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名称継承編
アイタイ
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「でたらめな女だね。何あの火力」
空を舞うシルヴェンヌを見て、魔法使いが言った。
ゴーレムならば、ナギサがたいした苦も無く一掃できると判断して、グシスナウタルをシルヴェンヌに向かって投げようとする。攻め手が減ったことでこっちにやってきた戦士が見えた。シルヴェンヌが完全解放を解いた状態で矢の雨を降らせたが、戦士は鎧の防御に任せるままに突撃してくる。建物を壊して崩し、瓦礫が宙を舞って道路を分断した。セスのアダマスと戦士の剣が激突する。後ろでは鈍い破壊音が響いていることから、ナギサがゴーレムを壊し始めたのだろう。
セスはグシスナウタルを引き寄せて右手で持った。その隙に戦士が剣を押し込む。セスは踏ん張らずに体を流して剣をかわした。剣が大地を裂き、すぐに持ち上がる。体をのけぞらせてセスは矢をシルヴェンヌに投げ渡した。シルヴェンヌが空を駆り、金色の矢を掴む。
「簡単に与えすぎだろ。仮にも名のある武器だろ?」
シルヴェンヌも視界に納められるように戦士が移動しながら言う。
「それをいうのなら、お主らも持ちすぎではないかの」
「言えてるな」
明るく笑い飛ばして、戦士が剣を振るった。
かわすと、助けて、という叫びが聞こえてきた。
「良いのか?」
セスが問う。戦士の視線が逸れた。
「助けを求める声を無視して、倒せるかもわからない時間稼ぎに付き合っても、良いのかの? 仲間が敵を引き付けられる位置にいるというのに」
大きな声でセスが言った。助けを求める声色に変化が起こる。戦士も、唇を噛んだ。セスがアダマスを振るい、戦士が退く。一歩踏み出した戦士にシルヴェンヌの矢が降り注いだ。魔力球を飛ばして戦士の鎧を叩く。土ぼこりが舞った。地面が揺れる。
助けての声が大きくなる。
「くそ」
悪態を付いて、剣を構えながら戦士がセスから離れていった。
セスが振り返ると、ナギサが障壁に阻まれながらも何度も攻撃を繰り返しているところだった。彼女の魔力が濃く空中に散布されており、虚実の炎をたくさん放ったことが良くわかる。
「ナギサ! 引っ張れ!」
セスが糸を掴んで叫ぶと、ナギサが右手で首元から伸びている紐を掴み、思いっきり引っ張った。セスが引き回されるように宙を舞い、後ろでシルヴェンヌのものと思われる破壊音がして、魔法使いの前に着いた。詠唱も終了する。
「飼い主さんいらっしゃいって感じ?」
障壁から雷と炎が発射された。
「目覚めよ、『ヘインエリヤル』」
アダマスがセスの手から離れ、オフィシエの幻影を作りだす。解放状態での権限だ。右腕の尺骨と橈骨が大きく膨れ上がり、攻撃を受け止める。未完成なためか、攻撃を受けた場所が消し飛んだ。されど、左手から伸びたアダマスが障壁の核となっている二つの逆鱗を切り裂く。最後の魔力の奔流がオフィシエの幻影を消し去り、アダマスがセスの手に戻ってくる。
「オフィシエが使うアダマスの切れ味は、前衛ではないお主にはわからなかったのかの? あの戦士や勇者なら、躱していたであろうに」
魔法使いが更なる武器を取り出したが、目を見開いて取り落とした。
躱せる程度の速さでアダマスを振るう。魔法使いの体勢が崩れた。
「雷よ!」
勇ましい叫びと雷の一閃が、一瞬前まで魔法使いが居た場所を通り過ぎる。魔法使いが杖を取り落としそうになりながらも胸を抑えた。もちろん、直撃などしていない。かすってすらいない。
「殿下、そろそろお引きください」
ナギサがゆっくりとセスの前に出た。
「そうするとしよう」
魔法使いを警戒しながら、セスは離れた。魔法使いは荒い息を整えるように大きく呼吸しながらナギサを見上げている。
「殺生石か……」
息も絶え絶えな様子で、魔法使いが喘いだ。
ナギサが羽織の内から妖しく色の変わり続ける水晶玉のような殺生石を取り出す。
「半分正解、もう半分は幻術だ。最初の攻撃を、魔力消費を気にしてきちんと解除しなかったのが仇となったな。父も母も、先の二戦の私も、実直な攻撃ばかりだったから警戒が薄くなっていたか?」
魔法使いが杖を握りなおすより早く、ナギサの刀が魔法使いの胸を貫いた。
魔法使いの口から、ごぽぁ、と血が零れ、どくどくと端を伝って顎を汚し服を濡らす。
「私怨だと罵ってもらっても構わない。貴方の罵声には、だいぶ慣れたからな」
ナギサが刀を引き抜き、尻尾で頭を叩いて伏せさせてから首を切り落とした。芸術的なほど、見とれるほどの綺麗な断面で、首が転がる。
ナギサの尻尾が消えて、服装も元に戻った。倒れそうになり、刀を地面に落とすようにナギサが座り込む。
「大丈夫か?」
セスは駆け寄り、ナギサの刀を取って彼女の腰に戻した。
「ありがとうございます。ですが、すぐに離脱しないと……」
ナギサが両腕を付いたまま、顔を上げた。
「殿下!」
ナギサがセスを突き飛ばす。
「解放!」
ナギサが巨大な八尾の狐に変わる。戦士の剣がナギサの右腕に突き刺さり、貫通した。剣の先から血が落ちて地面を濡らす。
セスは糸を操ってフロッティを拾うと、戦士に刺突をくり出した。
戦士が剣を抜きながらフロッティの切っ先をずらす。グシスナウタルが戦士の背後から迫り、戦士が今一度セスから距離を取って、シルヴェンヌの意思に従って跳びまわるグシスナウタルを叩き伏せた。込められた魔力がなくなりかけたグシスナウタルが主人の元に戻って行く。
時間が稼げた間にセスは魔力を使ってナギサの傷口にそって障壁を作り、糸で簡易的に縫い合わせた。
セスがシルヴェンヌに目をやると、勇者の攻撃を受けて空を飛びまわっている。ロルフの攻撃もあってシルヴェンヌを脅かすモノにはなっていないが、こちらを狙い撃てる状況ではない。奥義の完全解放による攻撃も一度行っているため、次はセスとの距離が近くないとまた欠乏に陥る。
「そっちの時間稼ぎは如何ほどもつかの」
セスが努めて余裕そうな声をだした。
「稼がないとまずいのはそっちじゃねえの?」
戦士が再び剣を振るう。セスが受け止めるが、軽く押し込まれた。
「殿下!」
ナギサが尻尾を戦士に叩きつける。ナギサの顔がセスのすぐ横に来た。
「私の体の操作をお願いします」
尻尾をかき分けて出てきた戦士に、ナギサが吼えた。剣が振りあがり、ナギサが顔を上げて躱す。セスは戦士に良く見えるように、ナギサの父親の殺生石と母親の爪を沼から取り出した。
「死せる忠臣よ、娘を想いし猛者よ。その魂、我のために今一度働かせたまえ」
「ちっ、ここまでか」
戦士が悪態を付いて距離を取った。
「エイキム! 来い!」
戦士が叫んでいる間にナギサが魔法使いを口の中に加えた。足だけが口から垂れ下がっている。
セスは首輪だけでなく糸を四肢にも巻き付けると、ナギサを動かした。勇者と行き違うようにロルフがいた屋根にナギサが着地する。
「すぐ会える、そうだろ? 仲間の死体がどうなるか分かったものではないしの」
言いたいことだけ言うと、憤る勇者を無視してセスはシルヴェンヌに手を伸ばして彼女を掴み、ナギサを再び跳躍させた。ロルフは尻尾に捕まってよじ登ってきており、ニチーダは糸を伸ばして回収した。
「殿下……私の扱い雑じゃないですか? 泣いてもいいですか?」
「すまぬ」
口では謝りつつも、セスは勇者の攻撃がすぐしたを通っているのに全く反応を見せなかったニチーダにその必要はない気がしてならなかった。
空を舞うシルヴェンヌを見て、魔法使いが言った。
ゴーレムならば、ナギサがたいした苦も無く一掃できると判断して、グシスナウタルをシルヴェンヌに向かって投げようとする。攻め手が減ったことでこっちにやってきた戦士が見えた。シルヴェンヌが完全解放を解いた状態で矢の雨を降らせたが、戦士は鎧の防御に任せるままに突撃してくる。建物を壊して崩し、瓦礫が宙を舞って道路を分断した。セスのアダマスと戦士の剣が激突する。後ろでは鈍い破壊音が響いていることから、ナギサがゴーレムを壊し始めたのだろう。
セスはグシスナウタルを引き寄せて右手で持った。その隙に戦士が剣を押し込む。セスは踏ん張らずに体を流して剣をかわした。剣が大地を裂き、すぐに持ち上がる。体をのけぞらせてセスは矢をシルヴェンヌに投げ渡した。シルヴェンヌが空を駆り、金色の矢を掴む。
「簡単に与えすぎだろ。仮にも名のある武器だろ?」
シルヴェンヌも視界に納められるように戦士が移動しながら言う。
「それをいうのなら、お主らも持ちすぎではないかの」
「言えてるな」
明るく笑い飛ばして、戦士が剣を振るった。
かわすと、助けて、という叫びが聞こえてきた。
「良いのか?」
セスが問う。戦士の視線が逸れた。
「助けを求める声を無視して、倒せるかもわからない時間稼ぎに付き合っても、良いのかの? 仲間が敵を引き付けられる位置にいるというのに」
大きな声でセスが言った。助けを求める声色に変化が起こる。戦士も、唇を噛んだ。セスがアダマスを振るい、戦士が退く。一歩踏み出した戦士にシルヴェンヌの矢が降り注いだ。魔力球を飛ばして戦士の鎧を叩く。土ぼこりが舞った。地面が揺れる。
助けての声が大きくなる。
「くそ」
悪態を付いて、剣を構えながら戦士がセスから離れていった。
セスが振り返ると、ナギサが障壁に阻まれながらも何度も攻撃を繰り返しているところだった。彼女の魔力が濃く空中に散布されており、虚実の炎をたくさん放ったことが良くわかる。
「ナギサ! 引っ張れ!」
セスが糸を掴んで叫ぶと、ナギサが右手で首元から伸びている紐を掴み、思いっきり引っ張った。セスが引き回されるように宙を舞い、後ろでシルヴェンヌのものと思われる破壊音がして、魔法使いの前に着いた。詠唱も終了する。
「飼い主さんいらっしゃいって感じ?」
障壁から雷と炎が発射された。
「目覚めよ、『ヘインエリヤル』」
アダマスがセスの手から離れ、オフィシエの幻影を作りだす。解放状態での権限だ。右腕の尺骨と橈骨が大きく膨れ上がり、攻撃を受け止める。未完成なためか、攻撃を受けた場所が消し飛んだ。されど、左手から伸びたアダマスが障壁の核となっている二つの逆鱗を切り裂く。最後の魔力の奔流がオフィシエの幻影を消し去り、アダマスがセスの手に戻ってくる。
「オフィシエが使うアダマスの切れ味は、前衛ではないお主にはわからなかったのかの? あの戦士や勇者なら、躱していたであろうに」
魔法使いが更なる武器を取り出したが、目を見開いて取り落とした。
躱せる程度の速さでアダマスを振るう。魔法使いの体勢が崩れた。
「雷よ!」
勇ましい叫びと雷の一閃が、一瞬前まで魔法使いが居た場所を通り過ぎる。魔法使いが杖を取り落としそうになりながらも胸を抑えた。もちろん、直撃などしていない。かすってすらいない。
「殿下、そろそろお引きください」
ナギサがゆっくりとセスの前に出た。
「そうするとしよう」
魔法使いを警戒しながら、セスは離れた。魔法使いは荒い息を整えるように大きく呼吸しながらナギサを見上げている。
「殺生石か……」
息も絶え絶えな様子で、魔法使いが喘いだ。
ナギサが羽織の内から妖しく色の変わり続ける水晶玉のような殺生石を取り出す。
「半分正解、もう半分は幻術だ。最初の攻撃を、魔力消費を気にしてきちんと解除しなかったのが仇となったな。父も母も、先の二戦の私も、実直な攻撃ばかりだったから警戒が薄くなっていたか?」
魔法使いが杖を握りなおすより早く、ナギサの刀が魔法使いの胸を貫いた。
魔法使いの口から、ごぽぁ、と血が零れ、どくどくと端を伝って顎を汚し服を濡らす。
「私怨だと罵ってもらっても構わない。貴方の罵声には、だいぶ慣れたからな」
ナギサが刀を引き抜き、尻尾で頭を叩いて伏せさせてから首を切り落とした。芸術的なほど、見とれるほどの綺麗な断面で、首が転がる。
ナギサの尻尾が消えて、服装も元に戻った。倒れそうになり、刀を地面に落とすようにナギサが座り込む。
「大丈夫か?」
セスは駆け寄り、ナギサの刀を取って彼女の腰に戻した。
「ありがとうございます。ですが、すぐに離脱しないと……」
ナギサが両腕を付いたまま、顔を上げた。
「殿下!」
ナギサがセスを突き飛ばす。
「解放!」
ナギサが巨大な八尾の狐に変わる。戦士の剣がナギサの右腕に突き刺さり、貫通した。剣の先から血が落ちて地面を濡らす。
セスは糸を操ってフロッティを拾うと、戦士に刺突をくり出した。
戦士が剣を抜きながらフロッティの切っ先をずらす。グシスナウタルが戦士の背後から迫り、戦士が今一度セスから距離を取って、シルヴェンヌの意思に従って跳びまわるグシスナウタルを叩き伏せた。込められた魔力がなくなりかけたグシスナウタルが主人の元に戻って行く。
時間が稼げた間にセスは魔力を使ってナギサの傷口にそって障壁を作り、糸で簡易的に縫い合わせた。
セスがシルヴェンヌに目をやると、勇者の攻撃を受けて空を飛びまわっている。ロルフの攻撃もあってシルヴェンヌを脅かすモノにはなっていないが、こちらを狙い撃てる状況ではない。奥義の完全解放による攻撃も一度行っているため、次はセスとの距離が近くないとまた欠乏に陥る。
「そっちの時間稼ぎは如何ほどもつかの」
セスが努めて余裕そうな声をだした。
「稼がないとまずいのはそっちじゃねえの?」
戦士が再び剣を振るう。セスが受け止めるが、軽く押し込まれた。
「殿下!」
ナギサが尻尾を戦士に叩きつける。ナギサの顔がセスのすぐ横に来た。
「私の体の操作をお願いします」
尻尾をかき分けて出てきた戦士に、ナギサが吼えた。剣が振りあがり、ナギサが顔を上げて躱す。セスは戦士に良く見えるように、ナギサの父親の殺生石と母親の爪を沼から取り出した。
「死せる忠臣よ、娘を想いし猛者よ。その魂、我のために今一度働かせたまえ」
「ちっ、ここまでか」
戦士が悪態を付いて距離を取った。
「エイキム! 来い!」
戦士が叫んでいる間にナギサが魔法使いを口の中に加えた。足だけが口から垂れ下がっている。
セスは首輪だけでなく糸を四肢にも巻き付けると、ナギサを動かした。勇者と行き違うようにロルフがいた屋根にナギサが着地する。
「すぐ会える、そうだろ? 仲間の死体がどうなるか分かったものではないしの」
言いたいことだけ言うと、憤る勇者を無視してセスはシルヴェンヌに手を伸ばして彼女を掴み、ナギサを再び跳躍させた。ロルフは尻尾に捕まってよじ登ってきており、ニチーダは糸を伸ばして回収した。
「殿下……私の扱い雑じゃないですか? 泣いてもいいですか?」
「すまぬ」
口では謝りつつも、セスは勇者の攻撃がすぐしたを通っているのに全く反応を見せなかったニチーダにその必要はない気がしてならなかった。
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