小さな王子さまのお話

佐宗

文字の大きさ
31 / 31
なつかしき訪問者(エピローグ)

31

しおりを挟む
 この世界の誰よりも整ったお顔立ちをしていて、背筋がぴんと伸びて、あふれ出る神気で周囲が蒼く輝いて見えるほどなのに、当の王子さまは目立つのがいやだとおっしゃるのです。服装も、王子さまは黒い襟付きの簡素な胴着と、騎士たちと同じような乗馬用ズボンをお召しになっています。城下町で売っていそうな服装です。普段着なのでしょうけれど、王宮での冥王さまのお姿とは、その違いが明らかです。いつ見ても何重ものヒダのついた幅広の洋袴に、ごうかな長衣、ローブを重ね着している冥王さまとは、どうやら服装の趣味もちがうのでしょう。双子のようにそっくりなお二人なのに、そういえば性格も違うようです。

「神様とは、目立ってなんぼではないのですかな? 精霊たちを従えるために、常に神力を放って自分の存在をここだと主張しているのでしょう?」
「……そんなことはめったにしない。むしろ気配は消したいほうだ」
「なんせ親神にすぐさま居場所を突きとめられっから。おちおち悪さもできねぇしな?」
 ヴァニオンがにやにやと口をはさみます。
「だから神族の子どもは、親から自立しおとなの神になるためにまず精霊の散らし方とか気配の消し方を練習するんだとよ」
「呆れましたな。殿下、冥王陛下に隠れて一体どんな悪さをしているっていうんです?」
「口に出してはとても言えないようなことだ」
「へえ! 神様のご身分でも、悪さをすることがあるんですか。神族ってのは皆、品行方正なんだと思っていました」
「良いことしかしない神など、つまらないだけだろう。物語にならんし」
「物語??」
 ヴァニオンが耳打ちしてきます。
「ナシェルはさ、神様の常識ってやつからは少々ハミ出してんだ。神様の社会で育ってないからさ。異端なんだよ」
「冥界育ちのくせに、魔族のしきたりからも冥界貴族の習わしからもはみ出しまくっているお前にそんなことを言われたくはないな」
 ヴァニオンの軽口に、腕組みした王子さまがすかさず返します。
「ヴァニオン。私の周囲で暇を持て余しているなら今から黒翼騎士団に加入したっていいんだぞ。下っぱの見習い騎士からだがな? だいたい軍務大臣の息子が兵役拒否なんて、どこの世界でも非常識すぎるだろう」
「俺を出世の軌道レールから踏み外させたのどこのどいつだよ?
 俺が陛下のお怒りを買ってまでお前の相談役に甘んじてんのは、ぜんぶ誰かさんの意向ですぅ」
 ヴァニオンも負けじと言い返します。小さく可愛らしかった王子さまは成神して少々毒舌を身につけられたようですが、乳兄弟とは相変わらず仲良しのようです。
 何百年たっても変わらないふたりのやりとりに、アルヴィスは思わず笑声を上げました。

 王子さまは咳払いして話を変えます。
「さて、長旅で疲れただろう、今からちょうど食事をとるところだった。一緒にどうかな?」
「それはありがたいおおせ。それではおいらもお言葉に甘えてご相伴しょうばんにあずかりましょうぞ」
忖度そんたくも遠慮もしないのは、矮人族ドヴェルグの良いところだと前々から思っていた。ではドヴェルグの健啖家ぶりを久々に見せてもらおうかな、たらふく食ってゆくがいい」
 王子さまは冗談を言って笑い、食堂へと彼らを誘います。その腰の長剣がアルヴィスの目に入りました。
「エイルニルの調子はどうです?」
「悪くない。食事が終わったら作業部屋を開けさせよう」
「ではおそれながら後ほど神剣を拝借いたします」

 王子さまは神剣の柄をそっと触ります。剣は王子さまの剣帯ベルトに吊られてほこらしげに揺れていました。あるじの成長を見守りながら、共に生きてきた長剣です。柄に彫られた矮人族の伝統的な文様は、アルヴィスの祖父、父の代と受け継がれてきた意匠です。王子さまが数百年のあいだ、大事にしてくれていることはアルヴィスにとってこの上ない幸福でした。

 そしてときどき、その手入れをするためにこの城を訪れ王子さまに会うのは何にも勝る楽しみなのです。きっと息子の代になっても、何代か先も、アルヴィスの一族は冥界神たちのそばにあり、彼らの双剣を研いでゆくことでしょう。子孫へ向けて、双神と出会ったときの物語を語り継ぎながら。




小さな王子さまのお話 終わり
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

マジカル・ミッション

碧月あめり
児童書・童話
 小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

処理中です...