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出発

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……イテテ、身体中がきしむ。

痛む身体に鞭を打ち、どうにか起き上がる。

「ったく、これも昨日の鍛錬のせいだ。あの二人と同時に稽古とか死んじゃうし」

「生きてるから良いのでは?」

「わぁ!? あ、相変わらず気配もなく入ってこないでよ」

すでに部屋の中には、エリスがいてリュックに荷物を詰めていた。

「これくらい気づかないとはまだまだですね。それでは、暗殺者に狙われた時に対応できませんよ?」

「いやいや、そもそも襲われないから」

「これからは襲われる可能性もあるでしょう。あっちでは、そういったこともありますし」

「……へっ? そうなの? 王都ってそんなに危ないの?」

暗殺が日常的に行われてるとか怖いんですけど。
……どうしよう、行くの嫌になってきたな。

「いえ、普通にしてれば平気ですよ」

「あっ、そうなんだ? じゃあ、俺は平気だね」

「……そうですね」

「んじゃ、ご飯を食べていくとしますか」

気持ちを切り替え、俺は食堂に向かう。
そして、昨日と同じように父上と一緒に食事をとる。
ちなみに妹や弟、継母は違う場所で食べている。
仲が悪いわけではなく、二人が萎縮して食事が進まないからだ。

「さて、食事が済んだら出発してもらう……お前には護衛はいらんか」

「いや、一応跡取り息子なんだけど? まあ……正直、この辺りに出てくる魔物や魔獣なら問題ないかな」

「そんなやわな鍛え方はしとらんからな。むしろ、お前は護衛に回ってくれ」

「はい? どういうこと?」

「下にあるミルディン領があるじゃろ?」

ミルディン領……確か、ミルディン侯爵家が治める領地だったはず。
うちとは良好で、俺も小さい頃はよく遊びに連れてってもらった。
流石に、ここ数年はいってないけど。

「うん、あるね」

「そこの子供も、同じく王都に通うことになったらしい」

「へぇ、そうなんだ? 確かに同じ年くらいの男の子と遊んだ記憶があるかな」

十歳くらいまでは遊んでたかな?
今思うと、あれが幼馴染ってやつかも。

「……う、うむ、そうであろう。その子の護衛も兼ねていくと良い」

「ん?  騎士の護衛とかは?」

「それもいるが、その子も同い年のお主がいた方が安心できると」

「ああ、そういうこと。ええ、わかりました。俺自身も心細いですし、そうすることにします」

「よし、決まりじゃな。では、後のことは任せる。お主の好きなようにやると良い……英雄バルムンク家の血を引く者として、己の行いに責任と誇りを持って」

「……はっ、かしこまりました。その名に恥じないように、王都にて研鑽を積んで参ります」

流石に、その言葉には真面目に返す。
バルムンク家は国境を越えてくる敵国を退けた英雄にして、ドラゴン殺しの英雄でもある。
それを先祖代々から積み上げてきた。
俺も、その名に恥じないようにしないとね。



準備を済ませたら、門の前で見送られる。

あんまり大げさなのは嫌なので、妹と弟、師匠の二人だけにしてもらった。

その他の人達には、すでに別れは済んでいる。

「お兄様……い、いってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる。泣かなくてえらいな?」

「わたしが泣くと、お兄様が出ていけないって……」

「そうかそうか、良い子だ。長期休暇になったら帰ってくるから待ってなさい」

「うんっ! まってりゅ!」

最後にマリアの頭を撫で、頼りになる弟に向き合う。

「ルーク、みんなのことは頼んだよ?」

「はい兄上! 僕がいるので大丈夫です!」

「頼りになる弟を持って助かるよ。師匠達も、みんなのことを頼みます」

「ええ、お任せください。王都の連中にはお気をつけて」

「はん、しっかりやってこい。私の名前に恥をかかせたら承知しねぇ」

「はは……わかりました。それでは行って来ます!」

いつまでも話していたくなっちゃうので、区切りをつけて駆け出す。
後ろからマリアとルークの声を背にして、街道を走っていく。

「なんだかんだで領地を出るのは久々だね。師匠達との修行とか、他国との小競り合いもあったし。ミルディン領に行くのも五年ぶりくらいかな?」

それまではよく遊びに行っていたけど、何故かいきなり行けなくなってしまった。
俺が何かしたのかなと思ったけど……父上には、なんか曖昧な顔をされたのを覚えている。

「まあ、実際に会った時に聞けば良いか」

足に風をまとい、馬を超える速さで進んでいく。

……さてさて、どんなことが待ってるか楽しみだ。
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