【完結】これはきっと運命の赤い糸

夏目若葉

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ずっとふたりで③

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「厚労大臣の娘との見合いの話が前々からあって、それで調べたのもあったみたいだ。孫が実はどうしようもない素行不良でした、と見合いの後でわかれば赤っ恥だからな」

 桔平さんの知らないところで、かなり前からお見合いの話が来ていたようだ。
 桔平さんはずいぶんとその令嬢に気に入られていたのだと思う。イケメン御曹司だしモテないはずはないから。

「調べてたら最初はなにも出てこなかったが、美桜が現れた。まさか俺が狙ってた女を持ってかれるとは思わなかったけど。だからこそ、美桜には最初に辞めとけって言ったんだ。見合い相手と二股されて捨てられたら泣くことになるだろ?」
「狙ってたとか、変なこと言わないでください」

 そう突っ込むと、川井さんがあははと声に出して笑った。
 これは前にも感じたけれど、川井さんは私のためを思って辞めておけと言ってくれていたのだと痛感した。
 ズケズケと物を言うし、笑えないような冗談も口にするけれど、やはりこの人は悪い人ではない。

「こんなこと、ペラペラ私に喋っちゃっていいんですか?」

 私がそう聞くと、よくないかもな、と川井さんは冗談っぽく笑みを浮かべた。

「守秘義務違反ですよ」
「まぁ、美桜は当事者だから。それに、もう終わったし」
「え?」
「常務の素行に問題はなく、美桜のこともちゃんとした女性でなにも問題はないと報告書を出したから、調査は終了してる。俺がこのビルに来るのは、今日で最後」

 他の会社の仕事も別で請け負っていたけれど、それももう終わったそうだ。そうなると川井さんはここに来る理由はなくなる。
 ビル内で、こうしてバッタリと会うことももうないのかもしれない。

「今までいろいろと私の味方になってくれて、ありがとうございました」
「もしかしてしんみりしてる? さみしいのか?」
「それはないです」

 間髪入れずに私が言えば、川井さんがまた吹き出すように笑う。
 私の会社がある13Fでエレベーターが止まって扉が開いた。私は降りたけれど、川井さんはさらに上の階に向かうようで乗ったままだ。

「俺たち、絶対から」

 エレベーターの中から川井さんが軽く手を振りながら言う。
 それには絶対的な自信を持っているように聞こえた。また会えるだろう、ではなくて、また会う、と。

「俺ね、蘭ちゃんと付き合うことにした。じゃ、またな」
「えぇ?!」

 ちょっと待ってと言おうとしたけれど、タイミングよく扉が閉まってしまう。
 私はしばし、行ってしまったエレベーターを見つめたまま固まってしまった。

「あ、だからか」

 今度は無意識に独り言が口をついて出た。蘭と付き合うのなら、親友である私ともまた会う機会が絶対にある。
 そういうことかと、そこは合点がいったのだけれど。
 蘭と付き合うことにしたって、あのふたりはいったいいつから恋仲になったのだろう?
 そこがすごく気になるが、それは川井さんにではなく蘭に直接聞けばいい。

 とにかく、蘭の恋が実ったということだ。
 そう思うとうれしくて、勝手にニヤニヤとした笑みがこみあげてきた。
 ここが会社じゃなければ、大きくガッツポーズをしたいくらい。
 今度川井さんに会ったら、蘭を泣かせたら承知しないと念を押さなくては、などと想像したら、止めようと思ったニヤニヤが止まらなくなった。
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