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第1章 監獄の住人17-30
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しおりを挟む船は順調に進み、リスボン沖を遠回りしながら進み、ビスケー湾で
ちょっとした嵐に見舞われた。暴れ馬に乗っているようだったが、
英国紳士は平然としていた。彼は若い頃、船乗りだったことがあるらしい。
私は久しぶりに胃の内容物を戻していた。
プリマス沖を進み、ドーバーまでもう少しと言うところだ。
「もう一杯いただけるかしら。」
空になったグラスを見せると、すぐに並々と赤ワインが注がれた。
上下に見事な衣装をまとった英国紳士はヘブライ語で話しながら
食事中に楽しませてくれる。
彼はこの船の給仕などではなく、れっきとした英国の貴族だ。
英国国教を守護するホイッグ党の盟主であるラッセル家の血縁、
ギャンブル好きな先代には相当手を焼かされたらしい。
「ワインやブランデーではなく、イングランドでしょう。
スコッチウイスキーとかありませんか。」
オードブルの次に 海老のサラダ、フォアグラの乗ったレアステーキ
ヒラメのムニエル それとキャビアだ。そしてデザートと
紅茶。オスマンはひたすらコーヒーだった。
でも、ここに水タバコが無いのはさびしい。
英国紳士は海老やキャビアには苦笑いをしながら奉仕していた。
向こうに着いたら、本場の「ハギス」と「キドニーパイ」を食べようと思っている。
ハギスにはウイスキーらしい。
もしかすると、戒律にうるさい他の家族だと、向こうの食事の席で
侮辱行為をするかもしれないから、私が選ばれたの?と思ってしまう。
スルタンがお酒を飲んでいたのは栄えていた時期で、
イスラムが落ち目になり、欧州列強から脅威と見做されなくなって
久しい。落ち目になるほど、宮廷はイスラムの教えに厳格になっていった。
シオンはオスマン帝国内では見せない無邪気な笑顔を見せながら、
心の底から可笑しそうに笑った。自由だ。とても自由だ。
このまま、ずっと旅をしていたかった。
オスマン帝国には息苦しさと焦りがあった。
大航海時代を大英帝国が征し、地中海はそれほど重要ではなくなった。
金銀や香辛料、奴隷が海路で直接運ばれ、衰退の一途をたどる。
イスラムの盟主は、ヨーロッパ列強のどの国よりも弱いだろう。
領土も失った。シオンもその空気に呑まれ、日々家と空気に
束縛された生活を送っていた。家から重要視されないとはいえ
自由などない、家の外にでられるのもまれ、出ても監視付だ。
この時代に、遠く離れた地に一人旅できるなど、至上の喜びだ。
ミルク入りのパンはおいしい、ポークソテーもだ。
そして、極めつけはこの特注船だ。大型のガレオン船を改装したもので
調度品もとても立派なものだ。オスマンの公爵家といえど
このような船を独占など贅沢にもほどがある。
絵画等は潮風で痛むため、まったく飾られていないが
厚い高価なガラスの張られた客室から見る大海原は壮大だ。
大英帝国ではガラスでさえ信じられない量を作るらしい。
シオン・ナスィは公爵家の生まれとはいえ、次女、家督を継ぐ
可能性はほぼない。
1つ上の姉がいて彼女が跡継ぎだ。
弟もいるのだが、あとを継ぐのは姉だろう。
変に思うかもしれないが、ユダヤ人の父親であっても母親が不倫していたら
その子供は異教徒だ。だけど、ユダヤ人の母親から生まれれば、
少なくとも半分はユダヤ人だ。なのでユダヤ人は母親を重視する。
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