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青年期~前編~

その答えは……

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 ……玄関ホールの階段から見下ろしてくる彼女の目は冷たい。

 あっちが本性ということだろうか?

 それよりも、今は……!

「アスナ!」

「だ、大丈夫ですよー」

「俺の後ろにいろ」

 抱きあげて、自分の後ろに下ろす。

「あ、ありがとうございます……」

「礼を言うのは俺だ。助かった、今のうちに傷を治しておけ」

「めんどくさいですね。仕留められませんでしたか」

 あのナイフは、俺の心臓をめがけて飛んできた。
 アスナが咄嗟に庇わなければ、危なかっただろう。
 アスナは回復魔法が使えるとはいえ、セレナほどじゃないからな。

「あのタイミングを見計らってたな?」

「ええ、そうです。アレス殿は警戒心も強いし、隙が少ないので。なので、戦闘が終わったところを狙ったんですけど……やっぱり、彼女が弊害になりましたか」

「エミリア! 無視するな! どうしてじゃ!?」

 ダインに押さえつけれたレナが、涙を流して訴えている。

「お嬢様、申し訳ありません。私、こっち側の人間なので」

「い、意味がわからないのじゃ! きっちり説明するのじゃ!」

「えぇー……まあ、簡単に言えばスパイだったってことです」

「お、お主は何十年も前からいるのに……」

「ええ、信用を得るためには必要でしたから。幸い、ロナード様に味方が少ない良い時期を狙いましたし」

「なるほど、誰の命令か知らないが……それで潜入をしてたわけか」

「ええ、そうです。まあ、このタイミングでやる予定は無かったんですけど。いやーめんどくさいですね」

「ずっと……嘘をついていたのか? わ、我を笑っていたのか?」

「お嬢様……そうですね、最後にこれだけは言っておきます。まあ、ふつうに楽しかったです。今までお世話になりました」

「エ、エミリア……! ま、まだ間に合うのじゃ! 今からでも……!」

「お嬢様、申し訳ありません。それは出来ないのです」

「うぅー……」

「レナ、覚悟を決めろ。あの目は、覚悟を決めた者の目だ」

「師匠……!」

「さて……やるとするか。アスナ、いけるな?」

 魔力を貯めつつ、アスナの回復を待っていた。

「ええ、いけます」

「抜かりがないですね……少し感傷に浸っている間に」

「悪く思うなよ、こっちも死ぬわけにはいかないんだ」

 奴の狙いは俺ということは……俺とロナードを殺して、罪をなすりつけるためか?
 ……それとも、ターレスか?  俺を殺すことによって何が起きる?

「ええ、そうでし」

舞い踊る炎蛇ファイアースネーク

 奴が言い終わるまえに、詠唱短縮をして魔法を放つ。

「くっ……! 追尾してくるやつですか!」

 俺の炎蛇から逃げるように、窓を突き破って外へと出て行く。

「逃すか! ダインさん! ここを頼みます! アスナは俺についてこい!」

「「了解です!!」」

「し、師匠……」

 泣いているレナを、一瞬だけ見る。

「レナ……すまない、俺はエミリアを——殺す」

 おそらく、手加減なんかしたら俺がやられる。
 何よりあれほどの手練れが、もし俺の大事な人に向けられたら……。
 今ここで、確実に仕留めておかないと。

「あっ——」

 返事を聞かずに、俺も階段を駆け上がり、窓から飛び出す。

「アスナ、遅れるなよ?」

「ええ、もちろんですよー」

 俺の炎蛇は、まだ生きている。
 もちろん、その間も俺の魔力は減り続けるが……。
 エミリアを見失うよりはマシだろう。






 追って行くうちに都市を出て行き、ひと気のない森へと到着する。

「おびき寄せられましたかね?」

「その可能性は高いな」

「どうします? 引き返しますか?」

「いや……ここは、敢えて誘いに乗ってみよう」

「でも、かなり強いですよ? 何度か模擬戦しましたけど、私では勝てないですねー」

「ああ、俺も見ていたが……本気を出していないだろうしな」

「危険が大き過ぎないですか?」

 ……確かに、勝てるかどうかはわからない。
 だが、アレは流石に知られていないはず。
 しかし、そのためには確実に仕留める必要があるし……。
 アスナに、許可を得る必要がある。

「アスナ、こんな時だが……大事な話がある」

「えっ? ……はい」

「俺は——闇魔法が使える」

「……へっ?」

 アスナは、目を見開いたまま固まっている。
 ……伝えるかずっと悩んではいた。
 しかし、先程庇われたことで決心がついた。
 アレは、演技では無理なタイミングだ。
 命がけで助けようとした彼女に、俺も誠意を示さなくては。

「そ、そうなんですね……だから、なるほど……」

「何か心当たりがあるのか?」

「……学生時代のご主人様を調べている時に、突然消えたりすることがあったんです」

 なるほど、俺が透明化を使用した時か。
 あの時すでに、アスナは俺を調べていたわけか。

「そうか」

「ずっと、貴方を見ていました。時折見せる暗い影……そういうことでしたか」

「あんまり自覚はないんだけどね。さあ、というわけで作戦会議だ。あいつは、俺が使えることは知らない」

「でも……知られるわけにはいかない?」

「正解だ。使うなら——確実に仕留められる時だけ」

「了解です。具体的には?」

 俺は作戦内容を伝える……といっても、シンプルなものだが。

「単純ですけど、効果はありそうですねー」

「ああ、初見であれば通じるはずだ」

「……ちなみに、なんで教えてくれたんです?」

「さっき庇ってくれたろ?」

「ですが、帰ったら他の人に報告するかもですよ?」

「報告する奴は、そんなこと言わないさ。それに、それなら俺の見る目が無かっただけの話だ」

「そ、そうですか……嬉しいです」

「ほら、行くぞ。あんまり遅いと、あっちも動くかもしれない」






 そして移動を開始し……森に囲まれつつも、開けた場所にてエミリアは待っていた。

「なるほど……いつでも、魔法は防げたということか」

「いえ、そうでもありませんよ。ただ遠隔操作は出来ないようなので、そこまでではありませんでしたが」

 炎蛇は目視してないと操作は出来ないとはいえ、れっきとした中級魔法だ。
 それは軽く対処するとは……やはり、侮れないか。

「俺をおびき出すためか?」

「ええ、後々面倒なことになるので。今の追尾で、魔力も減ったでしょうし……まあ、どうにかなるかなと」

「私もいるんですけどねー」

「貴女の手の内は知っているので」

 そうか……それを知るために、アスナに近づいていたのか。

「全部は見せてないですよ?」

「ええ、わかってます」

「お前……ターレスを知っているか?」

「……さあ、どうでしょう」

「……まあ、良い。口を割るようなタイプには見えないし」

 そのまま、数秒間沈黙が流れ……双方、武器を構える。

   俺たち以外誰もいない場所で、戦いが始まろうとしていた。
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