102 / 124
卒業
2
しおりを挟む
「お願い、開けて!! 今日はツアー最終日なんだよ?
衣装担当の私がいなかったら、皆に迷惑がかかっちゃう!!」
必死でドンドンと扉を叩きながら、美姫が訴える。
大和はスマホを取り出して打ち込むと、ハァッと息を吐いた。
「島根さんにメール送って、美姫が急に体調が悪くなったから代わりに衣装担当に入るように頼んどいた」
そ、んな……勝手に。
美姫は開いた口が塞がらなかった。
「どう、して……」
呆然とする美姫の言葉に、大和は震える拳を打ち付けた。
「んなの、お前を諦められないからに決まってんだろ!!」
大和の両瞳からボロボロと涙が溢れ、それを手で押さえた。
「分かってんだよ、かっこ悪いって。こんなこと、するべきじゃねぇって分かってんだよ……
けど、どうしても行かせたくない。こんなの意味ねぇって分かってても、少しでも俺の元にお前を引き止めておきたいんだ。
誰にも、美姫を渡したくない……ック」
美姫は精一杯体重を掛け、扉を押した。華奢な美姫が全体重を掛けて体当たりしようとも、扉はびくともしなかった。
「お、願い……お願いだから、開けて。
大和ぉ、開けてぇぇ!!」
何度も何度も扉を叩き、懇願する。
扉を叩く音が、鼓膜を突き破るほどガンガンと響く。美姫の悲愴な叫び声が、大和の脳髄をジンジンと熱くさせる。
「ッッ……」
それでも、ここを動けない。
ここから前に、踏み出せない……
大和は掠れた声で告げた。
「そんなに行きたいなら、何としてでも行けよ……あいつの元に、行ってみろよ」
それを聞いた美姫は、バッと後ろを振り返った。
その視線の先には、窓があった。
美姫は、窓に駆け寄った。鍵を外し、窓をガラガラと開ける。2階なので、飛び降りたところで少し足を挫くぐらいだ。
これなら、ここから逃げ出せる。
この際、靴がないことも、スマホも財布も手にしていないことも関係ない。
何としても、秀一さんの元に行かなければ……
美姫は決意を胸に、窓のサッシに手を掛けた。下は芝生で、うっすらと霜がおりていた。
大丈夫、いける。
美姫はゴクリと唾を飲み込んだ。
大和は扉の向こう側から聞こえる窓を開ける音を聞き、安堵と失望の混じった思いが胸の中に広がった。
これで、いいんだ。
美姫は何としてでも俺から逃げ、来栖秀一の元に行きたかったんだと、証明された。
これで、いい……
大和の躰から力が抜け、扉に凭れ掛かりながら尻を床についた。
「ッグ……ウッ、ウッ……」
俺は、なんて諦めの悪い男だ。
ほんと、かっこ悪すぎる……
両手で頭を抱え、肩を大きく揺らした。
その時、大和の耳に出て行ったはずの美姫の声が聞こえてきた。
「大和。行けない……
このままじゃ、私……行けないよ」
大和の動きが止まる。
「美姫、どうして……」
美姫は、グッと喉を鳴らしてから、ゆっくりと答えた。
「大和に、前に進んで欲しいから。
だから、大和が自らこの扉を開けて? ッグおね、がい……」
衣装担当の私がいなかったら、皆に迷惑がかかっちゃう!!」
必死でドンドンと扉を叩きながら、美姫が訴える。
大和はスマホを取り出して打ち込むと、ハァッと息を吐いた。
「島根さんにメール送って、美姫が急に体調が悪くなったから代わりに衣装担当に入るように頼んどいた」
そ、んな……勝手に。
美姫は開いた口が塞がらなかった。
「どう、して……」
呆然とする美姫の言葉に、大和は震える拳を打ち付けた。
「んなの、お前を諦められないからに決まってんだろ!!」
大和の両瞳からボロボロと涙が溢れ、それを手で押さえた。
「分かってんだよ、かっこ悪いって。こんなこと、するべきじゃねぇって分かってんだよ……
けど、どうしても行かせたくない。こんなの意味ねぇって分かってても、少しでも俺の元にお前を引き止めておきたいんだ。
誰にも、美姫を渡したくない……ック」
美姫は精一杯体重を掛け、扉を押した。華奢な美姫が全体重を掛けて体当たりしようとも、扉はびくともしなかった。
「お、願い……お願いだから、開けて。
大和ぉ、開けてぇぇ!!」
何度も何度も扉を叩き、懇願する。
扉を叩く音が、鼓膜を突き破るほどガンガンと響く。美姫の悲愴な叫び声が、大和の脳髄をジンジンと熱くさせる。
「ッッ……」
それでも、ここを動けない。
ここから前に、踏み出せない……
大和は掠れた声で告げた。
「そんなに行きたいなら、何としてでも行けよ……あいつの元に、行ってみろよ」
それを聞いた美姫は、バッと後ろを振り返った。
その視線の先には、窓があった。
美姫は、窓に駆け寄った。鍵を外し、窓をガラガラと開ける。2階なので、飛び降りたところで少し足を挫くぐらいだ。
これなら、ここから逃げ出せる。
この際、靴がないことも、スマホも財布も手にしていないことも関係ない。
何としても、秀一さんの元に行かなければ……
美姫は決意を胸に、窓のサッシに手を掛けた。下は芝生で、うっすらと霜がおりていた。
大丈夫、いける。
美姫はゴクリと唾を飲み込んだ。
大和は扉の向こう側から聞こえる窓を開ける音を聞き、安堵と失望の混じった思いが胸の中に広がった。
これで、いいんだ。
美姫は何としてでも俺から逃げ、来栖秀一の元に行きたかったんだと、証明された。
これで、いい……
大和の躰から力が抜け、扉に凭れ掛かりながら尻を床についた。
「ッグ……ウッ、ウッ……」
俺は、なんて諦めの悪い男だ。
ほんと、かっこ悪すぎる……
両手で頭を抱え、肩を大きく揺らした。
その時、大和の耳に出て行ったはずの美姫の声が聞こえてきた。
「大和。行けない……
このままじゃ、私……行けないよ」
大和の動きが止まる。
「美姫、どうして……」
美姫は、グッと喉を鳴らしてから、ゆっくりと答えた。
「大和に、前に進んで欲しいから。
だから、大和が自らこの扉を開けて? ッグおね、がい……」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる