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第四章 明けぬ夜の寝物語
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しおりを挟む第二王子エベールは、異母兄のナシェルにとってさえ不可解な存在であった。
王宮の中では居場所があまりないという。王に存在を無視され、王宮の貴族社会でも浮いている。
その孤独とは、半神半魔の彼だからこそ背負わねばならぬ宿命なのだろうか……。
『半神半魔』という種族は、この広い世の中にエベール王子ただ一人である。彼は水晶を介して遠隔地を見通すという特殊な力を持つ。だから一般の魔族からはおそらく、神に近い存在だと思われているのだろう。しかし神族であるナシェルに言わせれば、神族に近いなどとはもってのほか。エベールは明らかに、神には到底及ばない存在だ。
自分と同じ立場の者が全くいない世界……それは、自分に共感を覚えてくれる者が皆無である事を意味する。
かつて闇の神セダルは、神族における『異端』とみなされた孤独から、千年の長きに亙って狂い続けたのだ。冥界に堕ちてきた彼を、魔族たちはただもの珍しげに、遠巻きに眺めているだけだった。彼ら魔族と闇神は容姿こそ似ていたが、内に秘めた魔力の歴然たる差から、別の種族であることは火を見るよりも明らかであったから。
やがてティアーナの命を賭した愛と献身によって死の神が生まれ、冥王は正真正銘の“同族”を得て、自分を狂気せしめた孤独からようやく解き放たれた。
ではエベールは? とナシェルは思う。
弟もまた、明らかに孤独だ。ティアーナの献身的な愛を得た冥王とは違い、彼には今のところ、かたわらに立とうとしてくれる者もない。
だからこそ彼は、折にふれ口に出さずにはいられないのだろう。
「僕のことを、嫌いになったりしていませんよね、兄上」と。
恐らく彼は私に何かを求めている……。救いを求めているのかどうかはよくわからない。
これまで何度も手を差し伸べてきたが、肝心のところでエベールは、私にすがるよりも常に独りであることを選択した。
だとしたら、彼が私に望んでいるものとは一体何なのだろう……。
今さらではあるが、私が彼に与えてやれるものがあればいいのだが。
ナシェルはしばらく薄らぼんやりと、エベールの出自について想いを馳せていた。
冥王が――我が父が、ヴェルゼフォニア女公爵とちぎって生れたのがあの弟だ。
そもそも王はどのような気持ちで女公爵を抱いたのだろうか?
私には無理だ。――あのような女騎士と床を共にするなど。
いや、違うな。理由は女だてらに騎士だからではない。
もっと根底の問題だ。
――そうか。結局、どんな身分の高い女が来ようと、それが魔族である限り、私には…とても無理だと、そういうことだ。魔族の女と寝所を共にするなど、…考えるだけで……。
そうだ。最初から、明らかではないか。
ならば私はなぜここにいて、この娘たちに一夜の褒美を期待させ、己が腕など揉ませているのだろう。
――ヴァニオンに対する昨夜の態度といい、侍らせたこの娘たちといい……我ながら、無意味なことをよくも延々繰り返すことができるなと、つくづく痛感する。
(※異母弟誕生の真の理由は、本編の第四部で語られますが、このときのナシェルはまだ「父の気紛れ」だと思っています)
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