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四章

姉上ではなく姉さん

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 ……あれ? 何か柔らかい?

 いつもの違う感触に戸惑いつつも、目を開けると……目の前には綺麗なお姉さんがいた。

「うえっ!? ……って姉上かぁ」

「……ん、おはよ」

 俺を自分の胸に埋めて、抱き枕にしていたカルラ姉上が目を覚ます。
 ボケーっとした目をこすり、大きく伸びをする。
 というか、姉とはいえネグリジェなので目に毒ですね!

「おはようございます。結局、あのまま寝ちゃったのか」

「ふふ、素晴らしい夜だったわ。クレスと抱き合って寝るなんて」

「姉上、何か誤解を招く言い方ですね……というか、いつの間に」

「だって一緒に寝ていいって言った。クレスが帰ってこないから、こっそり忍び込んで添い寝したのよ」

「あぁー、そういえば昨日の記憶が……」

 姉上が襲撃してきた後は、事故処理が大変だった。
 住民達に紹介したり、逆に姉上にこちらの仲間を紹介したりと。
 気がつけば夜になって、クタクタになって部屋に帰ったら……朝まで寝てしまったらしい。

「ふふ、寝顔が可愛かった。小さい頃、覗いていた時と同じように」

「うん、そこは普通に入って眺めようね!」

 寝る時に、たまに視線を感じたのは姉上だったのかな?
 ……いや、怖いから考えるのはやめておこうっと。

「クレスは朝から元気いっぱい」

「いや、全然元気じゃないです。基本的に、俺は朝は弱いんですから」

「そういえば、いつもお寝坊さんだったわ。クオンが起こすのに苦労してた」

「はは……」

 その光景は、俺の日常だ。
 もう怖いので、何をいつから見ていたとは聞かないでおこう。
 すると、ノックの音がする。
 俺が返事をすると、クオンが部屋に入ってくる。

「主人殿、カルラ様、おはようございます」

「うん、おはよう」

「ん、おはよ」

「どうやら、よく寝れたご様子ですね。朝ごはんの準備ができたので、着替えをしていきましょう」

 すると、カルラ姉上が無言でネグリジェを脱ごうとする!

「待って! ここで脱がないでぇぇ!」

「むっ、なぜ?」

「なぜも何もないですよ! とにかく、自分の部屋で着替え……そもそも、この格好で俺の部屋に?」

「流石に上着は着てきた」

「それじゃ、それを着て姉上は自分の部屋に帰ってください」

 そう言うと、姉上が不満げに頬を膨らませる。
 もしかして、少し言い過ぎたかな?
 俺は一応、末っ子な訳だし……。

「な、なんですか?」

「姉上は堅苦しくてなんか嫌」

「はい? ……どういうことです?」

「お姉ちゃんって呼んでほしい」

「お姉ちゃん……いや、それは……」

 流石にもう、そんな歳ではない。
 そもそも、前世の記憶ではおっさんな訳で。
 クオンに助けを求めると『頑張って!』と目線で言われた。

「あぁー……姉さんで勘弁してもらえますかね?」

「ん……それでいい」

「ほっ、それでは……カルラ姉さん」

「ふふ、良い響き……じゃあ、自分の部屋で着替えてくる」

 そう言い、上着を着てご機嫌な様子で部屋から出て行った。
 そして俺のクオンの視線が交わり、少しの時間が経過し……俺は息を吐く。

「ふぅ、緊張した」

「ええ、よく頑張りましたね」

「ほんとだよ。あまりにギャップがありすぎて、何が何だかわからないし」

「ですが、あちらが本来の姿なのかもしれないですね。いつも無表情で、何を考えているのかわかりませんでしたが……出て行くときの顔は、微笑んでいましたから」

 俺には背を向けていたので見えなかったが、どうやら姉さんは笑っていたらしい。
 だったら、恥ずかしい思いをした甲斐があったかな。

「そっか、なら良かった」

「もしかしたら、国王陛下やロナード様も……いえ、すみません」

「ううん、気にしないで。確かに、ちゃんと向き合ってこなかったから。そうだね……機会があったら、少し話してみようかな」

 今回のこともそうだけど、辺境にきて様々な人達と話してわかった。

 やっぱり、その人のことをきちんと知るには話さないといけないんだって。

 それで傷つくこともあるかもしれないけど……それでも、勇気を出してみないとね。






~あとがき~

投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

二月に流行りのコロにかかり、治った後もそれによって詰まった仕事をしておりました。

これよりは適度に更新をしていくので、引き続きよろしくお願いいたします🙇‍♂️







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