小さな王子さまのお話

佐宗

文字の大きさ
14 / 31
矮人族のこと

14

しおりを挟む
 気を失っている王子さまを見つけたのは、矮人ドヴェルグ族の少年アルヴィスでした。
 彼とその一族は、魔獣界から腐樹界あたりの地中に、アリの巣のように張り巡らされた横穴式住居に暮らしていました。
 穴ウサギが罠にかかるとぴんと張られたロープが揺れて鈴が鳴り、少年に伝わるしくみでした。あるとき鈴が激しく鳴ったので穴ウサギが掛かったと思い行ってみると、罠にかかっていたのは(というより、ワナを盛大にこわして倒れていたのは)、王子さまだったというわけです。

「魔族だ!」
 倒れている子どもを見つけた矮人族ドヴェルグのアルヴィス少年はいまいましげにつぶやきました。闇の神さまとティアーナ女神さまを父母に持つ王子さまは、神族の子どもであって魔族ではないのですが、アルヴィス少年は神さまの子なんて見たことがないので、魔族の子どもと間違えたのは無理もありません。

 それではなぜ、にがい顔になったのかといいますと、矮人族ドヴェルグは昔から魔族とはあまり折り合いが良くないからです。

 矮人ドヴェルグ族に言わせますと、魔族は地中深くにあるきれいな鉱物を常に狙っていて、矮人族のなわばりから勝手に採掘していくからです。そのあたり一帯の地下は、すべて矮人ドヴェルグ族の誰かが所有する地下迷宮でしたから、断りもなく鉱物を採掘されてはたまりません。ですから矮人ドヴェルグ族は、鉱石を掘りに来る魔族のことを「ぬすっと」だといっていつも怒っていました。

 でも魔族たちに言わせますと、そこらの土地の表面は元々魔族のなわばりでした。かつ冥王さまが治めるようになってからは、すべて冥王さまが魔族たちに分配したれっきとした所領ですから、その土地を掘って鉱物が出てきたら、それは自分たちのものなのです。矮人族のほうが勝手にあとから、自分たちの家の下にまでモグラのようにトンネルを掘り進めてきている、ということなのです。
 まあ、どちらの言い分もそれっぽくて、どちらが先かなどは判断がつきませんから、冥王さまもこれまで裁可をうやむやにしていたのでした。魔族ばかり贔屓ひいきするわけにも行きませんし、かといって小部族ばかりを保護して、一の子分である魔族たちをないがしろにするわけにも行きませんでしたからね。

 ときおり魔族たちが地下の鉱石を掘ろうとし、矮人族の坑道に迷いこんでしまったり、かれらのトンネルを崩してしまう、という事故も起きました。家をこわした場合は弁済して解決することもありましたが、鉱石を見つけた場合には闘いとなり、魔族がそのまま行方知れずとなり帰ってこなかった例もあります。……矮人ドヴェルグ族は、手先の器用な職人であると同時に、とても頑固で屈強な戦士でもありました。

 もちろん矮人族にとって魔族は昨今、工芸品を買ってくれるお客さんでもあります。でも腹の内では、計算高い魔族たちのことをつねに警戒していました。それに矮人族ドヴェルグは成人しても背が低いので、長身の魔族たちに下に見られていました。矮人族はそのことを怒っているので、自分たちのなわばりに入ってきた魔族には容赦しないのです。



「また魔族のやつらが、おれたちの鉱石をぬすみにきたんだな!」
 つるはしを担いだアルヴィス少年は、穴ウサギのわなを壊して落ちてきた王子さまを見下ろしました。細くて白い手足をした男の子。おとなの魔族にしては小さいので、きっと子どもの魔族だろうと見当をつけました。歳は自分より上か下か、よくわかりません。
 天井部を見上げると家の出入り口には大穴があいています。
 魔族ってのは意外とおっちょこちょいだなあ、と思いながら、アルヴィス少年はあらためて倒れている男の子をよく観察しました。

 男の子はとても愛らしい顔立ちをしています。魔族の子どもなど、かわいいと思ったことはないのですが、不思議とその子の顔立ちは、矮人族のアルヴィスにも魅力的にみえました。これは神さまの持つ種族的優生の一種で、生まれつき彼らは他種族よりも優れた造形になっているのです。
 なかでも、闇の神さまとティアーナ女神さまの子である王子さまは格段にお美しい御子でした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マジカル・ミッション

碧月あめり
児童書・童話
 小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

処理中です...