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公都まで道のり

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 真っ暗な中、目を覚ます。ベッドに潜ってから4時間と立っていないだろう。
 廊下にでて、ウィルが休んでいるはずの客間へと向かうと、すでに起きていたようで部屋から微かに明かりが見えた。
 コンコンっとノックをすると、どうぞと声が聞こえてくる。


「もう、行くのか?」
「準備万端の人に言われたくないわ!」
「姫さんもだろ?屋敷のものに声をかけて行かなくていいのか?」
「こんな夜中に起こすの悪いから寝る前に伝えておいたわ!裏口から出るから、そのつもりで」


 私とウィルは、静かな廊下をそぞろ歩く。
 月が西に傾き始めて結構たつのだろう。あと、何時間もしないうちに日が昇るだろう。
 そそくさと、裏口を目指すと、そこにはココナが佇んでいた。


「ココナ!待っていてくれたの?」
「はい、お見送りするのは、侍女の仕事ですから!これ、何処かで食べてください!」


 待っていてくれただけでなく、お弁当まで渡され、私とウィルはココナにそれぞれお礼をいうと、とんでもないと慌てていた。


「アンナリーゼ様、まだ、暗いですので、どうかお気をつけください。無事に公都へつくことをお祈り
 しております」
「ありがとう、ココナも私たちが出発したらゆっくり休んでちょうだい。急に来たうえに、こんな日も
 明けないうちからの出発で慌ただしくしてごめんなさいね。また、2ヶ月後に滞在することになるから、
 準備だけお願いね!」
「かしこまりました。アンナリーゼ様、いってらっしゃいませ!」
「行ってくるわ!」


 私は今もらったお弁当を持ち、レナンテのいる厩舎へと向かう。
 ここに来てから、しっかりケアをしてもらったのだろう、毛並みがツヤツヤしている。


「レナンテ、そろそろ行くわよ!」


 声をかけると、めんどくさそうに視線を送ってくるが、私の言葉を理解したのか、起きてきてくれた。


「公都までお願いね?屋敷に帰ったら休んでいいから、頑張ってね!」


 鬣を撫でると、少し甘えたようにすり寄ってくる。本当に頭の賢い馬なのだ。クビに頬擦りすると寄り添ってきた。


「いきましょうか!」


 手綱をひっぱり厩舎から出すと、ウィルの乗ってきた馬も不機嫌そうだった。


「そっちは、不機嫌そうね?」
「まぁな?こんな夜中に起こされる事なんて、有事のときしかないし、今は平和だからな。
 有事のことなんてないから……ほら、行くぞ?」


 よいしょっとと馬に跨るとゆっくり歩き出す。真っ暗なのだ、急いで歩いても仕方がない。


「姫さんさ?」
「ん?」
「公都の屋敷帰ったら、そのまま謁見の準備だろ?」
「そうね、一連の話をしないといけないから……あと、たぶんなんだけど……公妃の話をすると
 思うわ!」
「公妃の?」
「えぇ、公妃が極秘でアンバー領へ来たのは知っているわよね?」
「確か、公の場での謝罪を求めますとか言ったやつ?」


 そうそうというと、そんなこと言えるの姫さんだけだよねぇーっとウィルに軽く笑われてしまう。


「それで?なんで謁見にそんな話をするの?」
「まぁ、公にとは言っても、夜会がある大広間でそんなことすれば、どちらの立場がって話になる
 わよね?私は、それでもいいのだけど!」
「あぁ、なるほど。公の後ろ盾である姫さんの方が、公妃より上の立場ってまずいってことだろ?」


 御明察と笑うと、とんでもな話だよね……国が変なことになるわとウィルは呆れ始めた。
 レナンテたち馬のパカパカという蹄の音が街道に響く。
 しばらく無言で進んでいたのだが、ウィルなりに考えているようであった。


「しかし、公妃がアンバーまで来るって相当だよね?」
「そうなのよね……驚いたわ!公に言われて来たのだろうけど……アンバー領まで来るって……」
「あぁ、確かに。あの公妃なら、アンバー領へなんて行きたくありませんわ!って公とひと悶着あった
 だろうにな……目的の謝ることすら出来ずに帰らされてしまって……地位も地に落ちたなんて思って
 たりして!」
「ありえるわ……夫婦喧嘩の噂って聞いたことある?セバスから聞いた。文官仲間からの報告ですごい
 有名な話だって!姫さんを取り巻く愛憎劇だな?」


 勝手に取り巻かないでほしいわ!と憤慨すると、だいたいいろんなことに首を突っ込み過ぎなんだよと叱られてしまった。
 たぶん、愚痴をこぼせば、ジョージアを始め、ナタリーやセバス辺りからも同じようなことを言われるのだろう。
 私が好きで首を突っ込んでいるわけでなくて、事件や案件が私を呼ぶのだから仕方がない。
 それに、あの夫婦喧嘩はとばっちりであって、完全に巻き込まれただけであった。


「だいたいさ、姫さんが公に気に入られなかったら、こういうことにもならなかったんだし?
 どうして、あちこちに愛想ばらまいて、誑し込んで、収集つかないようになるわけ?」
「それって……私、いつも言われるけど……全くそのつもりはないよ?」
「あの金魚のフンを見てもそれをいうか?」
「それって、夜会での話?」


 そうと一言いったウィルは、渋い顔をしているように感じる。
 実際、そうなのだろう。ジョージアにもよく言われていた。
 アンナは、愛想振りまくのは禁止ねと。でも、普通にしているだけなんだけどというと姫さんのお母様直伝の夜会の華ってヤツがいつでもどこでも発動されるんだとやっかいなと愚痴を言われる始末だ。


「それで?その謁見で何話すの?」
「たぶん、謁見の最後か、夜会が始まってすぐにひっそり場を設けるからそれで許してくれっていう
 交渉があると思うのよね!」
「どっちにするつもり?一応、公の立場も考えているんだろ?」
「そうね……私的には、夜会の日に別室にて、公の前で謝ってもらえればいいわ!曲がりなりにも……
 公妃ですからね!」


 二人で馬に揺られ公都までの道を進んでいたら、日があけていく。


「いい朝焼けね!」
「はぁ、どうせなら……イイ女と見たいもんだな!」
「ウィルの目は節穴?ここにいるわよ!イイ女」
「はぁ……全く、わかってない」


 大きくため息をつかれ、私はぶすっとすると、そんなことお構いなしで朝飯食おうぜ!と馬から降りるウィル。
 私もレナンテから降り、お弁当を持って適当に座る。
 ココナが持たせてくれたお弁当を太陽が昇る様を見ながら二人並んで食べ始めるのであった。
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