49 / 50
ずっとふたりで③
しおりを挟む
「厚労大臣の娘との見合いの話が前々からあって、それで調べたのもあったみたいだ。孫が実はどうしようもない素行不良でした、と見合いの後でわかれば赤っ恥だからな」
桔平さんの知らないところで、かなり前からお見合いの話が来ていたようだ。
桔平さんはずいぶんとその令嬢に気に入られていたのだと思う。イケメン御曹司だしモテないはずはないから。
「調べてたら最初はなにも出てこなかったが、美桜が現れた。まさか俺が狙ってた女を持ってかれるとは思わなかったけど。だからこそ、美桜には最初に辞めとけって言ったんだ。見合い相手と二股されて捨てられたら泣くことになるだろ?」
「狙ってたとか、変なこと言わないでください」
そう突っ込むと、川井さんがあははと声に出して笑った。
これは前にも感じたけれど、川井さんは私のためを思って辞めておけと言ってくれていたのだと痛感した。
ズケズケと物を言うし、笑えないような冗談も口にするけれど、やはりこの人は悪い人ではない。
「こんなこと、ペラペラ私に喋っちゃっていいんですか?」
私がそう聞くと、よくないかもな、と川井さんは冗談っぽく笑みを浮かべた。
「守秘義務違反ですよ」
「まぁ、美桜は当事者だから。それに、もう終わったし」
「え?」
「常務の素行に問題はなく、美桜のこともちゃんとした女性でなにも問題はないと報告書を出したから、調査は終了してる。俺がこのビルに来るのは、今日で最後」
他の会社の仕事も別で請け負っていたけれど、それももう終わったそうだ。そうなると川井さんはここに来る理由はなくなる。
ビル内で、こうしてバッタリと会うことももうないのかもしれない。
「今までいろいろと私の味方になってくれて、ありがとうございました」
「もしかしてしんみりしてる? さみしいのか?」
「それはないです」
間髪入れずに私が言えば、川井さんがまた吹き出すように笑う。
私の会社がある13Fでエレベーターが止まって扉が開いた。私は降りたけれど、川井さんはさらに上の階に向かうようで乗ったままだ。
「俺たち、絶対また会うから」
エレベーターの中から川井さんが軽く手を振りながら言う。
それには絶対的な自信を持っているように聞こえた。また会えるだろう、ではなくて、また会う、と。
「俺ね、蘭ちゃんと付き合うことにした。じゃ、またな」
「えぇ?!」
ちょっと待ってと言おうとしたけれど、タイミングよく扉が閉まってしまう。
私はしばし、行ってしまったエレベーターを見つめたまま固まってしまった。
「あ、だからか」
今度は無意識に独り言が口をついて出た。蘭と付き合うのなら、親友である私ともまた会う機会が絶対にある。
そういうことかと、そこは合点がいったのだけれど。
蘭と付き合うことにしたって、あのふたりはいったいいつから恋仲になったのだろう?
そこがすごく気になるが、それは川井さんにではなく蘭に直接聞けばいい。
とにかく、蘭の恋が実ったということだ。
そう思うとうれしくて、勝手にニヤニヤとした笑みがこみあげてきた。
ここが会社じゃなければ、大きくガッツポーズをしたいくらい。
今度川井さんに会ったら、蘭を泣かせたら承知しないと念を押さなくては、などと想像したら、止めようと思ったニヤニヤが止まらなくなった。
桔平さんの知らないところで、かなり前からお見合いの話が来ていたようだ。
桔平さんはずいぶんとその令嬢に気に入られていたのだと思う。イケメン御曹司だしモテないはずはないから。
「調べてたら最初はなにも出てこなかったが、美桜が現れた。まさか俺が狙ってた女を持ってかれるとは思わなかったけど。だからこそ、美桜には最初に辞めとけって言ったんだ。見合い相手と二股されて捨てられたら泣くことになるだろ?」
「狙ってたとか、変なこと言わないでください」
そう突っ込むと、川井さんがあははと声に出して笑った。
これは前にも感じたけれど、川井さんは私のためを思って辞めておけと言ってくれていたのだと痛感した。
ズケズケと物を言うし、笑えないような冗談も口にするけれど、やはりこの人は悪い人ではない。
「こんなこと、ペラペラ私に喋っちゃっていいんですか?」
私がそう聞くと、よくないかもな、と川井さんは冗談っぽく笑みを浮かべた。
「守秘義務違反ですよ」
「まぁ、美桜は当事者だから。それに、もう終わったし」
「え?」
「常務の素行に問題はなく、美桜のこともちゃんとした女性でなにも問題はないと報告書を出したから、調査は終了してる。俺がこのビルに来るのは、今日で最後」
他の会社の仕事も別で請け負っていたけれど、それももう終わったそうだ。そうなると川井さんはここに来る理由はなくなる。
ビル内で、こうしてバッタリと会うことももうないのかもしれない。
「今までいろいろと私の味方になってくれて、ありがとうございました」
「もしかしてしんみりしてる? さみしいのか?」
「それはないです」
間髪入れずに私が言えば、川井さんがまた吹き出すように笑う。
私の会社がある13Fでエレベーターが止まって扉が開いた。私は降りたけれど、川井さんはさらに上の階に向かうようで乗ったままだ。
「俺たち、絶対また会うから」
エレベーターの中から川井さんが軽く手を振りながら言う。
それには絶対的な自信を持っているように聞こえた。また会えるだろう、ではなくて、また会う、と。
「俺ね、蘭ちゃんと付き合うことにした。じゃ、またな」
「えぇ?!」
ちょっと待ってと言おうとしたけれど、タイミングよく扉が閉まってしまう。
私はしばし、行ってしまったエレベーターを見つめたまま固まってしまった。
「あ、だからか」
今度は無意識に独り言が口をついて出た。蘭と付き合うのなら、親友である私ともまた会う機会が絶対にある。
そういうことかと、そこは合点がいったのだけれど。
蘭と付き合うことにしたって、あのふたりはいったいいつから恋仲になったのだろう?
そこがすごく気になるが、それは川井さんにではなく蘭に直接聞けばいい。
とにかく、蘭の恋が実ったということだ。
そう思うとうれしくて、勝手にニヤニヤとした笑みがこみあげてきた。
ここが会社じゃなければ、大きくガッツポーズをしたいくらい。
今度川井さんに会ったら、蘭を泣かせたら承知しないと念を押さなくては、などと想像したら、止めようと思ったニヤニヤが止まらなくなった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ケダモノ、148円ナリ
菱沼あゆ
恋愛
ケダモノを148円で買いました――。
「結婚するんだ」
大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、
「私っ、この方と結婚するんですっ!」
と言ってしまう。
ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。
貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる