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それぞれの種族

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 ……はぁ、まさか女の子だったなんて。

 男が女の子をいじめるわけないって思い込んでたや。

 少なくとも、俺はそう言われて育ったし。

 もちろん、戦いとなれば話は別だけど。

   真剣勝負には、男も女も関係ないからね。

「あ、あの……僕、女の子じゃだめでした? ずっと落ち込んでますけど……」

「えっ? いや、そんなことはないよ。ごめんね、気を悪くしないで」

「う、ううん、僕の方こそ言わなかったから」

「言わなくてもわかりますよー。えへへ、ユウマさんって案外抜けてるんですね?」

「はは……面目ない」

 そして、三人で食堂に入る。
 寮と一緒で受付で並んで、こちらは好きなメニューを選ぶ形だ。
 揚げ物から麺類まで様々だ。

「あわわっ、メニューがたくさんですぅ!」

「えっと、獣人だと肉系かな?」

「はいっ! お肉好きです!」

 獣人は基本的に野菜を食べない。
 人族とは違い、それを摂取する必要な身体ではないらしい。
 姿形は似てるけど、魔力の代わりに闘気を持ってるし、その生態はまるで違っている。
 基本的に森のなかで暮らすし、自給自足で狩りを生業として生きてるとか。
 それもあって、野蛮とか言われて差別が起きたりするのだろう。

「んじゃ、好きなの頼むといいよ」

「ぼ、僕なんかが良いんですか?」

「当たり前だよ、生徒なんだから。君はきちんと試験を受かってここにいるんだから」

「で、でも……」

「まあまあ、まずは頼みましょ? 後ろに人もいますから」

「う、うんっ」

 少しカレンがお姉さんっぽくて、可笑しかったのは内緒だ。
 やっぱり、面倒見がいい子なんだなって思う。



 適当にメニューを決めたら、四人掛けのテーブル席に着く。
 俺とカレンはトマトパスタ、アルトはピッグスのステーキだ。
 畑を荒らしたり人に突進したりする魔獣で、もっとも出回ってるお肉の一つだ。
 強さもそこそこで、冒険者達のいい稼ぎになるとか。

「うん、美味しい。トマトとナスがよく合うや」

「えへへ、そうですね」

「お肉美味しいですっ! あの、それってパスタっていうんですか?」

「そうだよ。ああ、獣人とドワーフの国にはないよね。基本的に、肉か酒かって話だし」

 獣人とドワーフの国ドレイク、その歴史は複雑だ。
 魔王を倒した後、今度はそれぞれの種族で争いになった。
 そして人数で勝る人族は、他種族を追いやっていったらしい。
 最終的に大陸の東南の果てに追いやられ、そこでドワーフ族と獣人族が協力して国を作ったとか。
 なので、彼らは人族が嫌いなのだろう……当然の話だね。

「そうなんです! だからこっちにきてびっくりしちゃって……狩りにも行ってないのに、ご飯が出てくるなんて。しかも、無料で良いとか」

「試験に受かった時点で、君たちの国から学費等は支払われてるしね」

「アルトさん、ドレイクはどんな場所なの?」

「えっと……こっちみたいに大きな建物はなくて、平屋の家が多いです。あとは屋台とか多いし、いつもざわざわしてます。僕はあれですけど、獣人やドワーフは声が大きいので」

 その話を聞いて納得する。
 俺の知るライカさんも声がでかい。
 同じクラスのレオン君もそうだし、アルトが少数派なのかもしれない。

「あとは海があるよね?」

「あっ、知ってるのですか?」

「まあ、獣人の知人がいるからさ」

「海……わたし、見たことありません」

「まあ、見たことない人がほとんどだと思うよ」

 何せ、この大陸には海に面してる国は
 森や川はあるけど、高い山々や砂漠に包まれる場所が多い。
 海に面しているのは南西にあるアスカロン教会か、南にあるドレイクだけだし。
 教会は遠すぎるし、基本的に信者以外は国に入れないし。
 ドレイクは人族を嫌ってるので、そうなると我が国で見たことある人は限られる。

「どんなところなのでしょう? いつか、見てみたいです」

「うーん、使節団としていくか、お偉いさんの許可があればいけるかな。

「すみません、ちょっと難しいです。ただ、いずれはできるかなって。こうして僕たちも、この国に来れたので」

「それも、今の国王陛下になってからの政策だよね。それこそ、平民や獣人を学園に入れ始めたのも」

 名君と言われるアドラス国王陛下は、ドレイクとの関係修復を始めた人だ。
 そのおかげで、少しずつ我が国との関係性は変わってきている。
 無論、まだまだしこりは沢山残ってるけどね。

「はいっ、なので仲良くなれたら良いなって。こっちにきて、友達とかできたらって思ってました」

「じゃあ、成功だね。早くも友達がいるがいるじゃないか……ここにね」

「えへへ、貴族と平民と獣人と勢ぞろいです。アルトさん、よろしくお願いしますね?」

「ユウマ君、カレンさん……はいっ、よろしくです!」

 すると、後ろからわざとらしく声が聞こえてくる。

「おいおい、獣人と元平民と田舎貴族が仲良くしてるぜ」

「はっ、お似合いってやつだな。あーあ、庶民くさいし獣臭くて嫌になる」

「あぅぅ……」

「あ、あなたたち……ユウマさん?」

 俺はカレンが立ち上がるのを手で制す。
 ここで騒ぎを起こすと、色々と面倒なことになる。
 ここは、平和的に解決するとしよう。

「……地面よ、凍れ」

「いてぇ!?」

「何やって——あたっ!?」

 俺が設置した氷の床により、彼らが勢いよく尻餅をつく。
 もちろん、バレないようにすぐに解除する。

「何やってんだ、ダセー」

「何もないところでこけてやんの」

「う、うるせえ!」

「は、早く行こうぜ」

 大勢の前で転んだ彼らは、慌ててその場を去っていった。
 うんうん、平和的解決ってやつだ。
 無論……もっと直接的だったら、こっちにも考えがあるけどね。

「あ、あれ? 何もないとこで転んじゃった」

「ユウマさん?」

「俺は何もしてないよ」

 すると、コツコツと足音が聞こえてくる。
 振り返ると、そこにはミレーユさんがいた。
 相変わらず美人で、思わず身惚れそうになる。

「ふふ、相変わらず使い方が上手いな」

「なんのことです? いやー、危ないですね」

「まあ、いい。あれくらいなら可愛いものだ。さて、私も一緒でもいいか?」

「「はいっ!!」」

 二人がガチガチになりながら返事をする。

「そんなに硬くなることはない。こうして私と一緒に食事をすれば、少しは手助けになると思ってな」

「あっ……お気遣いありがとうございます」

「えっと、何がなんだが……」

 ……なるほど、そのために来たのか。
 平和的で、一番簡単な方法かもしれない。
 これでも何かいうやつには、容赦しなくていいかな。

「アルト、この方は王族を除けば頂点にいる方だ。その方が、君のために一緒に食事を取ってくれるってさ。そうすれば、表立ってうるさいこと言う人も減るよ」

「あっ、そういう……あ、ありがとうございます!」

「いや、気にすることはない。一応、私は生徒会長だしな。全く、困ったものだよ」

「そんなこと言ってますけど、生徒会長じゃなくても同じことしてたかと。ミレーユさん、優しい人ですから」

 なんだかんだで、俺の面倒も見てくれたし。
 今だって、俺が何もしなければ自分で注意したに違いない。

「~!? わ、私を優しい? 生意気だとか、女らしくないと言われてきた私を……」

「はい、優しい先輩ですよ。きっと、そいつらは見る目がないですね」

「まったく、君って男は……だが、悪くないものだな」

「えへへ、ユウマさんらしいですね」

「うんうん、ほんとに」

 あれ? 今更気づいたけど……四人席のテーブルに、女の子三人に男が一人。

 気がつけば、違う意味で男子からの視線を感じる気がする。

 ……早く男友達を作らねば孤立してしまうかもしれない。





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