不器用な幼馴染に、唇ばかり奪われています。――流され令嬢、恋人未満のまま初めてを捧げました

雑草

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扉の内側で、世界を閉ざす

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その日、私は一人で購買に並んでいた。

昼休み、教室にいるのが少し気まずくて。  
カイに近づく女子たちの笑い声が、耳についてしまって。

(パンだけ買って、すぐ中庭に戻ろう)

そう思っていたはずなのに――

「ねえ、アレってアナベル嬢じゃない?」

「ほんとですわ。あの子……最近ずっとカイ様と一緒にいない?」

「“一緒”というよりかは、“連れられてる”って感じかしら?」

クスクスと笑う声が、後ろから聞こえてきた。

(……気のせい。気のせいだと思おう)

「でも、カイ様が本気で相手するような子じゃなくない? 地味だし、無愛想だし」

「わかる。たぶん……都合いいからでしょ」

「“恋人”っていうより、あれじゃない? "おもちゃ”。気が向いたときだけ構う感じの」

「うわー言ったー。でもほんとそんな感じだよね。見ててちょっと哀れ」

その瞬間、  
胸の奥がざくりと裂ける音がした気がした。

パンを持つ手が震える。

(ちがう、ちがう……)

(でも、たしかに。カイは私に何も言ってくれない)

(“好き”なんて言われたこと、ない)

(私、ただ流されて……)

視界が滲んだ。  
だけど、涙は見せたくなくて、私はそのまま購買を飛び出した。



中庭へも戻れず、  
人気のない渡り廊下の影にしゃがみこむ。

心がぐらぐらと揺れていた。

カイの優しさも、ぬくもりも、  
全部、あの子たちが言ったような――  
「気まぐれ」だったら?

(……嫌だ)

でも、聞くのが一番、怖かった。




自室のドアの鍵を閉めた瞬間、  
まるでこの部屋だけ、別の世界になった気がした。

(何も聞こえない)

(何も考えたくない)

制服を脱ぐこともできずに、  
私はそのままベッドに沈み込んだ。

シーツの匂い。  
少しだけカイの匂いも混じっていて、胸が痛んだ。

(……都合の、いい子)

(おもちゃ。哀れ)

自分では、そんな風に思いたくなかった。  
でも、言葉の棘が刺さったまま、抜けない。

思い返せば、確かにカイは何も言ってくれていなかった。  
好きとも、恋人とも。

ただ、キスして。  
抱かれて。  
たまに優しくされて、名前を呼ばれて――  
私は、嬉しくなってしまった。

(……私、何を期待してたんだろう)

目を閉じると、  
昨日の夜のことが浮かぶ。

触れられた場所が、まだ熱を帯びている気がする。

でも、  
そのぬくもりさえも“遊び”だったら?

「……もう、いやだ」

小さな声でつぶやいて、  
枕に顔を押しつけた。

知らないふりをしていたこと、  
気づかないふりをしていたこと、  
全部、ひとつずつ自分を締めつけてくる。

何もしていないのに、  
身体がだるくて、重くて――  
呼吸さえ、浅くなる。

(……会いたくない)

(でも、来てくれたら、きっと断れない)

そんな自分が、一番いやだった。

だから今日は、鍵をかけた。

扉の向こうに、  
誰もいないようにと願いながら。

……ほんとうは、  
――カイの足音が、聞こえるのを待っているくせに。

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