泉界のアリア

佐宗

文字の大きさ
99 / 262
第三部 天 獄

24混濁②

しおりを挟む
 闇神に瓜二つという黒髪の死神と、そしてセファニアの神司を受け継いだ金髪の小娘。似ても似つかぬがあれで兄妹という。
 特に、黒髪の死神はレストルにとって求知心をそそる具材であった。

 レストルを含めた第二世代の若き神々は、遙か昔にただひとり冥界に遣わされたという闇神の顔を知らぬ。噂に聞くところでは、黒髪紅瞳の醜き容貌を忌まれて堕ちたのだとされているが…。

(だとすれば、上の世代の神々は一体なにを見ていたのだ?
 あれが……あの姿が醜いだと?)

 自分の目がどうかしているのだろうか?
 なぜならレストルの死神に対する直観は、それまでの黒き神々に対する先入観を根底から覆すほどの『静謐な美』の衝撃だったのだから。
 あの死神とはじめて対峙した瞬間、そのあまりに気高く優艶な、凄絶な立姿に、レストルは確かに目を奪われたのだ。
  捕え、腕の中に取り込んだあとでも、気を失った彼は見れば見るほどに妖しく暗い輝きを放っていた。この魅惑は何かの魔呪ではないかと、無理やり目を背けたほどだ。
 レストルと共に帰還した他の警邏団の者たちも、あの死神に興味を示していた。レストルはそれらの野卑な視線に危険なものを感じ、天王宮の外郭の一角に彼を隔離したのだ。


 冥界の王子と王女を捕えて来、なおかつ王子には重傷を負わせていると聞いて、父は激昂した。
『また争い事の火種を持ち込みおって! 天王に何と申し開きする!? 良いか、処遇を決めるまで、くれぐれも丁重に扱え』

 アレンはそういって執務卓の向こうで金緋色の頭髪を掻きむしった。『俺達の管轄である地上界に出てきたのはあいつらのほうだ。それに、形はどうあれあのサリエルを救出してきたのは手柄じゃないか』というレストルの弁明も、父は聞いていたのかどうか。
 さらに悪い報告を、レストルはせねばならなかった。警邏団のうち10名が戻らず、血気盛んなまま冥界の門へ向かった件についてだ。

『馬鹿者! 自分の組織も掌握できんようなら自警組織などやめてしまえ!』と、とうとう父神にブン殴られたのである。

 さいわいにして、全員で後を追おうという最低最悪の判断を下さなかったことだけは、評価された(評価といえるのか分からぬが)。
 魔族たちから応戦を受ければ、若い彼らのことである、たちまち勢いづいて大きな闘いに発展してしまうだろう。
 頼みは、彼ら10名が、物見遊山を諦めすごすごと帰ってくることだけだ。父神アレンは心からそれを願い、しかしレストルのほうはどこか心の奥底で、ベレス等が多少痛い目にあって帰ってくることを期待していた。

「……だいたいベレス達は俺を組織の長とは認めていないんだ……掌握などできるものか」
 ぶつくさと、遅まきな父への言い訳を呟く。



 内庭に咲き乱れる花々に目をくれるわけでもなく、足早に幾つかの白亜の回廊を抜け、あの者・・・を監禁している部屋へ急ぐ。

 肩の傷はさすがに出血が酷かったので、ルゥとかいうあの妹王女を連れてきて治癒させた。あの小娘は自分らに対してかなり敵意をむき出しにしており、ここに来てからもレストルやアドリスが幾度か噛みつかれたことはいうまでもない。
 あまりの狂暴性に、手に負えぬと困り果てていた所に伯父・天王がひょっこり現れ、軽々と小娘を手懐けて(菓子でもやったのか?)連れて行ってしまったが……。
 そろそろあの死神のほうも目を覚ましているころかもしれない。弟アドリスに監視させているが、無責任なあれのことだ、暇つぶしに出かけたりせずしっかり見張っているかどうか……。

 最後の角を曲がったところで、レストルは例の部屋から出てきた暁神アドリスと鉢合わせた。
「アドリス、ちゃんと見張りはしていたのか?」
 呼びかけに、初めてこちらに気づいた弟神は驚愕の表情を見せ、後ろ手に閉めた扉を、何故か片手で激しく叩いた。

「……何をしている? あいつは目を覚ましたか。……誰か中にいるのか?」
「い、いや、その……早かったな兄貴。親父にこってり絞られたんじゃないか?ベレスたちのことでさ……」
 アドリスは自分の注意を引き話を逸らそうとする。嫌な予感がした。

「おい、何してる、退け!」
 扉の前に立ちはだかり退こうとしない弟を脇に突き飛ばし、レストルは取っ手に飛びつき扉を開けた。
「………ッ! お前らァ………!!」
 レストルが憤激の叫び声をあげるのと、群がっていた者たちが虜囚の躯から離れるのとは、ほぼ同時であった。




 扉を開けた瞬間レストルの目に飛び込んできたのは、虜囚となったナシェルが服を剥かれ、全裸になって床にくずおれているという、悍ましい光景。
「………!!」
 何が行われていたのかは、問うまでもなく明らかだ。

 虜囚は伏したまま、微動だにせぬ。
 起き上がることもできぬほど激しい凌辱を受けたのか。
 床面に接した頬を黒繻子のような長い髪が覆い隠し、その表情は読み取れぬ。気を失っているのかもしれない。
 閉ざされた密室には吐き気が込み上げるほどの嫌な匂い……男たちの汗と、精液の臭いがたちこめていた。
 虜囚から身を離した男神たちは、寛げた前を仕舞い、服を正しながらレストルの怒りを察し壁際にさがった。彼らは死神に興味を示していた警邏団の仲間だった。恐れていたことが早くも現実となった形だ。

「俺たちアドリスに連れてこられたんだ」
「そ、そうだ、『いいもの拝ませてやるからついて来い』って……アドリスが、」
「……黙れッ!! この馬鹿野郎どもが!」

 レストルは猛々しい怒りそのままに殴りかかる。一人を捕まえ正拳を叩きこみ、二人目の服を掴んで壁に叩きつけた。辛くもレストルの誅拳を逃れた残りの一人は、脱兎の如く扉から逃げ去り姿を消した。

「ッ痛ってえ……!」
 顎を割らんばかりに強かに殴られ、二人は這い蹲って呻いている。レストルは怒りの矛先をすぐに弟神に向けた。
「アドリスッ…!! お前…! 誰も近づけるなとあれほど…!」

 しかし部屋に入ってきた弟は、既にいつもの緊張感のない表情に戻っており、殴り倒された者らに目を向けることもなく当の虜囚のほうに近づいている。兄の怒りもどこ吹く風だ。

「こいつ凄かったよ兄貴……。オレ、男は犯ったことないけどすげームラムラきちゃった……」
「アドリス! 聞いてるのか!?」
「…あれェ……?」

 レストルの声を遮る形で、アドリスが異変の声を上げた。そのまま虜囚を覗き込んだ弟は、不審げに眉を顰めて兄を振り返った。
「兄貴、コイツ何か様子が変だよ…」
 手招きされて、レストルは己の上着を脱ぎながら近づいた。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...