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青年期~前編~
急転直下
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その後、教会からの苦情はきたようだが……。
何とか大ごとにならずに済んだそうだ。
まあ、相手も無断で国境を越えているし……。
いくら大義名分があると言っても、無茶を言ってる自覚はあるのだろう。
しかし……それでも、度がすぎる。
このままでは、何処かで……。
あんなことあったが、概ね平和な時間が過ぎ……。
「そっか、もう九ヶ月か」
そんなことを縁側で考えていると……。
「師匠!」
修行を終えても元気なレナが話しかけてくる。
「うん?」
「どうしたのじゃ!? ぼけっとして!」
「ごめんな、少し考え事してた」
「わ、我が相談に乗ってもいいのじゃぞ!?」
「ありがとね、レナ」
「べ、別に……」
「あらあらー、照れちゃってますね」
その後ろから、アスナもやってくる。
「そんなことないのじゃ!」
「アスナ、その辺で。何か用があるんだろう?」
「ええ、お手紙ですよー」
「おっ、届いたか。じゃあ、ちょっと自主練しててな」
「はいっ!」
元気よく返事をして、庭に出て行く。
うんうん、少し生意気だけど、可愛い弟子だこと。
自室に戻り、手紙を読む。
手紙の往復で1ヶ月はかかるから、そんなに来るものではないが……。
やはり、嬉しいものだな。
「カグラさんに、セレナさん、オルガ君、妹君からですね」
「いつもの面子だね」
それぞれの手紙の内容を確認する。
といってもたわいもない内容だ。
俺の立場は特殊だし、秘密も多い。
書く内容は検分されるので、書けないことも多い。
ほんの日常のことや、元気にやっているということくらいだ。
「それにしても……九ヶ月か」
「早いですねー。慣れてからは特に」
「そうだな。でも、良かったよ。皆も元気そうだし」
「まあ、元気なのがわかってれば良いですよねー。もっと頻繁にやり取りできたら良かったんですけど」
「いや、これくらいで良いさ。便りがないのが良い知らせって言うし」
「えっと……?」
……しまった、これは前世の言葉だ。
……やはり、そろそろ話すべきだろうか?
「アスナ——」
俺が言葉を発しようとした、その瞬間——慌ただしい足音が聞こえる。
「師匠! 大変なの!!」
「レナ? ……何があった?」
部屋に入ってきたレナの顔は真っ青だった。
これは、相当なことが起きたに違いない。
「ち、父上が……! お、お兄様が!」
「落ち着いて、ゆっくりでいい」
優しく頭を撫でる。
「あっ——ち、父上が死んだって……お兄様が殺したって……」
「……穏やかではないね。それは、誰から?」
「えっと……近衛騎士長のアランドルが……」
「そうか……それで、ロナードが下手人だと疑われていると?」
「う、うん……でも、わたしは信じないのじゃ!」
「ああ、俺もそう思う。今の状況は?」
「えっと……アランドルが、これから調べるって」
「エミリアさんは?」
こんな時は、あの人が頼りになるはず。
俺とて戦えば、ただでは済まない相手だ。
「い、いないのじゃ……一緒に捕まったのかな?」
「ふむ……」
「あの人が捕まりますかねー?」
「ロナードを人質にでも取られたか?」
「そ、そうだと思うのじゃ!」
「可能性としては高そうですねー。それで、我々については何か?」
「確か、ここで待機だって……あとで取り調べもするって」
「なるほど、俺達も疑われていると」
「まあ、他国の人間ですからねー」
……さて、どうするのが正解だ?
動いたら、犯人だと言っているようなものだ。
しかし、ロナードを処刑されるのは……後々面倒なことになる。
何より、友を死なせたくない。
「……まずは様子見が正解か」
「そうですねー、情報が少なすぎますし。まだ、処刑されると決まったわけでもなさそうですし」
「それよりも、王太子の動きが気になるな……」
「ライト兄上が王位についたら、国が荒れてしまうのじゃ……」
……やはり、そういった人物なのか。
というか……一番怪しいよな。
「ご主人様」
「ああ、わかってる。その可能性もあることは」
「ま、まさか……ライト兄上が」
「レナ、そこまでだ。まだ憶測の域を出てない」
ただ、誰が一番得をしたかと考えると……一人しかいないが。
モヤモヤした気持ちのまま、一日が過ぎ……。
翌朝、事件は起きた。
「ご主人様!」
朝食を済ませ、使いの者が来るのを待っていた俺たちの耳に……。
外で、人々が争う声が聞こえてきた。
「わかってる! ダインさんも!」
「はいっ!」
三人で玄関まで行くと……。
「お嬢様! お逃げください!」
「そ、そんなこと!」
執事長のセバスさんと守衛達が、入ってこようとする兵士を押しとどめている。
「し、師匠!」
「アレス殿! お逃げください! これは内乱です!」
「内乱?」
「ロナード様を助けようとする一派と、王太子派が争いになっております! こやつらはロナード様への人質のために、レナお嬢様を捕まえにきたのです! そして、貴方は加担したと疑われております!」
……どうする?
他国の皇子である俺が、内乱に首を突っ込むのは国際問題になる。
しかし、このままじっとしていても……俺自身の身がどうなるかはわからない。
そもそも、最初から色々とおかしい。
誰かが仕組んだと言わんばかりの流れ……。
「し、師匠! た——助けて!!」
……良いだろう、流れに乗ってやる。
弟子に助けを求められて、助けない師匠など糞食らえだ。
「アスナ、ダインさん」
「ご主人様の御心のままに」
「俺も同じです。アレス様についていきます!」
「二人共、ありがとう。その気持ちを嬉しく思う」
さあ、そうと決まれば行動あるのみ。
俺は、眼下に広がる兵士達に突撃を仕掛ける。
……できるだけ、殺さないように。
刀を構えて、手足に傷をつけていく。
「ぎゃあ!?」
「ぐはっ!?」
「は、速いぞ!」
縦横無尽に駆け回り、狙いをつけさせないように動く。
「アスナ! 背中は任せた!」
「了解です!」
「ダインさんはレナを!」
「はいっ!」
そして、何とか押し返すことに成功する。
「ふぅ……どうにか、追い払ったか」
「これからどうします? 大人しく捕まっても、悪い予感しかしないですけど」
「同感だ。何か仕組まれる感じがする。とりあえず、ロナードさえ助けることができれば良いはず」
「そうですよねー、そうすれば私達の疑惑も晴れますし」
「だが、これからが」
「ご主人様!」
突然、アスナが俺に覆いかぶさる。
「アスナ!?」
その背中からは血が流れている。
「へ、平気です……」
「な、なぜなのじゃ!? エミリア!! どうして——師匠を狙ったのじゃ!?」
館の中を、レナの声が響き渡る。
その視線の先には、氷のように冷たい顔をしたエミリアさんがいた。
何とか大ごとにならずに済んだそうだ。
まあ、相手も無断で国境を越えているし……。
いくら大義名分があると言っても、無茶を言ってる自覚はあるのだろう。
しかし……それでも、度がすぎる。
このままでは、何処かで……。
あんなことあったが、概ね平和な時間が過ぎ……。
「そっか、もう九ヶ月か」
そんなことを縁側で考えていると……。
「師匠!」
修行を終えても元気なレナが話しかけてくる。
「うん?」
「どうしたのじゃ!? ぼけっとして!」
「ごめんな、少し考え事してた」
「わ、我が相談に乗ってもいいのじゃぞ!?」
「ありがとね、レナ」
「べ、別に……」
「あらあらー、照れちゃってますね」
その後ろから、アスナもやってくる。
「そんなことないのじゃ!」
「アスナ、その辺で。何か用があるんだろう?」
「ええ、お手紙ですよー」
「おっ、届いたか。じゃあ、ちょっと自主練しててな」
「はいっ!」
元気よく返事をして、庭に出て行く。
うんうん、少し生意気だけど、可愛い弟子だこと。
自室に戻り、手紙を読む。
手紙の往復で1ヶ月はかかるから、そんなに来るものではないが……。
やはり、嬉しいものだな。
「カグラさんに、セレナさん、オルガ君、妹君からですね」
「いつもの面子だね」
それぞれの手紙の内容を確認する。
といってもたわいもない内容だ。
俺の立場は特殊だし、秘密も多い。
書く内容は検分されるので、書けないことも多い。
ほんの日常のことや、元気にやっているということくらいだ。
「それにしても……九ヶ月か」
「早いですねー。慣れてからは特に」
「そうだな。でも、良かったよ。皆も元気そうだし」
「まあ、元気なのがわかってれば良いですよねー。もっと頻繁にやり取りできたら良かったんですけど」
「いや、これくらいで良いさ。便りがないのが良い知らせって言うし」
「えっと……?」
……しまった、これは前世の言葉だ。
……やはり、そろそろ話すべきだろうか?
「アスナ——」
俺が言葉を発しようとした、その瞬間——慌ただしい足音が聞こえる。
「師匠! 大変なの!!」
「レナ? ……何があった?」
部屋に入ってきたレナの顔は真っ青だった。
これは、相当なことが起きたに違いない。
「ち、父上が……! お、お兄様が!」
「落ち着いて、ゆっくりでいい」
優しく頭を撫でる。
「あっ——ち、父上が死んだって……お兄様が殺したって……」
「……穏やかではないね。それは、誰から?」
「えっと……近衛騎士長のアランドルが……」
「そうか……それで、ロナードが下手人だと疑われていると?」
「う、うん……でも、わたしは信じないのじゃ!」
「ああ、俺もそう思う。今の状況は?」
「えっと……アランドルが、これから調べるって」
「エミリアさんは?」
こんな時は、あの人が頼りになるはず。
俺とて戦えば、ただでは済まない相手だ。
「い、いないのじゃ……一緒に捕まったのかな?」
「ふむ……」
「あの人が捕まりますかねー?」
「ロナードを人質にでも取られたか?」
「そ、そうだと思うのじゃ!」
「可能性としては高そうですねー。それで、我々については何か?」
「確か、ここで待機だって……あとで取り調べもするって」
「なるほど、俺達も疑われていると」
「まあ、他国の人間ですからねー」
……さて、どうするのが正解だ?
動いたら、犯人だと言っているようなものだ。
しかし、ロナードを処刑されるのは……後々面倒なことになる。
何より、友を死なせたくない。
「……まずは様子見が正解か」
「そうですねー、情報が少なすぎますし。まだ、処刑されると決まったわけでもなさそうですし」
「それよりも、王太子の動きが気になるな……」
「ライト兄上が王位についたら、国が荒れてしまうのじゃ……」
……やはり、そういった人物なのか。
というか……一番怪しいよな。
「ご主人様」
「ああ、わかってる。その可能性もあることは」
「ま、まさか……ライト兄上が」
「レナ、そこまでだ。まだ憶測の域を出てない」
ただ、誰が一番得をしたかと考えると……一人しかいないが。
モヤモヤした気持ちのまま、一日が過ぎ……。
翌朝、事件は起きた。
「ご主人様!」
朝食を済ませ、使いの者が来るのを待っていた俺たちの耳に……。
外で、人々が争う声が聞こえてきた。
「わかってる! ダインさんも!」
「はいっ!」
三人で玄関まで行くと……。
「お嬢様! お逃げください!」
「そ、そんなこと!」
執事長のセバスさんと守衛達が、入ってこようとする兵士を押しとどめている。
「し、師匠!」
「アレス殿! お逃げください! これは内乱です!」
「内乱?」
「ロナード様を助けようとする一派と、王太子派が争いになっております! こやつらはロナード様への人質のために、レナお嬢様を捕まえにきたのです! そして、貴方は加担したと疑われております!」
……どうする?
他国の皇子である俺が、内乱に首を突っ込むのは国際問題になる。
しかし、このままじっとしていても……俺自身の身がどうなるかはわからない。
そもそも、最初から色々とおかしい。
誰かが仕組んだと言わんばかりの流れ……。
「し、師匠! た——助けて!!」
……良いだろう、流れに乗ってやる。
弟子に助けを求められて、助けない師匠など糞食らえだ。
「アスナ、ダインさん」
「ご主人様の御心のままに」
「俺も同じです。アレス様についていきます!」
「二人共、ありがとう。その気持ちを嬉しく思う」
さあ、そうと決まれば行動あるのみ。
俺は、眼下に広がる兵士達に突撃を仕掛ける。
……できるだけ、殺さないように。
刀を構えて、手足に傷をつけていく。
「ぎゃあ!?」
「ぐはっ!?」
「は、速いぞ!」
縦横無尽に駆け回り、狙いをつけさせないように動く。
「アスナ! 背中は任せた!」
「了解です!」
「ダインさんはレナを!」
「はいっ!」
そして、何とか押し返すことに成功する。
「ふぅ……どうにか、追い払ったか」
「これからどうします? 大人しく捕まっても、悪い予感しかしないですけど」
「同感だ。何か仕組まれる感じがする。とりあえず、ロナードさえ助けることができれば良いはず」
「そうですよねー、そうすれば私達の疑惑も晴れますし」
「だが、これからが」
「ご主人様!」
突然、アスナが俺に覆いかぶさる。
「アスナ!?」
その背中からは血が流れている。
「へ、平気です……」
「な、なぜなのじゃ!? エミリア!! どうして——師匠を狙ったのじゃ!?」
館の中を、レナの声が響き渡る。
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