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第七章 ナシェル、墓穴を掘ろうとする
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しおりを挟む(この男、まさか『あわよくば美貌の兄弟と3P』などという妄想に囚われているんじゃなかろうな……)
確実にお前のムスコの出番はないぞ、と心中でツッコミつつ、ナシェルは咳払いしてきっぱりと言った。期待を与えすぎるのはよくない。
「……あいにくです、アシール殿。私たちは、貴方の用意した鳥籠のなかで飼われるような一生を終えるつもりはありません。せっかく自国を離れてのんびり自由な船旅を満喫しているのですから。
お察しのとおり、国に帰ればまた窮屈な身分に戻らねばならないので、今は兄と、ごくわずかな自由時間を過ごしているのです。そんなに私のことに興味を持ってくださり、ありがたいのですがとても知り合ったばかりで結婚までは考えが及びません―――すみません。あなたは、いい方だ。そんなに焦らずとも、いずれきっと素敵なお相手が見つかると思いますよ」
「ああ、ナシェルさん……すみませんこちらこそ、困らせるつもりはなかったのです。ただ、私の率直な気持ちをどうしてもあなたに伝えておきたくて―――」
「いえ、嬉しいですよ。せめてこの船旅の間、お互い親交を深めましょう。実をいうと私も結婚うんぬんはさておき、貴殿のことがもう少し知りたいですし……」
「ほ、本当ですか!」
「ええ……(懐具合に限るが……)」
ナシェルはためらいがちに微笑み返した。
(とりあえず相手の心を射止めることには成功している。ある程度は譲歩も必要だ。―――あとは適当に仲良くしてあしらいながら、次の大陸に着くまでじれじれと引き伸ばして色々おごらせればいいか……。父に目くじらを立てられない程度になら、もうすこし色香を出して釣ってみても構わないかな――……?)
ナシェルはアシールの熱視線をさらりと受け流しつつ、メイン皿の肉料理を終えた。デザート皿に取り掛かりはじめたところで――『さきほど呑み干した酒がどうも効きすぎているな、』と感じ始めた。
(強い酒だったにしても妙に回りが早いな。あれ……なんだか、体が……疼く……)
頭がくらくらする。
カシャン……
指の力が抜けてフォークを取り落とした。異変に気づいたか、テーブルの向こうからアシールが呼びかけてくる。
「……ナシェルさん? どうしました」
「失礼。少し気分が……」
「気分がお悪いのですか。船酔いでしょうか」
「いえ、少し呑み過ぎたのかもしれません。アシール殿、申し訳ない。食事の途中でしたが、ご迷惑はかけられないので一旦部屋に戻って休みます。失礼……」
(ちょっとこのフラつきはまずい、退散しよう、)とあわてて椅子を引いて立ち上がりかけ、ナシェルは急激な目眩に襲われた。
天井が回る。
向かいのアシールがとっさに席を立ちナシェルの体を抱きかかえた。
「ナシェルさん! 大丈夫ですか? 気分がお悪いならそこの椅子で休まれるといい」
居室の隅の、綾織りの長椅子を指し示される。
「いえ、気分が悪い……というよりは、」
答える自分の息がハアハアと忙しないのをナシェルは自覚した。アシールの手に掴まれている肩が、腰が、熱い。
「なんだろう……体が熱くて……すみません、部屋に戻りたいんですが」
「ですが、とてもふらついておられる。歩くのは危険です。ひとまずそこの長椅子へ……」
ナシェルは有無もなく抱えられるように長椅子へと移された。どんどん息があがる。背もたれに上半身を預けて、ナシェルはぼうとした表情で男を見上げた。額と頬を、不快な汗が伝い落ちてゆく。
アシールの心配そうな顔が、吐息のかかりそうなほど近くにあった。
男の匂いを嗅いだだけで、体の疼きが一層強まっていく。
(おかしい……、収まるどころかどんどん強くなってくる……)
まさか今呑んだ、あの酒……、
「失礼、ご気分がお悪いなら少し胸元を、くつろげましょう」
アシールの手がナシェルの襟にかかる。とっさに払いのけようとしたが、首すじに触れた指先の熱に、体が過敏に反応してしまう。
「待て……んっ……、」
変な声が出た。眼を見張ったアシールと、目が合う。
(マズい、あれを見られる)
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