと知っているのに……
ーーなんで俺は、踏み出せないんだ。
自分への苛立ちと共に、大和はスマホに視線を落とし、時間を確認した。
もう、コンサートは終盤に差し掛かっているはずだ。
今、ここで動かなければ後悔する。
一生俺は、悔いていかなければならない。
立ち上がれ。
立ち上がって、踏み出すんだ……
大和は床に手をつき、ゆっくりと躰を起こした。
大きく息を吐き、扉に手を掛ける。
これは、美姫の為じゃない。
ーー未来の自分の為だ……
扉を開けると、膝を抱えて座る美姫がこちらを向いて見上げていた。
俺を、信じてくれていたのか……
大和の目頭が熱くなった。
美姫は、ゆっくりと立ち上がった。
「大和、ありがとう。私……ッ」
大和がこんなにも苦しんでいたのに、理解してあげられてなかった。
ごめんなさい……
項垂れる美姫に大和は精一杯の笑みを見せ、肩を軽く叩いた。
「早く、行ってやれ」
「うん……」
自分の部屋に置いてあったスマホをバッグに入れ、慌ただしく出て行こうとする美姫に、大和が声を掛けた。
「ほら、忘れ物」
離婚届を手渡された。
「時間、ないだろ? 送っていくか?」
大和の問い掛けに、美姫は首を振った。
「大丈夫だよ。タクシー拾っていくから」
腕時計に視線を落とし、美姫は大和に手を差し出した。
「今まで……本当に、ありがとう」
「幸せに、なれよ」
大和の言葉に目を瞠り、美姫は潤んだ瞳で頷くと背を向けた。
バタンと扉が閉まり、美姫の姿が見えなくなると、大和は大きく息を吐き出した。
やっと……卒業、出来るな。
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