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宰相と
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謁見の間の近くの客間へと案内された私たち。謁見の準備が整ったら、呼んでくれるよう文官にお願いしておいた。
私はすすめられた席に座り、ウィルは私の後ろに立つ。
「そうやって見ると、サーラー中隊長は本当にアンナリーゼ様の近衛のようですね」
「そんなこと……私の我儘についてきてもらっただけですわ!」
おほほ……と、微笑むとまたしても宰相は大きくため息をついた。
さっきの様子を考えても、頭の痛いことなのだろう。
「先程は、お見苦しいところをお見せいたしました。公妃様の嫉妬には困ったものです。だいたい、
アンナリーゼ様は公の後ろ盾となる筆頭公爵なのですから、領地運営だけでなく、他にも国営に関する
助言もと、私どもは思っているところですのに、どこからか、本日の謁見を聞きつけてきては、騒ぎ
たてているのです……こちらとしては、できることなら、政治に関しても国営に関してもさして関心も
ない公妃様がこんなに頻繁に筆頭公爵であるアンナリーゼ様の謁見を邪魔されるのは、いい気はしま
せんね。だいたい、前公が何故、アンんリーゼ様を公妃として向かえてくれなかったのか……
あのアンバーの発展を考えても、本当に本当に残念過ぎてなりません!おっと……口が滑りました」
ふふっと口元をセンスで隠し笑うと、宰相が苦笑いを浮かべている。
「口が滑っただなんて……ふふ」
「あの、公には……」
「言いませんよ!だいたい、公が公妃を抑えられないのが悪いのです。宰相がむしろ、こんなことで
苦労することなんて、ありえないですわ!そのお体も頭もくだらない公の夫婦喧嘩に巻き込まれず、
国民のために全て使って欲しいですわ!」
私の物言いに、宰相は目を見開き驚いている。ワザと言ったのだが……直接過ぎたので、今更ながら言葉を濁すということにした。
宰相も愚痴を言える人がいなくてという部分があるので、助けると思って口を滑らしたのだ。それが、わかる人だからこそ、国で1番の宰相という地位にいる人であることはわかる。
「あら、いやだわ!私も思わず、口が滑りましたわ!」
おほほ……と笑いながら、口元に人差し指をあててしーっとすると、宰相も微笑んだ。
「三人だけの秘密にいたしましょう!」
「そうですね!実は、聞いていただきたいお話は、もうひとつあるのですけど……」
「何かしら?公世子擁立の話なら、私は聞かないわ!ジョージア様に言ってもダメよ!アンバー公爵
家は、現公の後ろ盾であって、未来の公に従うつもりは全く今のところは考えていないのよ!」
「……そうでしたか。あの、個人的な話として聞いてください」
「ここの三人だけの話と言うなら聞くわ!ただし、私が何かを言ったからといって、期待はしないで
ちょうだいね!公が嫌いとか……嫌いは正しいのか……宰相が憎いとかではなく、個人的なひとり
言なら呟いてもいいってだけだから」
私は、宰相をじっと見つめると、畏まりましたと座ったままお辞儀をした。
「それで、宰相はどう考えているのかしら?たしか、公妃にも男児が一人、第二妃にも男児が一人いる
わよね?」
「えぇ、その通りです。私は、二人とお会いする機会もあり、ある質問をしたことがあります。まだ、
小さいですが、人間性を試したいと思ってのことでした」
私は、おもしろそうと目を輝かせながら、宰相に話を促すと、なんとも微妙な顔をして話始める。
自分が欲しかった答えをくれたのは、たぶんその二人の内、最も公世子に近い方ではなかったのだろう。
「質問の内容は、簡単です。お腹のすいている同い年の子どもがいました。自分の手元には、おいしい
パンがあります。ただし、自分もお腹がすいている。でも、目の前の子どもは、もう何日も食べて
いないといいます。子どもは、ひとかけらでもいいから、少しだけでも、パンが欲しいと言いました
というものです」
「なるほど。自身が、間違った貴族の矜持を持っている場合は、とても、傲慢な貴族像になるわね!」
「ちなみに、アンナリーゼ様はどうされますか?」
「私なら……偽善と言われるかもしれないけど……ひとかけらちぎって口にほおりこみ、残りを全部
あげるかな?」
「その心を聞いても?」
「うーん、全てあげてしまうと施しをしたと、自身が傲慢な人間になりそうで怖い。なら、半分なら
公平であるのかというと、普段からお腹いっぱい食べられる私と目の前の子どもはその時点で公平
ではない。ひとかけらもあげないと言うのは、私の中には、選択肢としてなかったけど、同じパンを
分け合ったという自己満足も欲しかったから一口分だけ口に入れて、残りを全て渡す選択をしたの
だけど……宰相的には合格かしら?」
私の何気ない回答を聞いて、目を見開いている。宰相が持っている答えと違ったようだった。
それほど、難しい答えではないだろう。今、アンバーで同じことをしているのだから……
「……私には、その答えはありませんでした。一口だけ自身で食べるか……普通は、全部あげるか
あげないか。残りは、半分を渡すかしかないですよね?」
「選択肢を選ぶものでないのなら、人の数だけ考えがあるわ!それと、当ててあげましょうか?」
「どの答えを言ったかですか?」
えぇとニコリと微笑む。公子たちが、どの選択肢を選んだかは……その母親を考えればなんとなくわかる。
「公妃の子は、渡さなかっただけでなく、そうね……パンも買えないのかとバカにしたかしらね?
第二妃の子は、うーん、半分か全部かをあげたと思うのだけど……これは、どっちかしら……全部
かな?可哀想な子どもに施しをという感じ?」
「まさに、そうです。どうして、それを?」
「親を見ればわかる。公妃や第二妃の人柄そのままね。零か百かという感じ。公妃も第二妃も生粋の
貴族お嬢様だから……真ん中がないのよ。国民や領民と触れ合うことなく、小さな貴族の世界だけで
生きてきたから……」
なるほど……と呟く宰相。
「私も、その枠の中にいたようですね……アンナリーゼ様の話を聞いて、私は……宰相として、まだまだ
成長の余地がありそうです。今日は、アンナリーゼ様と話が出来たこと……これ以上ない貴重な時間
でした。私より年若いアンナリーゼ様が、私より全てにおいて深い考えをお持ちのようだ」
宰相の言葉に私は苦笑いをすると、後ろでたまらず、腹を抱えて大笑いし始めた人物がいる。
「ウィル!」
「あぁ、ごめん……姫さん。いや、じゃじゃ馬も街で遊びまわっていただけじゃないんだと思うと……
本当に……」
「何よ!私だって、貴族としての矜持は、しっかり両親から教えてもらっています!」
ウィルが、思わず笑い転げてしまったので、公爵アンナリーゼの仮面が剥がれ落ちる。
そんな様子を宰相はポカンと見ていたが、仲がよろしいのですねと微笑んでいた。
私はすすめられた席に座り、ウィルは私の後ろに立つ。
「そうやって見ると、サーラー中隊長は本当にアンナリーゼ様の近衛のようですね」
「そんなこと……私の我儘についてきてもらっただけですわ!」
おほほ……と、微笑むとまたしても宰相は大きくため息をついた。
さっきの様子を考えても、頭の痛いことなのだろう。
「先程は、お見苦しいところをお見せいたしました。公妃様の嫉妬には困ったものです。だいたい、
アンナリーゼ様は公の後ろ盾となる筆頭公爵なのですから、領地運営だけでなく、他にも国営に関する
助言もと、私どもは思っているところですのに、どこからか、本日の謁見を聞きつけてきては、騒ぎ
たてているのです……こちらとしては、できることなら、政治に関しても国営に関してもさして関心も
ない公妃様がこんなに頻繁に筆頭公爵であるアンナリーゼ様の謁見を邪魔されるのは、いい気はしま
せんね。だいたい、前公が何故、アンんリーゼ様を公妃として向かえてくれなかったのか……
あのアンバーの発展を考えても、本当に本当に残念過ぎてなりません!おっと……口が滑りました」
ふふっと口元をセンスで隠し笑うと、宰相が苦笑いを浮かべている。
「口が滑っただなんて……ふふ」
「あの、公には……」
「言いませんよ!だいたい、公が公妃を抑えられないのが悪いのです。宰相がむしろ、こんなことで
苦労することなんて、ありえないですわ!そのお体も頭もくだらない公の夫婦喧嘩に巻き込まれず、
国民のために全て使って欲しいですわ!」
私の物言いに、宰相は目を見開き驚いている。ワザと言ったのだが……直接過ぎたので、今更ながら言葉を濁すということにした。
宰相も愚痴を言える人がいなくてという部分があるので、助けると思って口を滑らしたのだ。それが、わかる人だからこそ、国で1番の宰相という地位にいる人であることはわかる。
「あら、いやだわ!私も思わず、口が滑りましたわ!」
おほほ……と笑いながら、口元に人差し指をあててしーっとすると、宰相も微笑んだ。
「三人だけの秘密にいたしましょう!」
「そうですね!実は、聞いていただきたいお話は、もうひとつあるのですけど……」
「何かしら?公世子擁立の話なら、私は聞かないわ!ジョージア様に言ってもダメよ!アンバー公爵
家は、現公の後ろ盾であって、未来の公に従うつもりは全く今のところは考えていないのよ!」
「……そうでしたか。あの、個人的な話として聞いてください」
「ここの三人だけの話と言うなら聞くわ!ただし、私が何かを言ったからといって、期待はしないで
ちょうだいね!公が嫌いとか……嫌いは正しいのか……宰相が憎いとかではなく、個人的なひとり
言なら呟いてもいいってだけだから」
私は、宰相をじっと見つめると、畏まりましたと座ったままお辞儀をした。
「それで、宰相はどう考えているのかしら?たしか、公妃にも男児が一人、第二妃にも男児が一人いる
わよね?」
「えぇ、その通りです。私は、二人とお会いする機会もあり、ある質問をしたことがあります。まだ、
小さいですが、人間性を試したいと思ってのことでした」
私は、おもしろそうと目を輝かせながら、宰相に話を促すと、なんとも微妙な顔をして話始める。
自分が欲しかった答えをくれたのは、たぶんその二人の内、最も公世子に近い方ではなかったのだろう。
「質問の内容は、簡単です。お腹のすいている同い年の子どもがいました。自分の手元には、おいしい
パンがあります。ただし、自分もお腹がすいている。でも、目の前の子どもは、もう何日も食べて
いないといいます。子どもは、ひとかけらでもいいから、少しだけでも、パンが欲しいと言いました
というものです」
「なるほど。自身が、間違った貴族の矜持を持っている場合は、とても、傲慢な貴族像になるわね!」
「ちなみに、アンナリーゼ様はどうされますか?」
「私なら……偽善と言われるかもしれないけど……ひとかけらちぎって口にほおりこみ、残りを全部
あげるかな?」
「その心を聞いても?」
「うーん、全てあげてしまうと施しをしたと、自身が傲慢な人間になりそうで怖い。なら、半分なら
公平であるのかというと、普段からお腹いっぱい食べられる私と目の前の子どもはその時点で公平
ではない。ひとかけらもあげないと言うのは、私の中には、選択肢としてなかったけど、同じパンを
分け合ったという自己満足も欲しかったから一口分だけ口に入れて、残りを全て渡す選択をしたの
だけど……宰相的には合格かしら?」
私の何気ない回答を聞いて、目を見開いている。宰相が持っている答えと違ったようだった。
それほど、難しい答えではないだろう。今、アンバーで同じことをしているのだから……
「……私には、その答えはありませんでした。一口だけ自身で食べるか……普通は、全部あげるか
あげないか。残りは、半分を渡すかしかないですよね?」
「選択肢を選ぶものでないのなら、人の数だけ考えがあるわ!それと、当ててあげましょうか?」
「どの答えを言ったかですか?」
えぇとニコリと微笑む。公子たちが、どの選択肢を選んだかは……その母親を考えればなんとなくわかる。
「公妃の子は、渡さなかっただけでなく、そうね……パンも買えないのかとバカにしたかしらね?
第二妃の子は、うーん、半分か全部かをあげたと思うのだけど……これは、どっちかしら……全部
かな?可哀想な子どもに施しをという感じ?」
「まさに、そうです。どうして、それを?」
「親を見ればわかる。公妃や第二妃の人柄そのままね。零か百かという感じ。公妃も第二妃も生粋の
貴族お嬢様だから……真ん中がないのよ。国民や領民と触れ合うことなく、小さな貴族の世界だけで
生きてきたから……」
なるほど……と呟く宰相。
「私も、その枠の中にいたようですね……アンナリーゼ様の話を聞いて、私は……宰相として、まだまだ
成長の余地がありそうです。今日は、アンナリーゼ様と話が出来たこと……これ以上ない貴重な時間
でした。私より年若いアンナリーゼ様が、私より全てにおいて深い考えをお持ちのようだ」
宰相の言葉に私は苦笑いをすると、後ろでたまらず、腹を抱えて大笑いし始めた人物がいる。
「ウィル!」
「あぁ、ごめん……姫さん。いや、じゃじゃ馬も街で遊びまわっていただけじゃないんだと思うと……
本当に……」
「何よ!私だって、貴族としての矜持は、しっかり両親から教えてもらっています!」
ウィルが、思わず笑い転げてしまったので、公爵アンナリーゼの仮面が剥がれ落ちる。
そんな様子を宰相はポカンと見ていたが、仲がよろしいのですねと微笑んでいた。
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