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第三部 天 獄
25混濁③
しおりを挟む天窓から差し込む光は夕刻が近づくにつれ赤みを徐々に増しつつある。やや傾いたその注光を浴びてなお蒼白い裸身が、幽かに戦慄き、癒えたはずの肩が辛そうに上下しているのが見て取れた。
均整のとれた腰に、無駄肉のない尻に、複数の男達によって放たれた白濁の液が糸を引いて点々と散り、猥らな濡れ光を放っている。雫は床にまで垂れ、彼のまわりに卑しい模様を描き出していた。
レストルは上着を肩から着せかけ、痛々しい裸身を包んでやった。
背後の男達がその隙に戸口から逃げ出していったが、もうそんなことに構っている場合ではない。
レストルは虜囚の肩をつかんで抱き起こした。
「おい、大丈夫か、……ナシェル、おい」
おそるおそる名を、呼んでみる。
仰向いた虜囚はぐったりと力なく首を傾け、レストルに抱きかかえられたまま呼びかけへの反応もない。
意識を失いかけているのか、ほとんど閉じかけた瞼の隙間から生気のない蒼い眼差しを虚空に飛ばしていた。焦点も、合っていない。
明らかに様子がおかしい。
「アドリス、どうしてこんなことになるまで姦らせた!? なぜ止めなかった!!」
「いや、だって、コイツ、なんか最中もすごい平然としてて……慣れてるみたいだったからサ……それにオレもつい魅入っちゃって。ホント、犯られ慣れてる感じだったんだけどなぁ。おかしいな……急にどうしたんだろ」
「もういいッ。とにかく早く拭くものと着替えを持ってこい」
「はいはい……人遣い荒いなァ……」
ぶつぶつ零しながらも、やはりナシェルの様子に只事ならぬ気配を感じてか、弟は足早に出て行った。
レストルは再び死神に視線を落とす。
上着で包んでやってはいるが、ほぼ全裸に近い。意識を飛ばしかけていてさえ妖艶な姿であった。どこまでも透き通った肌に、夕日の色がさしてそこだけは緋を帯びつつある。だが限りなく白く、しっかりと繋ぎとめておかなければ夕陽の焔に溶けてどこかへ消えてしまいそうなほどだ。
地上界で対峙したときには決して見せなかった脆さを、その表情のなかに見出し、レストルは突如激しい狼狽を覚えた。
凄烈な殺気と、威厳に満ちた、あのときの立ち姿……。そして今ここにある、見る者の心をかき乱すほどの繊弱さ。同じ神のなかに、何故これほどまでの二面性が存在し得るのだ……。
「大丈夫か? しっかりしろ」
引き摺り捕えこの場に繋いだのは己であるということも忘れ、レストルはナシェルの頬を軽く叩いて声をかけた。
「……ぅ……」
苦しげな声を上げた唇は色を失っている。体の震えに伴い歯が鳴ってかちかちと小さな音を立てていた。呼吸は浅く速く、乱れがちだ。
レストルはその唇から視線を剥がすことができない。
ナシェルの脆弱な様子を見るにつけ、強烈な庇護欲と独占欲が胸の奥から沸き起こってくる。
心が、一瞥ごとに激しく掻き乱されていく。
冷静になれ、これは、我らの敵だ。魔族の頭領と成り下がった『黒き神』の息子だぞ。
そう己にいい聞かせるも、芽生えてしまった『口づけたい』という感情は、到底打ち払えるものではない。
吸い寄せられるように、レストルは身を屈め、その戦く唇を自分のそれで塞いだ。
女にさえ、これほどの熱情を込めて口づけたことはない。
レストルはナシェルの呼吸を落ち着かせるようにゆっくり唇を吸い、歯列をなぞり、口中を貪った。
その柔らかさに、眼も眩むほどの恍惚が押し寄せ、レストルを包み込んだ。
(目を覚ませ……、)
意識は未だ混濁しているらしい。
唇を貪られているとも知らず、ナシェルはただただ彼の腕の中でかすれた吐息を漏らし続けていた。
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