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矮人族のこと
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しおりを挟む「おい、大丈夫か?」
アルヴィス少年は恐る恐る呼びかけましたが、返事がありませんし、その子はぴくりとも動きませんでした。死んでしまっているのかもしれません。
アルヴィス少年はおそるおそる屈んで、魔族の子の手に触れてみました。
まだ、暖かい。
どうやら死んではいないことは明らかでしたが、魔族の子は足や手に切り傷を負っていました。仕方ないなぁ、とアルヴィス少年はつぶやき、その子をひっぱって負ぶい、自分の塒に連れて帰ることにしました。
:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+::+:-・:+:-・:+:
アルヴィスは魔族の子をトンネルの奥の自分のベッドに寝かせると、迷路のようなトンネルを抜けて隣家の世話好きの伯母さんのところへ行き、事情を話しました。
アルヴィスの家と、おばさんの家は地下坑廊の一部で繋がっています。
矮人族は、親戚同士、そのように広大な家のトンネルの一部を交わらせて扉で仕切り、常に連絡を取り合えるようにしていました。
「そりゃまた、やっかいなものを拾ったね。魔族の子だなんて」
穴ぐらの奥の台所で夕飯のしたくをしていたメリン伯母さんは、眉をひそめて言いました。
「鉱石をぬすみにきたんじゃないのかい?」
「鉱石掘りにくる魔族はいつも何人かグループで来るじゃないか。それに服装も違うよ」
伯母さんは怪しみながらもアルヴィスの部屋にやってきて、まだ気を失っているその子供の傷を手当し包帯を巻きました。
「こりゃ本当に魔族かい?」
「どういうこと?」
「魔族とは違う感じがするんだよねえ。あいつらとは匂いも違う気がするんだけど」
おばさんの大きな団子鼻はささいな匂いも嗅ぎ分けられるのです。
「でも、魔族の子どもぐらいの背格好じゃないか」
「そうだねえ」
「おばちゃん、こいつを拾ったことは父ちゃんにも誰にも言わないでくれないか。けがが治ったら元の場所から上に戻すしさ」
「ああ、わかったよ」
アルヴィス少年は父がとてつもない「魔族嫌い」だったことを思い出したのです。父も何度か自分の地下坑廊へ侵入してきた魔族と闘ったことがあるそうです。よっぽど嫌な目にあったのでしょう。
アルヴィス自身、迷路のように張り巡らされた自宅トンネルのどこかがいきなり崩れて、つるはしを手にした魔族がひょっこり顔を覗かせる、ということも近ごろは、年に1度はありました。そのたびに、少年は父に教わったとおりにピカピカの剣をつきつけて、「おい魔族! ここはおれたちの家だぞ! さっさと埋め戻さないとこの剣で首をちょん切るぞ」などと脅さねばなりませんでした。
魔族たちが自分たちのなわばりにある鉱脈をねらっている、と父には教えられていましたから、アルヴィスは十分に魔族を警戒していましたし、この子を父に会わせたらなにやら騒ぎになりそうだ、と思ったのも無理のないことです。
さいわいアルヴィスの部屋は父の仕事場からは少し離れていましたので、父に見つからないようにこの子を看病するにはもってこいでした。
数日ならばかくまえるでしょう。
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