上 下
9 / 54

カレン

しおりを挟む
本当に女の子って柔らかいんだなぁ……最近、こればっかり言ってるな。

いかんいかん、師匠達に怒られるわ。

そんな煩悩を振り払いつつ、屋根を飛び移っていく。

「わわっ? す、すごいです! 空を飛んでます!」

「はは、大袈裟だよ。これは飛び跳ねてるだけだし」

「そ、そんなことないです! だって空中で滞空時間が……」

「まあ、空気を踏んで飛んではいるかな」

「……空気を踏むですか?」

「あれ? わからない? ……まあ、風魔法の一種だと思ってくれれば良いさ」

魔法の師匠であるエリスが言っていた。
俺たちの周りには目には見えない空気というものが存在すると。
風魔法を駆使することによって空気を集めて、それを足場にして飛ぶことができる。
といっても、俺くらいだと飛び跳ねるくらいが清々だ。
エリスなら、文字通り空を飛んでいるし。

「は、はぁ……すごい方なんですね」

「いやいや、ただの田舎者ですよ。さて……あの辺りでいいか」

ひと気がなく、それでいて人通りの近い場所に降りる。
そして、ようやく女の子を解放する。

「ふぅ、ここまでくれば平気かな」

「は、はい! 今回は本当にありがとうございました! あの、わたしの名前はカレン-エルランと申します。よろしければ、お名前を教えてください」

「カレンさんね。申し遅れましたが、俺の名前はユウマ-バルムンクといいます」

「き、貴族の方でしたのですね! 失礼しました!」

すると、カレンさんが両手を使ってアワアワしている。
失礼かもれないけど、その姿はとっても可愛らしい。
容姿はそこまで子供っぽくないけど、守ってあげたくなる感じ。

「ん? 君も名字があるから貴族だよね?」

「わ、わたしは少し特殊でして……養子なのです。元々孤児院にいたところを、とある方に引き取ってもらって……」

「ああ、そういうことね」

おそらく、何かしらの才能があって引き取られたのだろう。
そういう話は聞いたことがある。
才能ある者を埋もれさせないために、子供のいない貴族が引き取るとか。

「……あの、それだけですか?」

「はい? なんの話?」

「い、いえ! ……その、養子だから貴族じゃないとか、孤児のくせにとか」

「何それ? 別に良いんじゃない? 何か才能があって引き取られたわけだし。それに個人的には貴族かどうかなんて関係ないかな。無論、それは否定しないけど……要は何をするかだと思うし」

「何をするか……」

「君はせっかく、その才能と機会を得たわけだし。だったら、遠慮せずに自分のしたいようにやったらいいと思う」

俺自身もそうだった。
早くに母を亡くし、父親はほとんど家にいない。
不貞腐れたり辛いこともあったけど、自分にはやれることがあった。
新しくできた弟や妹、自分の家族である領民達を守るという使命が。
だから父上に頼んで、師匠を用意してもらったし。

「わたしのしたいこと……小さい頃からの夢があって、わたしみたいな子供を減らしたいって。孤児院に行ったとしても、ちゃんと生活できるように。何からしたらいいのか、まだわからないですけど」

「一個ずつでいいんじゃないかな? 例えば寄付だったり、自分が有名になることで夢を与えたりさ」

「寄付はやろうと思っていましたけど……夢を与えるですか?」

「うん。何でもいいんだよ。良い成績をとったり、冒険者で一流になったり、商売で成り上がったり……自分でもやれるんだってところを見せれば、その子達の励みになるのかなって」

「あっ……確かに、そうですね」

「ごめんね、偉そうなこと言って」

「い、いえ! 物凄く参考になりました!ありがとうございます!」

「それなら良かったよ。おっと、日が暮れてきちゃった」

すると、向こうから声がしてくる。
どうやら、この子の名前を呼んでいるみたいだ。

「あっ、わたしの護衛の方々です」

「おっ、それなら安心だ。それじゃ、俺は行くね」

「えっ? あ、あの、お礼とかしたいのですが!」

「いやいや、そういうつもりで助けたわけじゃないし。では、またどこかであったらよろしくねー」

色々と聞かれると面倒なので、俺は急いでその場を離れる。

というか、早くいかないと泊まる場所がなくなっちゃうよぉ~!






……行っちゃいました。

まだ、なんのお礼もできてないのに。

絵本のヒーローみたいに颯爽と現れて、見返り求めずに去っていく……そんな人が、実際にいるんだ。

……な、なんだろ? ドキドキしてきちゃった。

「これはアレでそれで、お姫様抱っこされたからで……あぅぅ……思い出しちゃった」

「カレン様! ご無事ですか!?」

「はい、平気です。心配をかけてごめんなさい」

「いえ、ご無事なら良いです。何やら、話しかけてる男がいましたが……」

「王都が初めてらしいので、場所を教えてました」

「そうでしたか。しかし、勝手に動かれては困ります。貴女様は、光魔法の才能を持つ稀有な方なのですから」

「……はい、わかってます。でも、もう大丈夫です。さあ、屋敷に帰りましょう」

わたしは貴重な才能を持つ者として、半年前にいきなり貴族の養子になった。

どうしていいのかわからず、ずっと迷ってきた。

でも、彼のおかげで少し吹っ切れた気がする。

わたしは、わたしのしたいように……自分と同じ境遇の方々や、自分の力を必要としてる人達のために頑張ろう。

ユウマさん……また、何処かで会えるといいなぁ。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...