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第十一章 ナシェル、天敵と遭遇す
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しおりを挟む聞いているのかいないのか、アドリスは白天馬を甲板に着地させ、両手を広げて駆け寄ってきた。
「ナシェル超久しぶりじゃ~ん!! まさかこんなところで会えるとは思ってなかったよー! いったいどういう風の吹き回し?」
ナシェルがプイッとよけたので、抱きつこうとしたアドリスはつんのめって両手を空振りさせる。
「な、何でよけるのさー、せっかく再会を祝そうと思ったのにナシェルは相変わらずどツンちゃんだなぁ! で、なんで人間界で船になんか乗ってんの? いつぞやの魔族なんか連れちゃってェ慰安旅行か何か?」
「慰安旅行ではない。理由など貴様には関係ないだろう」
ナシェルはうっかり真面目に応対してしまい、ここからアドリスのペースに巻き込まれてゆく。
「水くさいな~イトコ同士なんだし教えてくれたっていいだろ。
あっ! ははあ~分かったぞ!! さては凶暴チビ姫ちゃんを探してるんだな?!」
アドリスは納得したようにぽんと両手を打つ。(皆さんお忘れかもしれないが、この旅はそもそも、留学先の天上界から家出して地上界のどこかに隠れてしまった女神ルーシェルミアを探して冥界に連れ帰るのが目的だった)
「凶暴チビ姫とはなんだ失敬な、あの子はもう年頃の女神だぞ」
「そう! 難しい年頃なんだよね~だから伯父貴も手ェ焼いててさあ……ぶっちゃけあの娘が家出したおかげで天宮内、静かになって今チョーゼツ平和なの! ハハ」
「貴様、うちの妹をそれ以上侮辱するとタダでは済まんぞ……」
ナシェルはこめかみの筋を浮き立たせた。ナシェルのイメージでは、いまでもルゥはちょっと天然な、可憐な少女のままだ。
「わ、ごめんごめんっ、悪く言うつもりは全然なくてホラ……俺も姫ちゃんが居なくなっちゃってホントに寂しいんだよ。これ本当。だから早朝散歩ついでにこうして地上界に降りてきてたまに探したりしてるんだよ。手がかりはまだ何もないんだけどさ~ゴメン~~!!」
アドリスは悪びれない様子で両手を合わせた。(親戚の娘が行方不明だというのに危機感がまるでないのは彼女が天界最強の女神だからだ)
「あ! そうだ! ねえナシェルちゃん連絡先交換しようよ~! 姫ちゃん見つかったらすぐ連絡するしぃ」
「断る。だいたい姫を探すのに貴様の協力は必要としていないし、さっきの子供に対する貴様のひどい態度は目に余る。到底看過できぬ。あの子は藁にもすがる思いであそこに登り、貴様を呼び出したのに」
しかしナシェルの非難はアドリスには馬耳東風のようだ。
「そりゃ謝る。あの少年には悪いことした。だけどさぁ~! ナシェルちゃんも分かってくれてるだろうけどオレ実は、『何でもお願い叶えてあげる』ってほど万能神じゃないんだよねえ。そもそもあの宝石をカワイコちゃんに渡すときにオレ、そんなこと言ったっけなぁ? たぶんかなり伝説級にウワサに尾ひれついちゃってると思うんだよね……」
「では『願いを叶えてやる』というのは方便か? 相変わらずだな、この、神族の風上にも置けぬドクズ神が」
「やだ怒らないでナシェルちゃん。噂に尾ヒレはオレのせいじゃない」
アドリスは顔の前で両拳をにぎり、青い瞳をウルウルさせてくる。
「でもオレ、がんばるよ。カワイコちゃんのお願いなら叶えるっつったじゃん? つまりさ、ナシェルがまたオレたちとワンナイトラブしてくれたら努力する! お願い叶える! ナシェルのお願い叶えるよオレ!」
「!!??」
なぜかカワイコちゃんと同列の扱いとなり、ナシェルは怒りで身を震わせた。
「いいか……私が貴様に願いたいことはただ1つだ。今すぐ私の前から消え失せて塒へ帰れ。以上だ」
「あ、もぉ~ヒドイ言い方~! いつぞやのコトまだ怒ってんの? じゃあこっちも言わせてもらうけど、あのときのせいでオレ新しい性癖の扉が開きかけちゃってさぁ……お前が冥界に帰ったあとしばらく本気で男漁りしたもんね。まあ結局お前レベルの奴とニャンニャンできなくて徐々に我に返ったんだけどさ。ナシェル、一時期とはいえオレの性癖ねじ曲げた責任、とってよね!!」
「貴様の性癖など知ったことか!!」
全くもって聞くに堪えぬ。ナシェルは腰の神剣に手をやった。
「上等だ……どこまでも私を侮辱する気だな。今度こそ決着をつけようではないか」
「そんなつもり毛頭ないよ~~やめとけやめとけ~。まったく見た目に反して血の気が多いんだからナシェルちゃんは」
アドリスは呑気に頭のうしろで指を組む。口笛でも吹きかねない態度だ。
「だいたい決着っていうけどこのオレと、またこの時間帯に本気でやり合って勝てると思ってんの? オレを誰だと思ってるのさァ」
アドリスは光の神族、それも夜明けの神である。見渡すかぎり海上を朝陽が照らす今この時が、彼にとって最も好条件といってよい。
「地の利、時の利を差し引いたとしても貴様の発言の数々は見過ごすわけにはいかぬ。さっさと剣を抜け!」
「ほんとにいいのォ~~? 相変わらず向こう見ずだなぁ~。オレが勝ったらベッドに直行だよ~~? ていうか待ってタンマ。オレたち、大事な男を抜きにして話進めちゃダメだよね! うちのアニキ呼ばなきゃ!! 兄貴が一番ナシェルに会いたがってたからさ~、また3Pで盛り上がろ――!!♡」
「ドクズの上に大馬鹿とはな……」
甲板の上にいた全員が目を丸くしてやりとりを聞いているのに気づき、ナシェルは恥ずかしさで震えた。
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