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第二十五話 三年目:ばあや志望の侍女が選ぶ道
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「ターニャ、ちょっと話したいことがあるのだけど、少々時間をもらえますか?」
卒業式を終え、祝賀会準備のために皆が学生寮に戻ってきたところで、ナディル様に声を掛けられた。リーリエ様に断りを入れ、ナディル様と私は寮の談話室へやってきた。侍従のカイは人払いのため、談話室の入口付近で待機している。
「まず、この二年間のあなたの協力に礼を言うよ。ピヴォワンヌ様との間がうまくいったことは、ターニャやヘクターのおかげだと思っているんだ。本当にどうもありがとう」
「そんな…私はただ主人の幸せのために行動したまでですので、ナディル様にお礼を言われるようなことは何も…」
ナディル様は恐縮する私に対し、その整った顔に麗しい笑みを浮かべて話し始めた。
「いや、あなたが思う以上に、私はあなたの存在に感謝しているんだよ。口止めされていたから黙っていようかとも思ったんだけどね、私としても恩人の幸せは見届けたいので、後で彼に怒られても良いから話そうと思ったんだ」
ナディル様の言葉の意味がまったく分からず、私の頭上には「?」が浮かんでいることだろう。
「ターニャは、私がなぜわざわざ王立学院の特別クラスに転入したのだと思う?」
それは第二学年の初日、ナディル様とカイが転入してきたときに聞いたことだった。広い世界を学ぶためであり、面識のあったピヴォワンヌ様とアルベール様がいたことから、一つ上の学年ではなく私たちの学年に加わったのだと。
私が素直にそう答えると、実は違うんだよと、ナディル様はいたずらっ子のような微笑みを浮かべた。
「本当は、リリーヴァレー王国に留学するのであれば、第一学年入学時のはずだったんだ。でも私は、訳あってそれを断わった。そして、第二学年からは、リリーヴァレーではなく隣国のローズレイクに留学する予定だったんだよ。カクトゥス大公国とローズレイク王国は貿易での関わりが深いからね。でも、私は予定を変更して、この王立学院への転入を決めた」
初耳のことばかりだが、ナディル様が第一学年入学時から学院に在籍するというのは、『月と太陽のリリー』でのナディルルートであれば有り得たことだ。現実はアルベールルートで進んでいたので何の疑問も持っていなかったが、何らかの強制力が働いたのかもしれない。しかし、第二学年でナディル様が転入してくるというのは、ゲームでは起こり得なかったルートなので、私も不思議に思ってはいた。つい続きが気になり、視線でナディル様の次の言葉を促す。
「実はね、第一学年の終わり頃だったかな。ヘクターから手紙をもらったんだよ」
「!」
ピヴォワンヌ様とアルベール様は、以前からナディル様との面識があった。そのため、ナディル様とヘクターに面識があったこともおかしくはないのだが、通常は何か用事あれば主であるアルベール様から手紙を出すはずで、従者のヘクターがナディル様宛に手紙を出すというのはおかしな話だった。
「ああ、もちろん、怪しまれないように、実際にその手紙を受け取ったのはカイだよ。カイとヘクターも、十五歳のときに私がリリーヴァレー王国を訪問した際に、同席していたからね。そしてヘクターは、私の気持ちを完璧に見抜いていたんだ」
「ナディル様のお気持ち…?」
「ああ。実は私が十五歳、ピヴォワンヌ様が十四歳のときだね。そのときに初めて会った彼女に、私は一目で恋に落ちてしまった。それ以前から手紙のやり取りはしていて、素晴らしい女性だとは思っていたのだけど、実際に会った彼女は、私の想像を遥かに超えた、本当に美しく気高い女性だったから。でも、彼女は第一王子であるアルベール殿下とすでに長く婚約していて、傍目から見ても仲の良い婚約者同士の間に割って入ることなどできなかった。だから私は、そんなふたりを毎日同じ教室で見るなんて耐えられないと思い、リリーヴァレー王国への留学は一度断っていたんだ」
確かにその状況なら、第一学年のときにナディル様が留学に来なかったことは納得できる。では、ヘクターは彼に何を伝えたのだろうか。
「私の気持ちも複雑でね、会わなければピヴォワンヌ様のことは忘れられると思ったが、想いは募るばかりだった。愛しい彼女に会えないことも苦しかった。それで、第二学年からはローズレイクに留学する予定で話を進めていた。我がディセントラ公爵家とピアニー侯爵家は古くから親交があるから、隣国に留学すれば、年に数回くらいはピヴォワンヌ様にお会いできる機会もあるだろうと思ったんだ。我ながら情けないとは思ってるよ。近くで会い続けることは苦しくて出来ないのに、まったく会えないことにも耐えられなかったんだから」
ナディル様は当時の気持ちを思い出したのか、淋しそうな表情で笑う。そしてここでようやく私にも話が見えてきた。第一学年の終わり頃には、アルベール様の気持ちはリーリエ様に向いていたのだ。だとしたらヘクターが告げたのは…
「手紙でヘクターは、私に協力を持ちかけてきたんだよ。アルベールに真に想う人が出来て、表に出してはいないが相思相愛であると。自分は主人の幸せを第一に考えているが、ピヴォワンヌ様を不幸にするわけにはいかない。私の恋にも協力するから、手を組まないか、とね」
先ほど予想したとおりの内容に、私は頷いた。ナディル様の転入は偶然でもなんでもなく、ヘクターがアルベール様のために手を打ったものだったのだ。
「私の胸中は複雑だったよ。ヘクターの手紙の内容が本当ならばピヴォワンヌ様を私が得ることができるかもしれない。でもそれ以前に、アルベールに対して腹が立った。相手の女性にもだ。ピヴォワンヌ様ほど素晴らしい女性を婚約者にしていながら、酷い裏切りだと思ったし、そのせいでピヴォワンヌ様が傷つくことが何よりも許せなかった。だから私は、どちらかというと自分の欲よりも、アルベールを見極めるために学院に来た、という方が正しいかもしれない。まあそれも本来であれば私に怒る資格なんてないから、ただの言いがかりなんだけどね」
ナディル様は、自嘲気味に笑った。
「そして学院に来て、自分の目で見てよく分かったよ。アルベールもリーリエさんも本当に苦しんでいることが。そしてふたりがピヴォワンヌ様を裏切るようなことをしたくなくて、自分の感情を抑えていることも。愛する人がいながら、結ばれる可能性がなく、想いを告げることさえ許されない苦しさは、私もよく知っていた。だから、私は迷わず動くことにした。ピヴォワンヌ様を得たいという自分の欲望を正当化していることは否定できないが、クラスメイトである彼らのことも助けたいと本気で思ったんだ」
私はすべてを理解し、頷いた。だから、次のナディル様の言葉に驚いた。
「さて、ターニャ。話はここまでが前提だよ」
ナディル様の言葉が理解できず、私は戸惑ってしまう。
すべて理解したと思ったのに、ここまでが前提とはこれいかに。
「ヘクターも私も欲張りだってことだよ。ターニャ、ヘクターはなぜこんなことをしたのだと思う?」
なぜか面白そうに笑うナディル様に首を傾げつつ、私は答える。
「なぜって、大事な主人であるアルベール様を幸せにするためですよね?そしてクラスメイトであるピヴォワンヌ様、ナディル様、リーリエ様のことも幸せにできるからと」
「それが違うんだよターニャ。ヘクターにとって、それらの目的はもちろん大事だけど、全部二番目だ。一番の理由は、ヘクターがターニャを得たいからだよ」
「…!?」
思いもよらないナディル様の言葉に、私は困惑する。
私を得たいから?一体どういう意味かと考えていると、ナディル様が説明してくれた。
「驚いているようだけど、言葉どおりの意味だよ。あのままアルベールとピヴォワンヌ様の婚約が続いたらどうなるか考えたら分かる。ふたりは将来結婚し、王宮で暮らす。リーリエさんはおそらくアルベールから意図的に距離を取るために、領地で暮らすことを選ぶだろうし、もっと遠い場所にある貴族の家に嫁ぐ可能性だってあった。そうなれば、アルベールの従者として王宮で働くヘクターと、リーリエさんの侍女としてどこまでも着いていくであろうターニャは、まったく別々の道を行くんだ。下手すれば、卒業後は二度と会えなくなるかもしれない。ヘクターには、それが耐えられなかった。なんとしてもあなたを得たいと願っていた」
一気に頬が熱を持ったのが自分でも分かる。ナディル様の話の内容はこれまでまったく考えたことがなかったが、確かにその通りだと思う。もしもアルベール様とピヴォワンヌ様の婚約が継続された場合、そうなった可能性が非常に高いのだ。そして、これまでのヘクターの言動が脳内を駆け巡っていく。
第一学年の頃から、なぜかヘクターがアルベール様とリーリエ様の間を取り持つような動きを見せていたこと。いつも私を口説くようなからかうような言動をしていたこと。ナディル様の転入後、私に協力体制を持ち掛けてきて「主人に負い目なく幸せになってもらいたいから、全員幸せにしよう」と言ったこと。クラスメイトから協力を得るために、嫌な役回りも私に代わって引き受けてくれたこと。後夜祭のあとの、プロポーズのような言葉。
今思えば、あのとき彼はどんな気持ちで「卒業後も同じ職場で会えるから返事は気長に待つ」なんて言ったのか。彼は「卒業後も同じ職場で会えるようにするために」とんでもない時間と労力をかけてくれていたのだ。
私がこれまで見てきたヘクターの姿が一本の糸で繋がったようで、気付くと私は涙をこぼしていた。そんなに重い愛なんて嫌だと笑い飛ばすことだって出来たはずなのに、私は嬉しいと思ってしまった。きっと、この気持ちが私の答えなのだ。
そんな私にハンカチを差し出しながら、ナディル様は言った。
「ふふ、ターニャの泣き顔を見たなんて言ったら、ヘクターに殴られちゃうから、私は今の話は墓場まで持っていくよ。でも、ヘクターも私にとっては大切な友人だから、彼の気持ちがターニャにうまく伝わっていないようなのは、ずっと気になっていたんだ。もちろんターニャの気持ちも大切だから、無理強いするつもりはないけど、これくらいのおせっかいは焼いても良いだろうと思ってね。今の私が幸せなのは、きっかけをくれたヘクターのおかげだし、協力してくれたクラスメイトの皆のおかげだ。ターニャにも、自分が幸せになれる道を選んでほしい」
私は言葉に詰まって返事はできなかったが、ナディル様の言葉に大きく頷いた。
卒業式を終え、祝賀会準備のために皆が学生寮に戻ってきたところで、ナディル様に声を掛けられた。リーリエ様に断りを入れ、ナディル様と私は寮の談話室へやってきた。侍従のカイは人払いのため、談話室の入口付近で待機している。
「まず、この二年間のあなたの協力に礼を言うよ。ピヴォワンヌ様との間がうまくいったことは、ターニャやヘクターのおかげだと思っているんだ。本当にどうもありがとう」
「そんな…私はただ主人の幸せのために行動したまでですので、ナディル様にお礼を言われるようなことは何も…」
ナディル様は恐縮する私に対し、その整った顔に麗しい笑みを浮かべて話し始めた。
「いや、あなたが思う以上に、私はあなたの存在に感謝しているんだよ。口止めされていたから黙っていようかとも思ったんだけどね、私としても恩人の幸せは見届けたいので、後で彼に怒られても良いから話そうと思ったんだ」
ナディル様の言葉の意味がまったく分からず、私の頭上には「?」が浮かんでいることだろう。
「ターニャは、私がなぜわざわざ王立学院の特別クラスに転入したのだと思う?」
それは第二学年の初日、ナディル様とカイが転入してきたときに聞いたことだった。広い世界を学ぶためであり、面識のあったピヴォワンヌ様とアルベール様がいたことから、一つ上の学年ではなく私たちの学年に加わったのだと。
私が素直にそう答えると、実は違うんだよと、ナディル様はいたずらっ子のような微笑みを浮かべた。
「本当は、リリーヴァレー王国に留学するのであれば、第一学年入学時のはずだったんだ。でも私は、訳あってそれを断わった。そして、第二学年からは、リリーヴァレーではなく隣国のローズレイクに留学する予定だったんだよ。カクトゥス大公国とローズレイク王国は貿易での関わりが深いからね。でも、私は予定を変更して、この王立学院への転入を決めた」
初耳のことばかりだが、ナディル様が第一学年入学時から学院に在籍するというのは、『月と太陽のリリー』でのナディルルートであれば有り得たことだ。現実はアルベールルートで進んでいたので何の疑問も持っていなかったが、何らかの強制力が働いたのかもしれない。しかし、第二学年でナディル様が転入してくるというのは、ゲームでは起こり得なかったルートなので、私も不思議に思ってはいた。つい続きが気になり、視線でナディル様の次の言葉を促す。
「実はね、第一学年の終わり頃だったかな。ヘクターから手紙をもらったんだよ」
「!」
ピヴォワンヌ様とアルベール様は、以前からナディル様との面識があった。そのため、ナディル様とヘクターに面識があったこともおかしくはないのだが、通常は何か用事あれば主であるアルベール様から手紙を出すはずで、従者のヘクターがナディル様宛に手紙を出すというのはおかしな話だった。
「ああ、もちろん、怪しまれないように、実際にその手紙を受け取ったのはカイだよ。カイとヘクターも、十五歳のときに私がリリーヴァレー王国を訪問した際に、同席していたからね。そしてヘクターは、私の気持ちを完璧に見抜いていたんだ」
「ナディル様のお気持ち…?」
「ああ。実は私が十五歳、ピヴォワンヌ様が十四歳のときだね。そのときに初めて会った彼女に、私は一目で恋に落ちてしまった。それ以前から手紙のやり取りはしていて、素晴らしい女性だとは思っていたのだけど、実際に会った彼女は、私の想像を遥かに超えた、本当に美しく気高い女性だったから。でも、彼女は第一王子であるアルベール殿下とすでに長く婚約していて、傍目から見ても仲の良い婚約者同士の間に割って入ることなどできなかった。だから私は、そんなふたりを毎日同じ教室で見るなんて耐えられないと思い、リリーヴァレー王国への留学は一度断っていたんだ」
確かにその状況なら、第一学年のときにナディル様が留学に来なかったことは納得できる。では、ヘクターは彼に何を伝えたのだろうか。
「私の気持ちも複雑でね、会わなければピヴォワンヌ様のことは忘れられると思ったが、想いは募るばかりだった。愛しい彼女に会えないことも苦しかった。それで、第二学年からはローズレイクに留学する予定で話を進めていた。我がディセントラ公爵家とピアニー侯爵家は古くから親交があるから、隣国に留学すれば、年に数回くらいはピヴォワンヌ様にお会いできる機会もあるだろうと思ったんだ。我ながら情けないとは思ってるよ。近くで会い続けることは苦しくて出来ないのに、まったく会えないことにも耐えられなかったんだから」
ナディル様は当時の気持ちを思い出したのか、淋しそうな表情で笑う。そしてここでようやく私にも話が見えてきた。第一学年の終わり頃には、アルベール様の気持ちはリーリエ様に向いていたのだ。だとしたらヘクターが告げたのは…
「手紙でヘクターは、私に協力を持ちかけてきたんだよ。アルベールに真に想う人が出来て、表に出してはいないが相思相愛であると。自分は主人の幸せを第一に考えているが、ピヴォワンヌ様を不幸にするわけにはいかない。私の恋にも協力するから、手を組まないか、とね」
先ほど予想したとおりの内容に、私は頷いた。ナディル様の転入は偶然でもなんでもなく、ヘクターがアルベール様のために手を打ったものだったのだ。
「私の胸中は複雑だったよ。ヘクターの手紙の内容が本当ならばピヴォワンヌ様を私が得ることができるかもしれない。でもそれ以前に、アルベールに対して腹が立った。相手の女性にもだ。ピヴォワンヌ様ほど素晴らしい女性を婚約者にしていながら、酷い裏切りだと思ったし、そのせいでピヴォワンヌ様が傷つくことが何よりも許せなかった。だから私は、どちらかというと自分の欲よりも、アルベールを見極めるために学院に来た、という方が正しいかもしれない。まあそれも本来であれば私に怒る資格なんてないから、ただの言いがかりなんだけどね」
ナディル様は、自嘲気味に笑った。
「そして学院に来て、自分の目で見てよく分かったよ。アルベールもリーリエさんも本当に苦しんでいることが。そしてふたりがピヴォワンヌ様を裏切るようなことをしたくなくて、自分の感情を抑えていることも。愛する人がいながら、結ばれる可能性がなく、想いを告げることさえ許されない苦しさは、私もよく知っていた。だから、私は迷わず動くことにした。ピヴォワンヌ様を得たいという自分の欲望を正当化していることは否定できないが、クラスメイトである彼らのことも助けたいと本気で思ったんだ」
私はすべてを理解し、頷いた。だから、次のナディル様の言葉に驚いた。
「さて、ターニャ。話はここまでが前提だよ」
ナディル様の言葉が理解できず、私は戸惑ってしまう。
すべて理解したと思ったのに、ここまでが前提とはこれいかに。
「ヘクターも私も欲張りだってことだよ。ターニャ、ヘクターはなぜこんなことをしたのだと思う?」
なぜか面白そうに笑うナディル様に首を傾げつつ、私は答える。
「なぜって、大事な主人であるアルベール様を幸せにするためですよね?そしてクラスメイトであるピヴォワンヌ様、ナディル様、リーリエ様のことも幸せにできるからと」
「それが違うんだよターニャ。ヘクターにとって、それらの目的はもちろん大事だけど、全部二番目だ。一番の理由は、ヘクターがターニャを得たいからだよ」
「…!?」
思いもよらないナディル様の言葉に、私は困惑する。
私を得たいから?一体どういう意味かと考えていると、ナディル様が説明してくれた。
「驚いているようだけど、言葉どおりの意味だよ。あのままアルベールとピヴォワンヌ様の婚約が続いたらどうなるか考えたら分かる。ふたりは将来結婚し、王宮で暮らす。リーリエさんはおそらくアルベールから意図的に距離を取るために、領地で暮らすことを選ぶだろうし、もっと遠い場所にある貴族の家に嫁ぐ可能性だってあった。そうなれば、アルベールの従者として王宮で働くヘクターと、リーリエさんの侍女としてどこまでも着いていくであろうターニャは、まったく別々の道を行くんだ。下手すれば、卒業後は二度と会えなくなるかもしれない。ヘクターには、それが耐えられなかった。なんとしてもあなたを得たいと願っていた」
一気に頬が熱を持ったのが自分でも分かる。ナディル様の話の内容はこれまでまったく考えたことがなかったが、確かにその通りだと思う。もしもアルベール様とピヴォワンヌ様の婚約が継続された場合、そうなった可能性が非常に高いのだ。そして、これまでのヘクターの言動が脳内を駆け巡っていく。
第一学年の頃から、なぜかヘクターがアルベール様とリーリエ様の間を取り持つような動きを見せていたこと。いつも私を口説くようなからかうような言動をしていたこと。ナディル様の転入後、私に協力体制を持ち掛けてきて「主人に負い目なく幸せになってもらいたいから、全員幸せにしよう」と言ったこと。クラスメイトから協力を得るために、嫌な役回りも私に代わって引き受けてくれたこと。後夜祭のあとの、プロポーズのような言葉。
今思えば、あのとき彼はどんな気持ちで「卒業後も同じ職場で会えるから返事は気長に待つ」なんて言ったのか。彼は「卒業後も同じ職場で会えるようにするために」とんでもない時間と労力をかけてくれていたのだ。
私がこれまで見てきたヘクターの姿が一本の糸で繋がったようで、気付くと私は涙をこぼしていた。そんなに重い愛なんて嫌だと笑い飛ばすことだって出来たはずなのに、私は嬉しいと思ってしまった。きっと、この気持ちが私の答えなのだ。
そんな私にハンカチを差し出しながら、ナディル様は言った。
「ふふ、ターニャの泣き顔を見たなんて言ったら、ヘクターに殴られちゃうから、私は今の話は墓場まで持っていくよ。でも、ヘクターも私にとっては大切な友人だから、彼の気持ちがターニャにうまく伝わっていないようなのは、ずっと気になっていたんだ。もちろんターニャの気持ちも大切だから、無理強いするつもりはないけど、これくらいのおせっかいは焼いても良いだろうと思ってね。今の私が幸せなのは、きっかけをくれたヘクターのおかげだし、協力してくれたクラスメイトの皆のおかげだ。ターニャにも、自分が幸せになれる道を選んでほしい」
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