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宰相と話す謁見前

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 ウィルが笑いすぎたため、話が中断してしまったが、要は後目を誰にするかはっきりしてほしいと宰相の話からするに迫られているようである。
 別にここに私は関係ないような気がするんだけど……まさかと思うが、まさかである。


「宰相は、どちらが相応しいと思っているのです?次の公世子に」
「それは、大きな声では言えませんが、プラム殿下の方が……」
「プラムと言えば、第二妃の子どもね?確かに、どちらかと言えば、そうなのかもしれないけど……」
「……けど?」
「向いてないわよね。パンを全部あげちゃう子には、この人を騙すことを最上としているような国の
 中枢で宰相のような人と戦えるとはとても思えないわ!」
「あぁ、要するに、もう少しずる賢くないとダメだってこと?じゃあ、姫さんは、公妃の子どもを推す
 感じ?」
「私はどちらも推さないわよ!公がどちらを次の公としてきちんと育てたいかはっきりすれば、いいだけ
 よ。私からすれば、公妃の子どもは公の位に就いたら、とんでもなく国が混乱するだろうし、当代の
 宰相や文官がとてつもなく疲弊しそうだなとは思うわ!
 でも、まぁ、公世子は公妃の子どもで決まるでしょうね?第二妃の実家の爵位が低いのと第二妃に
 自身の子を公世子にしたいという気がないから」
「そんなことは……」
「ここだけの秘密って話でいいなら、話すけど?」


 宰相に目配せすると、頷いてくれた。たぶん、次代の宰相候補をすでに育て始めているのだろう。次代の宰相は、私たちより年上の公たちの世代から、さらに次は私たちより少し下であるパルマたちの世代となるだろう。
 そう考えると、すでに宰相候補になりうる人物を少しずつ宰相は手元におき始めていることも少しだけ耳に入っていた。
 次代の公を支えるのは、パルマになる可能性もなくはない。だから、それ相応にしっかりした人についてもらいたいとも思ってはいるのだけど……どう考えてもどちらも器ではないのだ。母親や母親の親族を含めて。


「まず、宰相が考えていることを言いましょうか?私をアンバー公爵と離婚させて、公妃に据えたい。
 そのうえで、第三男子となる子を産んで欲しいと言うのが願望かしらね?」


 ふふっと笑いながら、冗談でも言っているかのように囁けば、これ以上、宰相から何も答えは返ってこない。
 と、いうことは、それが正解なのだろう。ウィルもそれがわかったようで、さっきまで笑っていた口元を引き締める。


「でも、それが、できないのであれば……教育係として、どちらかについてほしいと考えている。
 そんなところかしら?」


 私はさらに笑みを深く微笑むと、降参ですと宰相が言葉を零す。


「アンナリーゼ様とアンバー公爵を離婚させることは、可能です」
「そうでしょうね?私の我儘でジョージア様と結婚出来たけど、私、国と国で決めた政略結婚ですもの。
 国が正当な理由を元に離婚させることも可能なはずだわ!例えば、アンバー領の功績から公妃に相応
 しいとかなんとか言って」
「な……そんなこと……」
「できるわよ!なんなら、離婚させて命令で公の妃になったりも出来るし、離婚したら実家に帰らないと
 いけないから、コブ付バツ持ちでよければ、ウィルだって求婚できるわよ!フレイゼンに帰ることに
 なったら、二度とこちらに嫁ぐことはないでしょうけどねっ!」


 ウィルにもにっこり笑って教えてあげると……わなわなとしている。ウィルは、一代限りの伯爵位である。私が、もし、離婚させられてフレイゼンに帰った場合、求婚は可能だ。
 ただし、私の実家の方が爵位が上であるので、サーラー伯爵夫人となることはなく、私の婿養子となる。
 ちなみにではあるが、ローズディアでの功績で伯爵位であるウィルは、フレイゼンにもし婿養子になったとして、ウィル個人的な爵位は伯爵、私との姻戚で侯爵となる。


「だとしても、俺は関係ないな……姫さんがジョージア様と離婚するってことが想像つかない。あれ
 これ画策して、アンバー公爵として絶対居座ってそうじゃん……宰相様もそういう生産性のない
 考えは、やめておいた方がいいと思いますよ!敵に回して怖いものは、この世の中で姫さん以上には
 いないだろうから」


 失礼ねと言おうとしたところ、宰相に先を越されてしまう。
 全くもって、失礼な話だと、鼻息荒く止めようとしたのに……


「サーラー中隊長の助言、しかと。確かに、あれほど仲が良い夫婦は、ジェラン侯爵夫妻くらいかと
 思っていましたよ」
「あぁ、カレン様のところも異常に侯爵を束縛していますからね。でも、まぁ、あそ侯爵家はあれで、
 幸せが保たれているのでいい夫婦ですよね」
「あら?ウィルは、深窓の令嬢がお好みなんでしょ?カレン様の愛情もかなり苛烈よ!」
「最近わかったんだけど、そういう愛情もいいなって……」
「そういう人が出来たの!誰、誰?」
「あぁ、姫さん、今は姫さんの話な?俺はいい!」
「知りたいわ!私、謁見より……そっちが気になって仕方がない!」


 アンナリーゼ様、落ち着いてと宰相に言われるが、ウィルにそんな相手がいるのかと思うとなんだかドキドキする。友人たちを私の手伝いに巻き込んでしまっていることを考えると、こういう幸せを掴んでくれそうな話を聞くと嬉しくて仕方がない。
 だからというわけでもないが、宰相そっちのけで、ウィルに誰なの?ねぇ?と問い詰める。


「いや、聞かないでくれる?そういう相手、いないから!」
「嘘よ!絶対いるわ!」
「だーかーらー!いないってば!」


 だんだん、熱を帯びていくこの誰?いない!の押し問答をしていると、扉がカチャリと開く。
 二人してそちらを見ると、数ヶ月ぶりに会う公であった。
 髪は、若いのに少し白いものが混じってやいないだろうか?
 宰相に視線を送ると、お疲れですと返してくれる。私の顔をみて大きなため息をつく公。


「そなたら、いつまでたっても元気だな……それほど、仲が良いとジョージアが妬くのもわかるぞ……」


 はぁ……と再度ため息をつくと、謁見だ、来いと呼ばれる。
 文官が呼びに来るはずだったのに、公自らが呼びに来てくれたようだ。
 私は素直に従い、ウィルと宰相を引き連れ部屋から出るのであった。
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