主婦、王になる?

鷲野ユキ

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今のわたしを

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その日の陽子は朝からひどく上機嫌だった。
世の多くの人々が憂鬱な気分で目覚める月曜。そんな日に鼻歌まじりに味噌汁を作る彼女の姿は、どうにもこの家の住人らに疑いの念を抱かせてしまったようだった。
「おい、そんなに仕事に行くのが楽しみなのか?」
ならば俺と代わってくれよ、そうでも言いそうな不機嫌さで夫の良一が陽子に問えば、「どうせ男でも出来たんだろ」と義母が箸で彼女を指しながら厭味ったらしい目つきで睨んでくる。
「そんなことするわけないじゃん、母さんが」
そこにフォローに入るのは息子の勇樹。結婚したことを後悔しているものの、それでもこの子を得られたのは良かった。陽子は自分を庇う息子にそう思わずはいられない。よくもまあ、私とあの人の子供がここまでできた子になるとは。それはもしかしたら、王の血が彼にも流れているからかもしれなかったが。
だがここまでは想定内だ。いかに出来た息子が後押ししてくれようとも、夫らが自分の意のように動かない陽子を快く思うはずがないのだ。だから彼女は権威を借りることにした。最近話題の、過去の優秀な人種の権威を。
「だって、お義母様と良一さんの生れ育ったこの場所で発見された偉大な遺跡ですよ。その発掘に携われるなんて、なんて名誉なことじゃありませんか。なんでも、ここで発見された浜北人はとても賢かったんでしょう?ということは、お義母様方の素晴らしさのルーツを探ることにもなりますでしょう」
「そりゃあ、まあ。あたしは先祖代々ここ浜北に住んどるからね、あたしのご先祖様もそのネアンなんとかっていう頭のいい人種に決まってる」
「そうでしょう?だってお義母様は歌にダンスになんでもできるじゃありませんか」
「まあ、子供の頃から得意だったね。良一もあたしに似て賢くて、今じゃ大企業の部長様だ」
その部長様は所詮しがない万年中間管理職なんだけど。陽子は内心そう思いつつもことさら大仰に夫を褒め称えておく。
「そうでしょう、良一さんのお陰でわたしは生きていけるんです。それにひきかえわたしなんて……せめて、その痕跡をなぞることぐらいしか」
「ふん、まあいい心がけじゃないの。楠木家に嫁げたことをありがたく思いながら励むんだね」
「はい、ありがとうございます」
「ちょ、母さん、そんな卑屈にならなくても」
そういさめる勇樹に、陽子はこっそりとウィンクを送っておいた。大丈夫、そのうちあなたもわかるわよ。本当に選ばれし人間は誰だったかを。
王としての記憶を徐々に取り戻しつつある陽子だが、どんなに見つめても夫と義母には碓井や勇樹に覚えた懐かしさは感じなかった。さしもの王とて民すべてを知っていたわけでもないだろうが、けれど民は王の子だ。たとえ過去で会ったことがなかろうともわかるだろう、そんな確信めいたものが陽子にはあった。
つまり彼らは自身が選ばれた者だと思い込みたい憐れなヒトなだけだった。そんなやつらの思い通りになどなってやるものか。
無気力に生きてきた陽子の胸に、熱い炎が芽生えた気がした。

指示された場所に陽子が向かえば、そこは人、人、人の海だった。
ボコボコと空いた穴に、それぞれ人がわさわさと詰め込まれている。
まるでたこ焼き器みたい。これじゃあ身動きとれなくて発掘どころじゃないのでは。そう思うほどに。
けれどこの人混みの中から碓井を見つけなければ。電話をすれば良かったのかもしれないが、話を聞く限り彼は重要なポジションにいるはずだ。なにせ彼こそがこのプロジェクトの第一人者なのだから。現場の指揮を取ったり、発掘物に対して考察をしたり。たぶん、そんなことをしているのだろう。向こうは教授様だもの。なんのとりえのない主婦のわたしと違って。
そう考えたら心細くなってきてしまった。向こうはわたしのことを王と言って慕ってくれているようだけど、でも本当はその王がこんな何もない女でがっかりしてるんじゃなかろうか。そんな憂いを浮かべて人の波を呆然と眺めていた陽子のもとに、あの少し陽に焼けた、爽やかな笑みをたたえた青年がやってきた。相変わらず似合わない丸メガネに髭面のあの人。
「フュオン王……あ、すみません、陽子さん!わざわざお越しいただいてありがとうございます!」
まるで主人に駆け寄る犬さながらに、大きな声で呼びかけながら人ごみをかき分けやってきたのは碓井だった。その声に作業していた人々が反応しこちらを見るものだから陽子は少し居心地が悪かった。何者だろう、あのオバサン。そう思われてやしないだろうか。
けれども一方陽子はひどく気分が良かった。どうやらわたしの心配は杞憂だったみたい。ほら、この人はきっと、わたしがどこにいても必ず見つけてくれるのだ。たとえわたしがどんな姿でも。記憶を取り戻したわたしを見つけてくれたように。
そう思うと何とも言えない温かさが陽子の胸にこみ上げてきた。かつて王だった時のわたしがしたように、あの人をこの胸に抱くことが出来たならば。
そこまで思いあげて、けれど彼女は落ち着きを取り戻す。やだ、何考えてるのわたし。そんな少女マンガみたいな展開、こんな大勢の人の前で出来るわけない。まして相手は著名人。その人にそんなことしようものなら、あっという間に夫と義母の耳に入るに違いない!
それに、あの人を追いかけてきたのは誰かしら。陽子は目線を碓井の後ろの二人に向けた。彼のその後ろには、ひょろっとして白い男の人と、黒髪の美人の女の子がぜいぜい言いながらついてきている。もしかしたらあの人たちも覚醒者なのかもしれない。期待を胸に陽子が三人に歩み寄れば、
「先生、ちょっと……落ち着いてください、あまり目立つようなことは」
「そうだ、こんな人ゴミん中いきなりダッシュとか勘弁してくれ……」
と後から来た二人が息も絶え絶えに碓井に懇願している。
「あの、碓井先生。先日は申し訳ありませんでした。その、あの日の朝に目覚めたばかりで、自分でもあまり信じられなくって」
だがとりあえずは謝罪だ。せっかく彼女を求めてくれた碓井に対し、陽子はその非礼を詫びた。
「いえ、そう思うのもごもっともです。こちらこそいきなり伺ってしまい申し訳ありませんでした」
それに対し碓井が深く頭を下げる。
「でも、あれからいろいろ思い出したんです。確かにここに、シャンポリオンという国があったことを」
そこまで言って陽子は碓井の後ろの二人を見やった。先生、すっごい美人なんだよね。息子のセリフが蘇る。なぜだか重そうなカメラを肩にかけているこの女の子がもしかして?
「あなたが粕川さん?勇樹から聞いたの。バイトの人手が足りないって」
「あ、はい、栄光義塾で担当させていただいております、粕川です」
先まで碓井に文句を垂れていた姿はどこへやら。すっと背筋を伸ばし、陽子の瞳を見つめつつ丁寧に自己紹介する彼女の姿は、昔にみた誰かを彷彿とさせた。その意志の強そうな黒い瞳。国を導く偉大な存在。
「あなた……どこかで会ったことあるかしら?」
「たぶん、大昔に」
「ええと、シャンポリオンで?」
「たぶん。私はカスティリオーネって名前の、予言者だったそうです」
その名を聞いて、まるで何かの引き金を引かれたかのように陽子は思いだした。カスティリオーネ!自身の分身といってもいいほどの存在だ、なぜその彼女を今まで忘れてしまっていたのだろう。
「ああ、カスティリオーネ!」
まるで久しぶりに会う旧友に会ったかのような、喜びを含ませて陽子が叫んだ。
「ええ、よく覚えておいていただけました」
驚く粕川になぜか碓井は自慢げに、
「ほらな、陽子さんが王で決まりだろ」と嬉しそうに腕を組んではうなずいている。
だが後の一人は誰だろう。困惑している陽子に気が付いたのか、その細い男が自ら名乗りを挙げてきた。
「あ、俺は地質学者の唐澤です。……シャンポリオンではただの平民だったので、フュオンティヌス王はご存じないかもしれませんが」
と少し伏し目がちに言う男に、陽子は過去の誰かを思い出すことはできなかったが、
「カラシャールって名前だったそうです。こいつ、私の幼馴染でしてね、一緒に私の見る夢を追いかけてくれてたんですが、ちょうど王が目覚めた頃にこいつも覚醒したらしくて」とあまりに碓井が嬉しそうに言うものだから、単に自分が思い出せていないだけなのだろう、と考えることにした。
「でもよかったです、他にも覚醒者がいて。自分一人だったら何を馬鹿な空想を、と思いましたけど、皆さんもそうなら安心です」
結婚してからというもの、心を許せる相手もいなかった。故郷ははるか遠く、上京してからの学生仲間もそれぞれ華々しい道を歩いており、自分とは違う遠い存在だった。ママ友も変に気を遣うばかりで一緒にいて疲れるだけだったし、家族は論外だ。
その自分が、はじめて同士に出会えた。共通の過去をもつ、選ばれし人々。その頂点に立つのが自分なのだ。陽子は初めて自分のいるべき居場所を見つけた気がした。
「ではみなさん、かつての王国の再建を祈って、発掘作業に勤しみましょう」
碓井の掛け声とともに彼らの作業が始まった。正直、遺跡を見つけたくらいではるか昔の国をここ日本に再建できるだなんてさすがに陽子も思わなかったが、それでも碓井はひどく楽しそうだった。やれ過去に狩りに行った時の話だの、先王の葬儀の際の話だの。王が怒ると山が噴火するだの、そんな神話じみた話まで。よく覚えているなと周りが驚くほどに彼、いやルクレティウスの記憶は鮮明だった。
「さすが学生の頃から夢を見てただけあるな」
秋も深まってきたとはいえ、まだまだ日中は日差しの強い時期だ。ひたすらに地面を掘り返すという地味ながらに体力のいる作業に参ったのだろうか、いかにも肉体労働に向いていなさそうな唐澤が感心しつつ半ばあきれたような口調で言いながら腰をおろした。
「その執念だけでここまで来たんだから大したもんだよな」
首にかけたタオルで汗をぬぐい、ペットボトルに口をつける。その行為を見て、陽子たちもようやく喉の渇きに気が付いた。昔の話に夢中で気が付かなかったのだ。
「盛り上がりすぎもダメですね。熱中症になっちゃう」
そう言いつつも彼女は写真撮影に余念がない。聞けば状況確認で写真を逐一とっておく必要があるのだとか。
「重くて大変じゃない?」そう思わず陽子が問えば、「そんな一センチづつチマチマ地面を掘り下げるよりは楽ですよ」と返されたが。
気付けばもう昼時だった。「みなさーん、休憩してくださーい!」そう大きな声で碓井が合図を出せば、やはり皆疲れが来たのだろう、土をほじくり返すのに必死だった人々は、大きなため息とともに我先に日陰を求めて散っていく。
「それにしても、ボランティアの皆さん、よく頑張ってくれてますよね」
日焼け止め塗るの忘れてきちゃった、あーあ。そうつぶやき自分の腕を見やる粕川だったが、それでもさすがは〈王の目〉なだけあってまわりをよく見ていたらしい。「けっこうご年配の方もいらっしゃるけど、大丈夫なんでしょうか」
「あんな老人まで働かせるなんて、鬼か碓井」
「違う、俺はバイトは募集したがボランティアなんか頼んでいないんだ。素人が下手に加わって、大切な遺物を破損でもしたら敵わんからな」
「じゃあ先生、あの人たちは?」
「知らないよ、勝手に来て、勝手に穿り返してるんだ。だが無下に追い返すわけにもいかなくて」
「勝手に?もしかして、盗掘とか?」
陽子は昔遠足で見た弥生時代の古墳を思い出す。肝心の墓の中は誰かに荒らされてしまって、歴史的価値のある資料は盗まれてしまったのだと。これぞまさに墓荒らしだが、恐れを知らない人間は昔から存在したのだと深く胸に刻んだものである。
「いや、盗掘するにしてもおおっぴろげすぎますよ、陽子さん。真昼間から堂々となんて。そうではなく、彼らは自分がその偉大なネアンデルタールの血を引いた人種であることを証明したいばかりに、我々に協力してくれている方々なんですよ」
少し見下したような空気がそのセリフに含まれていたのは気のせいだろうか。だがまさに、これは今朝陽子が義母に思ったのと一緒ではないか。自身が選ばれた者だと思い込みたい憐れなヒト。あの人たちはただそれだけの人。
「まあ、彼らが過去の記憶を持つ覚醒者かどうかは私にはわからないんですけどね。あるいは、王や王の目であるカスティリオーネなら見分けがつくのかもしれないが」
昼食は採掘場近くに建てられた本部テントのなかでとることになった。とはいえ、テントといえども結局屋外だ。ムシムシして暑いのは変わらないが、直射日光を浴びないだけましか。さすがに本部にはおしかけボランティアは入ってこられないらしく、彼らはその中にいる陽子らを恨めしげに見ている。
「私にはわかりません、だって今の私は偉大な預言者じゃなくて、ただの大学生ですもの。それより先生、いくらこちらからお願いしてないからって、せっかく手伝ってくれてるのにそんな言い方あんまりじゃありませんか?」
予想外のがっつきで弁当をモリモリと食べながら粕川が言った。てっきり小食なんだと思っていた陽子は驚きつつも、肉体労働のあとだ、彼女もお腹は減っていた。おとなしく箸を動かしつつ彼らの話を聞いていた。
「言い方も何も正論じゃないか。現に俺だってそれを証明するために必死に土を掘ってるんだ。それに、さすがに無償じゃ悪いだろう。なに今回のプロジェクトは大きな後ろ盾がついてくれてね、おかげでああして彼らにも仕出し弁当やら飲み物やらを振る舞ってるんだから」
「後ろ盾?」
「ああ、大学の経営陣が各界に掛け合ってくれてね。なあ、唐澤。お前も声掛けしてくれたんだろ?」
「まあ、一応。学者で食ってくにはスポンサーがいないとやってけないからな」
ご飯に混ぜられたグリンピースだけを器用に避けながら唐澤が答える。
「そういうことだ。なにしろ人手が多いのは越したことにないし、彼らは自分が血を引いているだろうネアンデルタール属浜北人が、高度な文明を持っていたことを期待を持って望んでいる。そのほうが鼻が高いからな」
その気持ちは陽子にもわかった。なにせあっという間に有頂天になっていたのが義母だ。わたしだって記憶がよみがえっていなければ、自分だってここに住む人間だ、そういった素晴らしい経歴を持つのかもしれないと信じたい気持ちになったかもしれなかった。
「さて、そろそろ作業に戻ろう」
慣れぬ作業をしてすっかり肩や腰が痛くなってしまい、しきりにそこを陽子が叩いていると再開の声がかかった。
「碓井先生、ほんと人使い荒いんだから」
「それだけは確かだな」
同じく肩やら腰やらをしきりに揉んでいた唐澤と粕川が、文句をいいながらも腰を持ち上げる。一方思うようにいかないのが陽子だ。悲しいかな、日頃運動らしい運動もしておらず、せいぜい家とスーパーの往復だけ。それでもブクブクと太らずに済んだのは体質と甘いものが苦手だったせいかもしれなかったが、けれども体力がひどく落ちているのは確実だった。
アラフォーなのだから仕方ないだろう、そう思いながらも、粕川の若さが羨ましかった。その肌艶も、瑞々しい黒髪も。昔のわたしが持っていたそれら。
さすがに化粧はしてきた。けれどすでに汗がそれらを流そうとしている。もっといいやつ買えばよかった、ウォータープルーフとかの、ブランドの高いやつ。けれど彼女の手持ちでは、せいぜい薬局で買える安物がいいところだった。身の回りに金を掛けられないのがこれほど苦痛とは。そう思うほどには、彼女は女を取り戻していた。
しかし、いくら頑張ったところとて、もうわたしはあの子のように輝くことは出来ないのかもしれない。そう思わず諦めるほどに、粕川は命の輝きに満ちていた。
なるほど勇樹が目をハートにするわけだ。そういえばあの子は一体何者なのだろう。遥か昔のシャンポリオンで、カスティリオーネを知る人物。彼女は勇樹の正体を知っているのかしら、親のわたしより先に。
なんだか嫉妬じみた思いが胸にモヤモヤと浮かんできてしまった。なにを、一回り以上歳の離れた娘にオバサンが嫉妬してるのよ。
けれどそれは、粕川と碓井の距離感によって引き起こされたのかも知れなかった。ルクレティウスである碓井以外の顔を知る彼女。
そうだ、わたしはルクレティウスのことは知っているけれど、碓井瑛士について知っているのはせいぜいネットで見た情報だけ。大学の教授で、考古学会の新星。彼の趣味はなんだろう、どんなものが好きなの?
作業中に盛り上がったのも遠い昔の話だけ。今のわたしたちの話なんてひとつも出てこなかった。そのことに陽子はふと寂しさを覚える。
どうやら思わずため息が漏れていてしまったらしい。癖になってしまっているのかもしれなかった。ぐったりとして息を吐くその姿を疲れからだと思ったのだろう、碓井がパタパタと駆けてくると、
「王!あ、いや、陽子さん。大丈夫ですか?あまりご無理はされないほうが」
と気遣いの声を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ、碓井先生。久しぶりに肉体労働なんてしたから、ちょっと疲れただけで」
「ならば少し休まれていては」
「家の人にはアルバイトに行ってるって言ってあるんだもの。働かないで休んでてお給料だけもらうのは悪いでしょう」
「しかし……」
「いいんですよ、ほんとはもっと体を動かさなきゃ健康に悪いもの。本当に辛くなったら休むから」
「わかりました、でもくれぐれも無理はしないでくださいね」
「ええ、ありがとう」
持ち場に戻る碓井の背を見つめながら、それでもいいか、と陽子は思えてきた。少なくとも彼はわたしのことを気にかけてくれるのだ。大昔に王様だった記憶を持っているというだけで、こんななんの取り柄のないわたしを。
いや、本当にわたしには取り柄なんてないのかしら。
すぐにあきらめの方向を向いてしまう自分を叱咤し、光のある方向に振り向かせる。そうだ、ただただ年老いていくだけの自分を諦めて、自分で自分を見限ってやしなかっただろうか。わたしにはなにもない。そう思い込んで。
でも手放すにはまだ早すぎない?まだ人生半分以上も残っているのに!
「王」である以外に、わたしを見てほしい。あのまるでいつまでも子供のような輝きをもったあの瞳で、わたし自身を見てほしい。わたしが、ルクレティウスではなくあなたを見ているように、あなたがフュオンティヌスではなくわたしを見てくれたなら。
夫以外の男の人に、しかも久しぶりに優しくされたからかも知れなかった。こんな、初対面の人に、いくら昔に縁があるとはいえ抱く感情ではないとも思う。けれども陽子はここ最近感じたことのない気持ちが身体全体に広がっていくのを感じていた、まるで水が土に染み込むように。渇いたのどを潤す恵みを享受するかのように。
つまり、これは恋なのだろう。
彼女は一人、この乾いた発掘現場で静かにそう自覚したのだった。
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