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44婚約内定

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家族に祝われるそんな夏休みの領地で過ごす最後の日。
お祖母様は、急にお歳を取られたかのように背中が小さく感じられた。
「大丈夫ですよ、アーシャ。あなたは、王妃教育にも負けない教育を受けてきました。幼い頃から頑張りましたね」
と言った。お祖母様、私、嫁にいく最後の日のような挨拶ではないかしら?
「私、寄宿舎に戻るだけですよ。まだ学園生活ありますし」
その一言にお父様も笑っていた。
この半年でドミルトン家は大変だった。いくら連絡してあったといえ、婦人会の集まりやパーティーでいろんなことを言われただろう。
こういうのは、ルイーゼだけでなく一族全体的なことになると思い知る。

カイル王子様からの婚約申込みは、記入をして国王様に届けた。
まだ婚約内定は発表されてない。
もしかすると突然大反対されるかもしれない。
寄宿舎に向かう馬車は、そんな心配と恥ずかしさと笑ってしまう嬉しさが溢れてしまう。ミリーが
「アーシャ様、何よりです」
と笑っている。

カイル王子様は、学園を辞めて騎士団に入団すると言っていた。学園で学ぶ事は、全てストック国で学び、あちらの騎士団の練習にも参加していた事も含めて騎士学校に転入した。

そして秋も頃合い。
お休みを合わせたカフェでのランチ。
「兄様が国王になった時、降下して王弟として今のお祖父様の領地をもらうことになっている。執務の半分は、同じ王弟としてリオンが引き受ける。私は、兄様の剣だな。カッコいいと思わないか、アーシャ?」
「そうですね。なら騎士団長にならないといけませんね。王弟の騎士団長!響きが良いかも。第二王子って響きより迫力ありますね」
「わぁ~、そんなことは考えてなかったのだけど」
「領地経営は、私興味があるんです。伯爵家には、マークがいるから言い出せなかったんです。もしかして、私も勉強してもいいですか?反対?」
と言えば、カイル王子は笑って、
「私より経営が上手そうだな。だからお祖父様達は、リオンではなく我々に降下して領地を渡されるのかもしれない。アーシャがいるから」
「期待に応えられるよう私は、来年から経営学や執務文官コースに進みますね、ありがとうございますカイル王子様」
と言えば、カイルは急に照れた。
「何ですか?」
「アーシャは、興味がある時は光輝いているよ。思いついた時とかさ。絵を描いている時もだなぁ。いつもはサッと隠れようとしているのに。それが不思議でそれが一番私は嬉しい。アーシャのあの絵が続いていく話、面白いよね」
「本当に?」
「あれって何?ストック国にもないよ。アーシャの考え?」
「うーん、夢で昔見たような感じで、でも一緒懸命で夢中になっていたものを再現したものかな?あれはあれで描きたいものが出るとその場で描きたくなってしまって衝動を抑えるのが大変なのよ」

私達は、少し前の出来事や少し先の予測や期待、興味をとめどなく話した。私は、たいした事でもないミリーに話すような事までカイル王子に話した。
全然会えない分、言葉が止まらなかった。聞いて欲しい、知って欲しいという欲が出てしまった。
何でも笑って聞いてくれる目の前の人が太陽の光があたるたびに眩しく輝いていた。

「今日は、どちらに行かれたんですか?」
とミリーに聞かれて、
「カフェでお昼ご飯よ」
と言えば、ミリーは笑って、
「では、明日には、学園で噂話のネタにされていますね」
と意地悪を言った。

しかし、それは本当で、私に興味がなくても令嬢は昔から恋話が大好きなのだ。

私は、ストック国の留学生で騎士学校に転入している人とお付き合いをしている事になった。

リリアンが寂しげに、
「アーシャ、留学生と付き合うなんて、あなたもストック国に行ってしまうの?」
と何とも可愛い質問が来た。お父様達は、まだキリヤ叔父様に言っていないのかしら?
「うーん、わからないわ」
と答える程度にした。まだ発表されない理由は、フランツ王子が婚約破棄して新しい婚約者が未定だからなのか、理由はわからない。
ドミルトンという悪名を風化させてからの発表なのかしら?

そして私は、ルイーゼに手紙を書こうとペンを取った。自慢したいとかではないのだけど、あれからが気になった。あの質素なお見送り会もルイーゼらしくなかったから。穏やかに過ごせているなら良かっただし、もし文面も高圧的な物でもやっぱりルイーゼねで終わらせられるから。
私自身が安心したい、ただそれだけ。
本当に?
私こそ彼女を隠れ蓑にして好き勝手やってきたじゃないか、ルイーゼが幸せになれる方法だってあったんじゃないか。

随分と私は上から目線になったものだ。

結局知りたいものの上手く手紙を書けなかった。

「エリオン様、ルイーゼ様は、いかがお過ごしですか?」
この言葉を言うのさえ3カ月も経ってしまった。
「相変わらずだと思っているんだけど、友達が出来たようなんだ。定期連絡のメイドの文面によるとルイーゼの周りをくるくる回る令嬢がいるらしい。はじめ邪険に扱っていたらしいが、ある日ルイーゼが声を出して笑っていたそうだ。ルイーゼの態度が変わったらしいよ。良い友達だと報告をもらっている」

私は、複雑な気持ちになった。ちょっとした嫉妬のような、
「それは良かったですね、エリオン様」
と一言言うにとめた。周りの人の影響で人は変わる。ルイーゼの場合、母親だろう。私という存在は、ルイーゼにとって悪影響だったのではないか?
エリオンに聞こうか迷って、勇気が出なかった。私がルイーゼを偏って見ていたからだ。
私という人間の器の小ささに恥ずかしくなって、それと同時にカイル王子に知られたら嫌われてしまうのではないかと思った。
人は、利用するし、される。ずっと私がしてきたこと。

この事は、全てカイル王子に手紙を書いた。私という人間の恥ずかしさと令嬢としても駄目な部分を書いた。
驚いたことは、カイル王子がすぐに現れたことだ。
「大丈夫、私は、アーシャをずっと見てきたから。逆に安心したよ。私の中でアーシャは完璧令嬢だったからね。ルイーゼ嬢に会ったら謝ればいいよ。大丈夫、ずっと私は横にいるから」
その言葉だけで充分だった。
ポロポロと何かが剥がれていく感覚。子供の頃見た夢や記憶が消えて無くなるように私が私を何かでコーティングしていたものが消えていく。
「ありがとうございます」
黙って私を抱きしめ、ずっと背中を摩ってくれた。

その日、私は、その言葉しか言えなかった。

私は、私なりに頑張ろうと決めた。それは、カイル王子に相応しい令嬢になりたいと思ったから。彼が王族である事は間違いないのだから、私が足を引っ張ってはいけない。今のままの私では、彼の横にふさわしくない。
隠れてばかりいたら、きっとカイル王子が泥を被るかもしれない。あの人は優しい人だから、きっと笑って被るだろう。
あの時ガレットさんが言っていた、誇りという言葉が頭に浮かんだ。

気負うことはせずに、頬の筋肉はあげよう。人の話を聞き、考えてから話す。
評判や評価もちゃんと受け止めよう。
誰かのためになんて考えたことはなかった。
これが好きという気持ちか恋の話かはわからない。ただカイル王子の隣に並びたいと思った。私は、彼を支えたい。
領地経営を学び、令嬢の作法も学ぶ。サラやリリアンに協力してもらい、茶会を開いたり、令嬢の輪の大切さを教えてもらった。

コルンさんから、
「アーシャ様、変わられましたね!実をいうと私、ドミルトン家で一番弱そうなアーシャ様から情報や弱味を探っていましたの。でもアーシャ様からいつも何も出なかったですわ。無味無臭な令嬢だと思っていましたの」
と激白された。中々辛辣な言葉だと思ったが、確かに一番弱そうはルイーゼを隠れ蓑にしていた私には、当てはまる。
「その通りですね」
と私が言えば、苦笑して、
「今は、貴族令嬢の鑑って言われておりますよ。アーシャ様の使用したハンカチや靴、髪留め、持ち物全部真似する令嬢がいますの、ご存知ですか?」
「聞かれることがあっても真似されている自覚はありませんでした。コルン様は、本当に視野が広いですわ」
と微笑んだ。クラスメート達も集まり、
「アーシャ様がフランツ王子様の婚約者に内定されるのではと噂されてますのよ。アーシャ様は、ストック国の騎士様とは、いまだにお付き合いをされておりますの?失礼なことを聞いておりますが」
と言われた。あの婚約申込みから一年以上経っていた。まだカイル王子が騎士団に所属していることは、発表されてない。理由はわからないが、エリオンにもお父様にも心配はないと言われているし、何よりカイル王子が、
「大丈夫だ」
と言ってくれた。だから心配はしない。

「いえ、王家からそのような話はありません。私は、一人の方をお慕い申し上げております」
と言えば、悲鳴が上がった。言った直後恥ずかしさが倍増して、火照る頬を冷ますのに時間がかかった。

そしてエリオンの卒業パーティーの準備中、側妃様が病に倒れられ、離宮に隔離されたとエリオンから聞かされた。

その話を聞いた時、きっとガレットさんの仕業だと思った。何があったかは聞かない。ガレットさんは、覚悟を持って王宮に戻った、その結果だから。
王宮の勢力図も変わる。
少しでも私の学友達が過ごしやすい家になればいいな。

私が最終学年になり、生徒会長として新入生を迎え入れた日、第二王子カイルが騎士団に所属していることとアーシャ・ドミルトンと婚約していることが発表された。
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