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ふたりの母

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 そのプレッシャーを与えた一人が自分なのだと思うと、凛子は胸がきつく絞られた。

 美姫の感情は激しく揺れていた。

「まだ、子供を産む覚悟なんて出来てなかった。子供を育てる自信なんてなかった。
 でも、妊娠出来ないかもしれないって分かった途端に、女性としての自分の存在を否定されたかのような気持ちになったんです。

 お母様……子供が産めない私は、女性失格ですか? 私に、来栖財閥社長の妻でいる資格などありますか?」

 凛子は唇を震わせた。

「ック、美姫……」

 否定しようとした凛子に、美姫が言葉を被せる。

「ごめんなさい。妊娠して子供を産んだお母様には、私の気持ちなんて分かりませんよね」

 言ってから、美姫はハッとして口を噤んだ。

「すみ、ません……完全に私の八つ当たりです。
 お母様は、悪くないのに……」

 申し訳なさそうに俯いた美姫を、凛子は眉を下げて潤んだ瞳で見つめた。

 美姫を、こんな風に追い詰めてしまったのは、私達だわ……
 私は、美姫と大和くんの夫婦関係がおかしくなっていることに気づいていたのに、それを認めたくなくて、目を逸らしてしまっていた。

 美姫からは、『夫との子供が欲しいから』という言葉は聞かれなかった。彼女の心は、大和くんから離れてしまっている。

 凛子の胸がきつく絞られた。

 一体、どうすればいいの?
 まだこの二人の夫婦関係は、修復出来る状態にあるの?

 凛子は喉を鳴らし、出来るだけ柔らかく美姫に話し掛けた。

「美姫……あなたは、お父様や私、財閥のためなど考えなくていいのですよ。
 どうか、あなた自身の幸せを考えて下さいね」

 それが、凛子に言える精一杯の言葉だった。娘の美姫も大事だが、婿養子に入ってくれ、財閥を支えてくれている大和をないがしろにすることは出来ない。凛子には、大和を愛せないのであれば離婚して好きな道を歩みなさいと直接的には言えなかった。

「お母、様……」

 美姫の胸がギュウギュウと絞られる。

 そうは言っても、お母様は秀一さんとのことは決して認めて下さらないはず。
 許されるはず、ない。

 お母様は今、私の母親でもあり、大和の母親でもある。そして、大和はお父様の後を継いで財閥の後継者になってくれたんだから。

 お母様だって、大和を裏切れるはずなんてないんだ。
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